10 異世界突入。最初の敵
眩しい光がゆっくりと収まっていく。
恐る恐る目を開けると、そこは一面の森だった。
青々と茂る木々。
鳥のさえずり。
頬を撫でる風。
土と草の匂い。
「……森?」
辺りを見回す。
さっきまであった白い部屋も黒い扉も、跡形もなく消えていた。
「マジで異世界に来ちゃったのか……。」
しばらく立ち尽くした後、ふと自分の姿を確認する。
「服は……そのままか。」
Tシャツにジーンズ。
履き慣れたスニーカー。
鏡はないが、髪を触った感じも特に変わっていない。
「耳が尖ったりもしてないし、イケメンにもなってないな。」
少しだけ期待していた自分が恥ずかしい。
「よし。」
「まずは異世界あるあるだ。」
一度咳払いをして、人差し指を前へ突き出す。
「ステータス!」
…………。
何も起こらない。
「オープン!」
…………。
無反応。
「鑑定!」
「アイテムボックス!」
「マップ!」
「スキル!」
「ヘルプ!」
「システム!」
「ログアウト!」
全部ダメだった。
「女神ぃぃぃぃぃ!!」
森に俺の叫び声だけが虚しく響く。
「一つぐらい付けといてくれてもいいじゃん……。」
肩を落としながらポケットを探る。
財布。
スマホ。
タバコ。
赤マル。
ライター。
「全部そのままか。」
財布を開く。
日本円しか入っていない。
「絶対使えないやつじゃん……。」
スマホも確認する。
当然ながら圏外。
「まあ、そうだよな。」
カメラだけは使えたので、何となく森を一枚撮ってみる。
「異世界初写真。」
画面を見ながら苦笑する。
「誰にも見せられないけど。」
スマホをしまい、赤マルを一本取り出す。
ライターで火をつけ、大きく煙を吐いた。
「……落ち着く。」
異世界に来てもタバコの味は変わらない。
少しだけ安心した。
吸い終わった吸い殻はポケットへ。
「さすがにポイ捨てはダメだよな。」
誰に言うでもなく呟き、歩き始める。
「さて。」
「人が住んでそうな所を探すか。」
十分ほど歩いただろうか。
辺りは同じような景色ばかり。
「完全に遭難してる気がする……。」
その時だった。
ガサッ。
近くの茂みが揺れた。
「……!」
熊か。
イノシシか。
身構えながら音のした方を見る。
ガサガサッ。
茂みの中から現れたのは――
身長は百四十センチほど。
緑色の肌。
尖った耳。
ボロボロの布を腰に巻き、木の棍棒を持った小柄な生き物。
「……。」
「……。」
しばらくお互いに見つめ合う。
「え?」
「……ゴブリン?」
ゲームや漫画で何度も見たことのある姿。
まさか本当にいるとは思わなかった。
ゴブリンも俺を見て首を傾げている。
数秒の沈黙。
そして――
「ギャギャァァァッ!!」
ゴブリンが棍棒を振り上げながら突っ込んできた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
俺は反射的に走り出した。
異世界最初の戦闘。
その結果は――
全力逃走だった。




