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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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熱源の終わり

朝。


本社。


役員フロア。


静かだった。


異様なほど。


黒沢は違和感を覚えながら歩く。


出社時間は過ぎている。


だが。


誰も騒いでいない。


東堂も。


神谷も。


相沢も。


全員、

既に何かを知っている顔だった。


会議室。


扉が開いている。


中へ入る。


長机。


モニター。


資料。


いつもの景色。


だが。


一つだけ違った。


最奥。


CEO席。


空だった。


黒沢は止まる。


その席に、

誰もいない。


神谷が静かに言う。


「今朝、連絡がありました」


机の中央。


一枚の封筒。


宛名はない。


黒沢は開く。


中には紙が一枚。


短かった。


『完成した組織に、

 私は不要です』


それだけ。


静寂。


東堂が低く言う。


「らしいな」


誰も否定しない。


黒沢は紙を見る。


違和感があった。


“別れ”ではない。


“終了”でもない。


もっと自然だった。


まるで。


役割を終えた人間が、

次の現場へ移動しただけ。


神谷が言う。


「役員権限、

 昨夜中に全部整理されていました」


「承認フローも変更済みです」


「議決権も分散されています」


相沢が続ける。


「各エリア長にも通知済みです」


「混乱はありません」


黒沢は理解する。


御堂は、

昨日決めたんじゃない。


ずっと前から、

準備していた。


東堂が笑う。


「最後まで、

 自分で回させなかったな」


静寂。


その通りだった。


御堂は最後まで、

“自分がいなくなる構造”

を作っていた。


神谷がモニターを開く。


「あと、これです」


画面。


新規事業申請。


海外法人設立。


新市場分析。


知らない案件が並んでいる。


黒沢の目が止まる。


全部、

既存事業と関係が薄い。


神谷が言う。


「昨夜、

 全部送られてきました」


「差出人は御堂さんです」


東堂が資料を見る。


「……まだ火を見に行く気か」


誰も笑わない。


黒沢だけが、

静かに画面を見る。


その時。


最後のファイルが開く。


タイトル。


『観測外』


中は短い。


『組織は完成へ向かう』


『完成した構造は、

 やがて自分を守り始める』


『だから、

 私は外へ出ます』


静寂。


『次の熱源は、

 外からしか生まれない』


黒沢はそこで初めて理解する。


御堂は、

会社を捨てたわけじゃない。


完成したから、

出ていった。


熱狂を否定できない。


だから。


完成した組織の中に、

自分を置かなかった。


御堂は最後まで、

御堂だった。


神谷が静かに言う。


「探しますか」


黒沢は少しだけ考える。


そして。


首を横に振る。


「いいえ」


静寂。


黒沢は、

空になったCEO席を見る。


そこにはもう、

不在の気配すらない。


御堂は、

最初から消える前提で、

組織を作っていた。


だから。


もう戻らない。


東堂が立ち上がる。


「で?」


昔、

御堂がよく使っていた言葉。


だが今。


意味が違う。


“次を決めろ”


だった。


黒沢はゆっくり、

ホワイトボードを見る。


そこには、

昨夜までなかった文字が残っている。


『終末の先へ』


黒沢はその言葉を見る。


数秒。


やがて。


静かに口を開く。


「始めましょう」


誰も、

御堂を見なかった。


もう。


この組織は、

前へ進める。


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