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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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18/28

十年後を回す

午後九時


全社司令室


会議室の空気は重かった。


現場責任者たちが集められている。


渋谷


池袋


横浜


新宿西口


各エリア長


全員、現場帰りだった。


そして。


今日は珍しく、

相沢も同席していた。


人事責任者


普段は現場会議に出ない。


その相沢がいる。


それだけで、

空気が少し違っていた。


現場責任者たちも気づいている。


これは単なる運営会議ではない。


黒沢は、その視線を正面から受ける。


相沢はノートPCを開き、

静かに資料を確認していた。


疲れている。


だが、目だけは鋭い。


東堂は最後に入ってきた。


「すみません、遅れました」


言いながら席には座らない。


壁際に立つ。


完全に現場の空気だった。


会議室より、

店舗にいる時の方が自然な人間。


東堂の視線が、一瞬だけ相沢へ向く。


それだけで、黒沢は理解する。


東堂は相沢を評価している。


現場ではない。


バックオフィス。


しかし、採用を、本気で回している人間だと理解している。


東堂は知っている。


今の出店速度を支えているのは、

相沢の採用だからだ。


黒沢は資料を映す。


離職率


採用推移


高稼働者離脱率


会議室の空気が少し変わる。


渋谷エリア長が眉をひそめる。


「これ、人事データですか?」


相沢が答える。


「はい」


短い返答。


現場責任者たちの視線が変わる。


人事がここまで出してくるとは、

思っていなかった。


黒沢は続ける。


「現在の出店計画を維持した場合」


「三年以内に、採用数より離職数が上回ります」


横浜エリア長が即座に返す。


「でも今、採れてますよね?」


強い口調


現場側の感覚だった。


相沢が静かに口を開く。


「今は、です」


会議室が静かになる。


その一言の重みを、東堂は理解していた。


相沢は弱音を吐く人間じゃない。


数字を理由に、出店を止めろと言う人間でもない。


むしろ逆だ。


限界まで採用を取りに行く人間。


御堂に惚れ込み、


市場を勝ち抜けると信じ、


誰より採用を伸ばそうとしてきた。


その相沢が、「今は」と言った。


東堂の視線が、少しだけ変わる。


相沢は画面を切り替える。


応募単価推移


媒体費


辞退率


採用成功率


全部、悪化していた。


「採用市場が変わっています」


「人が余っていた時代は終わりました」


「今後は、採るだけでもコストが跳ね上がります」


現場責任者たちが黙る。


相沢は続ける。


「そして」


「高稼働店舗ほど、離職率が高い」


空気が止まる。


池袋エリア長が低く言う。


「……数字だけで現場は分からないですよ」


黒沢は否定しない。


「そうです」


「だから皆さんに確認したい」


黒沢はホワイトボードへ向かう。


『三年後』


そう書く。


「三年後も、この出店速度を維持できますか」


誰もすぐには答えない。


東堂だけが、

腕を組んだまま黒沢を見ていた。


黒沢は続ける。


「今回、佐伯さんが倒れました」


「ですが店舗は崩れなかった」


「なぜか」


渋谷エリア長が答える。


「応援を入れたからです」


「各エリアで補完した」


黒沢は頷く。


「そうです」


「この会社は強い」


「有事対応能力が高い」


「皆さんが現場を理解しているからです」


そこまでは、全員が納得していた。


黒沢は次の資料を映す。


エリア長稼働時間


連続勤務


月間応援回数


会議室が静まり返る。


異常だった。


東堂クラスの稼働が、複数人いる。


相沢が静かに言う。


「これ、かなり危険な状態です」


「今は気合いで埋めていますけど」


「この状態が続くと、次はエリア責任者側が崩れます」


誰も笑わない。


冗談に聞こえないからだ。


東堂も、否定しない。


黒沢は、その沈黙を見る。


東堂は、相沢の言葉を軽く扱わない。


採用の現実を、誰より知っているからだ。


人が採れなければ、現場は終わる。


相沢の「限界」が、東堂には現実として刺さる。


黒沢は静かに言う。


「現場を回すことは大事です」


「でも」


「責任者は、今日だけを回してはいけない」


会議室が静かになる。


黒沢はホワイトボードを見る。


「運営は、目の前を回す仕事です」


「ですが」


「責任者は、未来を見据える必要がある」


東堂が視線を上げる。


黒沢は続ける。


「三年後」


「五年後」


「十年後」


「そこまで回り続ける構造を作る」


「それが、責任者の仕事です」


誰も動かない。


空気だけが変わっていた。


今までは、今日を回す会議だった。


売上


人員


店舗


欠員


クレーム


全部、“今”の話だった。


黒沢は初めて、未来の話をしている。


東堂は黙っていた。


その表情は読めない。


だが、否定もしない。


黒沢は理解する。


東堂は今、初めて考えている。


自分が回しているこの熱を。


どうすれば、

十年後まで回し続けられるのかを。

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