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「……ありがとうございます。」
俺は改めて黒崎さんへ頭を下げた。
「助かりました。」
もし黒崎さんが声を掛けてくれなかったら、今頃どうなっていたか分からない。
身分証もない。
お金もない。
この世界のことも何も知らない。
下手をすれば、町に入ることすらできなかった。
「それに……。」
俺は少し言葉を選ぶ。
「俺のために、ここまでしてくれたんですよね。」
十八年後に来ると分かっていたとはいえ、わざわざ迎えに来てくれた。
それがどれだけありがたいことか。
黒崎さんは少しだけ目を伏せた。
「……自分でも不思議なんです。」
「何がですか?」
「葵さんのために動かなければいけない。」
「何故か、そう感じました。」
「理由は分かりません。」
「でも……そうするべきだと思いました。」
黒崎さんらしい答えだった。
多くを語らない。
でも、嘘を言っていないことだけは分かる。
「本当にありがとうございます。」
もう一度、礼を言う。
黒崎さんは小さく頷いた。
「いえ。」
少し歩いたところで、俺はふと思い出す。
「あれ?」
「そういえば……。」
「白い部屋で別れてから、そんなに時間経ってなかったですよね?」
「なのに黒崎さんは十八年……。」
「これって、かなり時間のズレがあるってことですか?」
黒崎さんは頷く。
「はい。」
「私たちは同じ場所から別々の時間へ移動したようです。」
「田中さんや源三さんも、おそらく違う時間に送られていると思います。」
「そういえば……。」
あの二人のことを思い出す。
田中さん。
そして、あの妙に元気な爺さん。
「二人とも無事だといいですね。」
黒崎さんは静かに頷いた。
「きっと大丈夫です。」
その言葉には、根拠があるようにも聞こえた。
町を歩きながら、俺は周囲を見回す。
石造りの建物。
知らない文字。
見たことのない服装。
本当に異世界なんだ。
「……。」
やばい。
少しずつ実感してきた。
「これ……。」
「本当に異世界なんですよね?」
黒崎さんを見る。
「はい。」
その返事を聞いた瞬間。
胸の奥から、妙な興奮が湧いてきた。
「冒険者ギルドとか……あります?」
黒崎さんは少しだけ首を傾げる。
「あります。」
「マジですか……。」
異世界。
冒険者。
ギルド。
魔物。
依頼。
「定番イベントじゃん……。」
思わず口元が緩む。
「まずは身分証を作るために、冒険者ギルドへ行きます。」
黒崎さんが説明してくれる。
「冒険者登録をすれば、身分証として使える冒険者証が発行されます。」
「なるほど……。」
俺は歩く速度を少しだけ速めた。
不安はまだある。
分からないことも多い。
でも――
「異世界の冒険者ギルド……。」
少しだけ期待してしまう。
「楽しみすぎるだろ。」
俺は初めて、この世界で前向きな気持ちになっていた。




