表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/28

崩壊の前兆

東堂は答えなかった。


いや。


答えられなかった。


会議室の空気が、わずかに軋む。


黒沢は初めて見た。


東堂が、言葉を探している。


御堂は続けない。


責めない。


怒鳴らない。


ただ、待っている。


その沈黙の方が、重かった。


東堂が口を開く。


「現場負荷は把握していました」


「池袋は売上も高い。佐伯自身も――」


御堂が遮る。


「違います」


静かな声。


だが、一瞬で会議室が冷える。


「数字の話ではない」


御堂は東堂を見る。


「あなたは、佐伯を見ていましたか?」


黒沢は黙っていた。


だが。


予測はできていた。


佐伯は限界だった。


深夜帯。


人員不足。


売上維持。


異常な稼働。


減っていく報告。


それでも落ちない数字。


壊れる人間としては、

むしろ分かりやすい部類だった。


東堂は優秀だ。


誰より数字を追える。


誰より店舗を回せる。


だからこそ。


壊れる直前まで回せてしまう。


御堂は続ける。


「壊れる人間は、急には壊れません」


「必ずノイズが出る」


黒沢は視線を落とす。


その言葉は、

東堂だけに向けられていない。


自分にも向いている。


御堂は気づいている。


黒沢が見えていたことを。


そして。


見えていながら、

動かなかったことも。


「声量」


「返信速度」


「立ち方」


「笑う回数」


「報告の温度」


御堂はそこで一度止まる。


「異常に明るくなる人間もいます」


神谷が小さく息を吐いた。


相沢は黙ったままだった。


東堂だけが、

正面から受け続けていた。


「あなたは管理している」


御堂が言う。


「でも、見ていない」


その瞬間。


東堂の拳が、

机の下でわずかに握られた。


神谷が口を開く。


「池袋は先月から深夜帯が崩れていました」


東堂が神谷を見る。


神谷は続ける。


「佐伯さんへの依存が強すぎた」


「報告も減っていた」


「ただ、売上は落ちなかった」


御堂が頷く。


「だから、見えなくなる」


黒沢は理解していた。


この会社は、

数字だけで動いていない。


もっと危険なもの。


“熱”。


御堂は、その熱を見ている。


東堂は、その熱を燃やしている。


神谷は、その先にある崩壊を見ている。


そして。


黒沢は。


その全部を観測している。


会議室に沈黙が落ちる。


その時だった。


御堂が黒沢を見る。


真正面から視線が合う。


静かな目だった。


だが。


その奥に、

わずかな苛立ちがある。


黒沢は気づく。


見えていたなら。


なぜ動かなかった。


御堂は、

そう言っている。


だが。


直接は言わない。


「黒沢さん」


その呼び方だけで、

空気が変わる。


「見えていましたか?」


会議室の全員の視線が集まる。


東堂


神谷


相沢


各責任者


黒沢は数秒だけ黙る。


試されている。


それは分かっていた。


正解を答える場ではない。


どこまで見えていたか。


そして。


見えていて、

何をしなかったか。


御堂はそこを見ている。


黒沢は静かに答える。


「……兆候はありました」


東堂の視線が動く。


「ただ」


「止められる状態ではなかったと思っています」


御堂は何も言わない。


黒沢は続ける。


「この会社は」


「限界まで回した人間を、高く評価する」


「結果として」


「異常な頑張りが、正しさに変わる」


空気が止まる。


相沢が視線を落とした。


東堂は何も言わない。


神谷だけが、

静かに黒沢を見ている。


黒沢は理解していた。


これが御堂のやり方だ。


直接は言わない。


命令もしない。


だが。


“見られている”


その感覚だけを残す。


東堂の拳は、

まだ開かれていなかった。


相沢は腕を組んだまま、

一度も顔を上げない。


神谷だけが、

御堂を見ていた。


その結果。


社員は、

自分で限界を超え始める。


御堂は静かに黒沢を見る。


怒っているわけではない。


だが。


問い続けている。


見えていたのに。


なぜ動かなかった。


その言葉だけを。


口にせずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ