12
「ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」
叫びながら森の中を全力で駆け抜ける。
後ろから聞こえていたゴブリンの足音は、十分ほど走り続けた頃にはすっかり聞こえなくなっていた。
「はぁ……はぁ……。」
恐る恐る振り返る。
「……いない?」
辺りを見回しても、あの緑色の姿はどこにもない。
「助かった……。」
その場へ座り込み、大きく息を吐く。
「異世界一日目で死ぬかと思った……。」
しばらく休憩し、呼吸が落ち着いたところで立ち上がる。
「さて……。」
「今度こそ人がいる場所を探そう。」
再び森の中を歩き始めた。
数分ほど進むと、視界が一気に開ける。
「おっ!」
森が途切れ、その先には一本の街道が伸びていた。
さらに遠くには、高い城壁に囲まれた町が見える。
「あれ、町だよな?」
思わず足が速くなる。
「助かった……!」
「やっと人に会える!」
期待を胸に街道を進み、町の門へ向かう。
門の前には槍を持った兵士が二人立っていた。
「止まれ。」
低い声とともに、門番の一人が俺を制止する。
「身分証の提示を。」
「身分証?」
「冒険者証、市民証、商人証。どれでも構わない。」
「あと通行税として銀貨一枚だ。」
「…………。」
終わった。
財布を開く。
一万円札。
千円札。
小銭。
「これじゃ……ダメですよね?」
門番は紙幣を見て眉をひそめる。
「見たことのない紙だな。」
「身分証は?」
「ありません……。」
二人の視線が一気に鋭くなる。
「事情を説明してもらおう。」
(どうする……。)
(『異世界から来ました』なんて言ったら、頭のおかしい奴だと思われるよな……。)
冷や汗が流れる。
その時だった。
「あれ?」
後ろから声が聞こえた。
「葵さん?」
「え?」
聞き覚えのある声に、俺は振り返る。
そこに立っていたのは、一人の青年だった。
身長は百九十センチ近く。
全身を立派な銀色の鎧で包み、背中には大剣を背負っている。
鍛え抜かれた体つき。
誰が見ても歴戦の騎士だ。
そして何より、その整った顔立ちが目を引いた。
爽やかな笑顔。
優しそうな目元。
「……俺?」
思わず周囲を見回す。
他に「葵」と呼ばれそうな人物はいない。
青年は俺の反応を見て、小さく苦笑した。
「やっぱり、分かりませんよね。」
その言葉の意味が分からず、俺は首を傾げるしかなかった。




