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壊れながら成長する組織 ― これは普通の会社の話じゃない!  作者: 御堂 仁


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13/28

臨界

朝九時


本社会議室

珍しく、主要メンバーが全員揃っていた。


東堂

神谷

相沢

各エリア責任者


そして、御堂。


黒沢は初めて、

その男を正面から見ていた。

静かな男だった。

声も低い。

仕草も小さい。

だが、空気だけが違う。


誰も逆らわない、ではない。

誰も、

“逆らう発想を持っていない”。

それが一番近かった。


御堂は資料を見ている。

店舗数推移

売上

出店計画

淡々とページをめくる。


その間、誰も喋らない。

沈黙ではない。

“待機”だった。

黒沢はそこで気づく。

この会社は、

御堂が喋る前に動いている。


東堂が口を開く。

「新宿西口、月末でレコードいきます」

御堂は顔を上げない。

「何が要因?」

「SNS導線です。

「レビュー返信速度も改善しました」


「人は?」

東堂が少しだけ止まる。

「……回してます」

御堂はそこで初めて顔を上げた。

一瞬だけ。

その視線が東堂に向く。

「“回してる”は数字じゃない」

東堂の背筋が、わずかに伸びる。

「失礼しました。人件費率9.8。増加0.3%程です」

御堂は頷く。

「なら問題ない」

たったそれだけだった。


だが、東堂の空気が変わる。

張り詰めていたものが、少しだけ緩む。


黒沢は黙って見ていた。

承認。

たった一言で、東堂はさらに動ける。

神谷が小さく息を吐いた。

その横顔だけが、少し冷静だった。


御堂はページをめくる。

「町田店」

空気が止まる。

退職した店長の店舗だった。

東堂がすぐに答える。

「代行入れてます。」

「数字は維持してます」

「原因は?」

「本人の問題です」

即答。

黒沢は無意識に東堂を見た。

東堂は迷っていない。


御堂は数秒だけ黙る。

その沈黙が、異様に長く感じた。


「そう」

それだけ。


会議が再び動き始める。

黒沢は違和感を覚えていた。

短すぎる。

確認もしない。

叱責もしない。

まるで。

“既に知っていた”みたいだった。


その時だった。

東堂のスマホが震えた。

画面を見る。

一瞬だけ、東堂の表情が変わる。

通話に出る。

「はい」

東堂の声が止まる。

会議室の空気が、わずかに変わる。


「佐伯が?」

沈黙

受話口からの声だけが、東堂に入っていく。

やがて東堂が言う。

「状況は」

「意識は?」

「救急は?」

短い応答が続く。

東堂は一度だけ目を閉じる。

そして通話を切る。

会議室に戻る視線は、すでに冷えていた。

「池袋店」

その一言で全員が理解する。


東堂は続ける。

「佐伯が倒れた。意識不明の状態だ」

空気が止まる。

相沢がつぶやく。

「意識不明……」

神谷は何も言わない。

黒沢はその瞬間だけ、違和感を感じる。

“意識不明”。その言葉の重さ。


空気が一段重くなる。

黒沢の中で線が繋がる。

事故ではない。再発でもない。循環だ。

その時だった。

御堂が初めて口を開いた。


静かな声だった。

「佐伯」

空気が止まる。

御堂は続ける。

「前回から何が変わった?」

誰も答えない。

東堂が一瞬だけ迷う。

「復帰後は問題なく稼働していました」

御堂は一瞬黙る。

そして、一言だけ残す


「東堂、お前、見えてるか?」

東堂の表情が、初めて揺れた。

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