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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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27/28

御堂と黒沢

深夜。


本社最上階。


役員フロア。


照明は半分落ちている。


静かだった。


だが。


空気だけが張っていた。


黒沢は廊下を歩く。


最奥の会議室だけ、

灯りがついている。


扉を開ける。


御堂がいた。


一人だった。


モニターもない。


資料もない。


ホワイトボードだけ。


そこには、

何も書かれていない。


珍しかった。


御堂が、

言葉を置いていない。


黒沢は扉を閉める。


御堂は窓の外を見ている。


東京の灯り。


ずっと増え続けてきた街。


数秒。


沈黙。


やがて御堂が言う。


「八十六ですか」


店舗数だった。


黒沢は答える。


「はい」


御堂は小さく頷く。


「増えましたね」


静寂。


黒沢は違和感を覚える。


御堂が、

結果を口にすること自体が少ない。


御堂は続ける。


「現場はどうですか」


「熱は維持されています」


「構造も浸透しています」


「自走も始まっています」


黒沢は事実だけを答える。


御堂は黙って聞いている。


そして。


小さく笑う。


「優等生みたいな答えですね」


黒沢の目が止まる。


御堂は振り返る。


その目には、

いつもの静けさがあった。


だが。


どこか違った。


御堂は黒沢を見る。


「本当に、それでいいと思っていますか」


空気が変わる。


黒沢は答えない。


御堂は歩き出す。


ゆっくり。


会議室の中央へ。


「会社は安定した」


「壊れにくくなった」


「熱も残っている」


「理想形です」


そこまで言って。


御堂は初めて、

言葉を止める。


静寂。


そして。


低く言う。


「……つまらなくなりました」


黒沢の視線が止まる。


初めてだった。


御堂が、

感情を混ぜた。


御堂は笑っていない。


だが。


その目だけが、

どこか乾いている。


御堂は続ける。


「現場が壊れない」


「誰も潰れない」


「全部回る」


「正しい」


静寂。


「でも」


そこで初めて、

御堂の声に熱が混じる。


「熱狂というのは、

 もっと危うい」


黒沢は黙って聞いている。


御堂は歩みを止めない。


「数字が跳ねる瞬間」


「現場が限界を超える瞬間」


「人間が、自分でも理解できない速度で動き始める瞬間」


「私は、あれを知っています」


静寂。


「もう一度、見たくなる」


黒沢の目がわずかに動く。


御堂は小さく笑う。


今度は、

少しだけ自嘲が混じっていた。


「人の嵯峨ですね」


その言葉で、

黒沢は初めて理解する。


御堂は、

分かっている。


熱狂の先に何があるか。


壊れることも。


人が潰れることも。


組織が歪むことも。


全部知っている。


それでも。


戻りたくなる。


御堂は静かに言う。


「終末が来るのも分かっています」


「人が壊れるのも」


「組織が歪むのも」


「全部、見てきました」


静寂。


「それでも」


御堂は窓の外を見る。


東京の灯り。


「火が大きくなる瞬間を、

 また見たくなる」


空気が重くなる。


黒沢はそこで初めて口を開く。


「だから、止めるんですね」


御堂の目が止まる。


黒沢は続ける。


「あなた自身を」


静寂。


御堂は否定しない。


黒沢は御堂を見る。


「あなたは、

 最後まで熱狂側の人間です」


「構造を理解しても、

 熱を捨てられない」


「だから、

 組織にあなたを残せない」


空気が張る。


初めてだった。


黒沢が、

御堂を真正面から定義した。


御堂は数秒、

黒沢を見ている。


やがて。


小さく笑う。


「そこまで見えましたか」


黒沢は動かない。


御堂は窓の外を見る。


「あなたは違う」


「熱を知っている」


「飲まれたこともある」


「でも、

 戻ってこられる」


静寂。


「だから、あなたなんです」


御堂はそこで初めて、

少し疲れたように椅子へ座る。


「私は、

 最後まで火を見てしまう」


「もっと速く」


「もっと大きく」


「もっと遠くまで」


低い声だった。


そこには、

初めて人間がいた。


観測者でも。


熱源でもない。


熱狂に魅入られた、

一人の人間。


黒沢は静かに言う。


「終わらせます」


御堂は視線を上げる。


黒沢は続ける。


「熱を消さずに」


「壊れずに」


「終末が来ても、

 続いていく形にします」


静寂。


御堂はしばらく、

黒沢を見ている。


やがて。


本当に僅かに頷く。


「……それが完成形ですか」


黒沢は答えない。


御堂も続けない。


もう、

試験は終わっていた。


御堂は最後まで、

熱狂を捨てられなかった。


だから。


黒沢に、

止めさせる。


それが。


御堂が最後に作ろうとした、

組織の完成だった。


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