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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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19/28

東堂の怖さ

会議が終わったのは、

午後十一時を回っていた。


現場責任者たちは、

重い空気のまま席を立つ。


だが、誰一人、黒沢の話を否定しなかった。


それが逆に、黒沢には印象的だった。


東堂も、最後まで何も言わなかった。


ただ、会議室を出る瞬間。


一度だけ、ホワイトボードを見た。


『三年後』


『五年後』


『十年後』


その文字を。


翌朝


池袋店


開店前


異様な光景だった。


現場責任者が揃っている。


渋谷エリア長


横浜エリア長


新宿西口責任者


普段なら、

それぞれ自店舗にいる人間たち。


全員、池袋店に入っていた。


バックヤードでは、

既に査定品の仕分けが始まっている。


横浜エリア長が、

無言でブランド棚を整理する。


渋谷エリア長は、

新人スタッフへ査定基準を説明していた。


新宿西口責任者は、

深夜帯の引き継ぎノートを書き直している。


誰も偉そうにしない。


むしろ逆だった。


一番動いている。


一番声を出している。


一番早く現場に入っている。


黒沢は黙って見ていた。


これが、この会社の強さだった。


有事になると、責任者が現場へ降りる。


ただの管理ではない。


普通に接客し。


普通に査定し。


普通に売場を回す。


全員、現場を知っている。


だから崩れない。


東堂が現場中央で声を飛ばす。


「査定五件溜めるな!」


「SNS返信、十分以内!」


「新人、一人にするな!」


反応が速い。


各責任者が、即座に動く。


阿吽だった。


長年、東堂の下で回してきた人間たち。


何を優先し。


どこを見るべきか。


身体で理解している。


東堂が歩く。


その後ろを、

自然とエリア長たちが追う。


指示を待っているわけじゃない。


東堂の視線を見ている。


どこを見て。


何を気にし。


何を修正するのか。


それを学んでいる。


黒沢は理解する。


この会社の責任者たちは、

会議室で育っていない。


現場で育っている。


東堂の背中を見て。


東堂の速度を見て。


東堂の熱を見て。


そうやって、ここまで来た。


だから強い。


そして同時に。


同じ壊れ方をする危険もある。


東堂がスタッフを集める。


「いいか」


「この会社、まだデカくなる」


全員が東堂を見る。


「三年後」


「五年後」


「十年後」


「その時、店を回せる人間になれ」


静まり返る。


東堂は続ける。


「今のままだと」


「強いやつが倒れた瞬間に終わる」


佐伯のことだった。


誰も口にはしない。


だが、全員、理解している。


東堂は壁に貼られたシフト表を見る。


「だから育てる」


「属人化を潰す」


「次の責任者を作る」


その声は強い。


命令ではない。


現場を引っ張る人間の声だった。


その横で、各エリア長たちも動いていた。


渋谷エリア長は、

新人教育表を書き直している。


横浜エリア長は、

査定フローを言語化していた。


新宿西口責任者は、

深夜帯の権限整理を始めている。


誰も、東堂の指示を待っていない。


自分で考え。


自分で動いている。


しかし、軸は同じだった。


東堂を見ている。


東堂が、どこを見て動いているか。


何を重視しているか。


どう現場を回しているか。


ずっと横で見続けてきた。


だから、東堂が変わると、

現場責任者たちも変わる。


黒沢は理解する。


この会社のエリア長たちは、

ただの管理者じゃない。


東堂の背中を見て育った人間たちだ。


そして、同じ熱を持っている。


東堂が振り返る。


「黒沢さん」


黒沢を見る。


「これ」


「面白くなってきましたね」


目が笑っていた。


疲労の色はある。


だが、熱は消えていない。


むしろ、未来を見たことで、

さらに燃え始めている。


黒沢はそこで初めて理解する。


東堂は、変われる。


熱だけの人間じゃない。


未来を理解した瞬間、

組織そのものを変え始める。


それが、この男の恐ろしさだった。



本社


全社司令室


黒沢が戻ると、

神谷が待っていた。


「御堂さんが呼んでます」


短い言葉


黒沢は少しだけ視線を動かす。


神谷は続ける。


「昨日の会議」


「見てたと思いますよ」


黒沢は答えない。


十分、理解していた。


昨日の会議も。


今日の東堂も。


全部、御堂は見ている。


黒沢は静かに廊下を歩く。


最奥


社長室


扉の前で止まる。


ノック


「どうぞ」


静かな声


黒沢は扉を開ける。


御堂は一人、

窓際に立っていた。


夜景を見ている。


振り返らない。


数秒の沈黙。


やがて、御堂が静かに言う。


「東堂は、動きましたか」


黒沢は答える。


「はい」


「現場改善を始めています」


御堂は何も言わない。


否定も。


評価も。


ただ、

沈黙だけが続く。


黒沢は理解する。


まだ足りない。


東堂が変わることなど、

御堂にとっては想定内だ。


東堂は、

そういう人間だから。


御堂が見ているのは、

もっと先だった。


東堂の次


現場の次


この会社を、

次のフェーズへ進められるか。


その視線が、

黒沢へ向いている。


だが、御堂は直接言わない。


代わりに、静かに口を開く。


「神谷は、どう見えますか」


黒沢の視線が止まる。


御堂は窓の外を見たまま。


声色も変わらない。


黒沢は理解する。


試されている。


東堂は動いた。


では次に、神谷をどう動かすのか。


お前は、

いつまでにこの会社を次の段階へ持っていくのか。


その問いだけが。


言葉にされないまま、

黒沢へ向けられていた。


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