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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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26/28

不在の会議

三年後。


会社は、

急成長企業とは呼ばれなくなっていた。


全国八十六店舗。


社員数。


アルバイト比率。


離職率。


利益率。


どれも業界上位。


だが。


誰も“奇跡”とは言わない。


以前のような、

爆発的な熱狂ではない。


もっと静かなものだった。


朝。


池袋店。


開店前。


バックヤードでは、

新人スタッフが壁の図を書き換えている。


査定滞留。


再配置。


導線変更。


簡単な矢印だけ。


だが、

誰も違和感を持たない。


店長が確認する。


「そこ、夕方詰まるぞ」


新人は頷く。


「昨日止まりました」


「だから分離します」


自然だった。


指示ではない。


改善が、

現場の呼吸になっている。


東堂が店に入る。


以前のような緊張は走らない。


だが。


空気だけは締まる。


東堂は現場を一周見る。


数秒。


「悪くない」


それだけ。


新人スタッフは、

すぐ壁を書き直し始める。


誰も止まらない。


熱が、

怒号ではなくなっていた。


昼。


札幌店。


バックヤード。


若いエリア長が、

別店舗と通話している。


「その導線、池袋式ですよね?」


『いや、仙台側で変えました』


「査定戻り?」


『違う。応援導線』


笑い声。


自然だった。


本部承認はない。


だが。


勝手に構造化が広がっている。


神谷はモニター越しに、

その会話を見ていた。


小さく言う。


「止まらなくなりましたね」


黒沢は隣で頷く。


三年前。


改善は本部主導だった。


今は違う。


現場側から、

勝手に始まる。


しかも。


熱量が落ちていない。


むしろ。


以前より長く燃えている。


神谷が言う。


「離職率、また下がりました」


「エリア間応援も減ってます」


「新人定着率も高い」


数字だけなら、

理想だった。


だが黒沢は、

別のものを見ていた。


モニター端。


現場改善提案数。


月間二百七十八件。


三年前の、

六倍。


しかも。


その七割以上が、

現場発信。


黒沢は静かに言う。


「熱が構造に乗った」


神谷は少し笑う。


「ようやくですね」


夕方。


本社。


役員会議。


東堂。


神谷。


相沢。


各エリア責任者。


そして。


空席。


会議室最奥。


CEO席だけが、

最初から空いていた。


誰も触れない。


誰も待たない。


以前なら。


御堂が来るまで、

会議は始まらなかった。


空気すら動かなかった。


だが今。


東堂が資料を開く。


「始めるぞ」


それだけ。


誰も異論を挟まない。


会議は動き出す。


問題提起。


分解。


再配置。


判断。


決定。


止まらない。


以前のように、

御堂の空気を待つ人間はいない。


それでも進む。


相沢が資料を閉じる。


「新規エリア、問題ありません」


東堂が言う。


「地方側も熱落ちてない」


神谷が続ける。


「現場改善、自走しています」


静寂。


会議室正面の大型モニター。


そこに、

遅れて映像が入る。


別室。


薄暗い部屋。


御堂が座っていた。


誰も反応しない。


視線すら向けない。


御堂も何も言わない。


ただ、

会議室を見ている。


存在感を示す必要が、

もうなかった。


この組織は、

既に御堂がいなくても動く。


その時。


一人のエリア責任者が言う。


「関西側、来期でさらに六店舗いけます」


別の責任者が続ける。


「人材育成も追いついています」


神谷が資料を見る。


「構造上は可能です」


東堂は腕を組む。


「現場も回るな」


自然に。


全員の視線が、

黒沢へ向く。


モニターの御堂ではない。


黒沢だった。


静寂。


黒沢はゆっくり口を開く。


「拡大は可能です」


神谷が視線を上げる。


黒沢は続ける。


「ただし、店舗数じゃなく」


「熱源密度を基準にします」


空気が変わる。


東堂の目が止まる。


相沢が資料を閉じる。


黒沢はモニターを見る。


「構造は浸透しています」


「でも、浸透だけでは足りない」


「構造化を始める人間がいるか」


「その地域で熱が増殖しているか」


「そこを基準にするべきです」


静寂。


誰も否定しない。


神谷が静かに言う。


「……つまり、出店基準を変える」


黒沢は頷く。


「はい」


「店ではなく、“状態”を増やします」


その瞬間。


会議室の空気が変わる。


決まった。


誰も、

御堂に確認を取らない。


御堂も何も言わない。


ただ、

画面越しに見ている。


静かに。


まるで。


自分がもう、

“存在感で組織を動かす必要”

がなくなったことを、

確認するように。


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