残響
町田店の店長退職から三日後
REVERSEの数字は、落ちていなかった。
むしろ伸びている。
町田店
前週比プラス7.2%。
レビュー数増加
SNS流入増加
買取件数増加
黒沢は画面を見たまま動かなかった。
店長が消えても、店は回る。
いや、回ってしまう。
その事実が、
黒沢には妙に重かった。
引継ぎ担当欄
『東堂エリアにて一時吸収対応』
黒沢は小さく眉を動かす。
また東堂か。
人が壊れた穴を、別の熱量で埋めている。
数字だけなら完璧だった。
その時。
会議室のドアが開く。
神谷だった。
缶コーヒーを一本、黒沢の机に置く。
「ずっと見てますね」
黒沢は視線を動かさない。
「見えてきました」
神谷は黒沢のモニターを見る。
町田店
離職履歴
ランキング推移
店長変更時期
数秒だけ眺めて、静かに言った。
「壊れてると思ってます?」
黒沢は即答した。
「思ってます」
「この会社は、熱量で無理やり走ってる」
「だから上位者から壊れる」
神谷は椅子に座る。
「でも数字は伸びてる」
「それは東堂さんたちが、無理やり回してるからです」
神谷は少しだけ首を傾けた。
「じゃあ質問です」
黒沢が初めて神谷を見る。
神谷は続けた。
「その状態、何年続いてます?」
黒沢は答えない。
神谷は画面を指差す。
「設立七年。四十八店舗。年商七十四億」
「しかも毎年伸びてる」
「“無理やり”だけで、そこまで行けます?」
黒沢は黙る。
神谷は淡々と続ける。
「東堂さん、何年目です?」
「……創業初期からです」
「壊れてないですよね」
黒沢は反射的に言った。
「まだです」
神谷はそこで初めて少し笑った。
「その“まだ”、黒沢さんの願望入ってません?」
空気が止まる。
黒沢は言葉を返せなかった。
神谷は責めていない。
ただ、確認していた。
見えているものと、決めつけているものを。
神谷は再び画面を見る。
「確かに、離職率は上がってます」
「でも同時に、売上も利益も伸びてる」
「つまりREVERSEは、“壊れながら伸びてる”んじゃない」
そこで言葉を切る。
黒沢は無意識に続きを待っていた。
神谷は静かに言う。
「“壊れる人間を入れ替えながら、伸び続けてる”んです」
黒沢の視線が止まる。
神谷はさらに続けた。
「黒沢さん、人を見てますよね」
「辞めた人間。疲弊した店長。燃え尽きた社員」
「でも御堂さんは、そこだけを見てない」
神谷はランキング一覧を開く。
新しい名前
新しい店長
新しい上位者
次のエース候補
「供給が止まってないんです」
黒沢はそこで、初めて気づく。
自分は、壊れる側ばかりを見ていた。
だがこの会社は、同時に“補充”している。
しかも異常な速度で。
神谷は缶コーヒーを開ける。
「REVERSEの怖さって、壊れることじゃないんですよ」
「壊れても、前に進めることです」
会議室の外から、
東堂の笑い声が聞こえる。
誰かを褒めていた。
その周囲で、
スタッフたちも笑っている。
熱量
速度
上昇
完璧だった。
黒沢はその声を聞きながら、
小さく呟く。
「……止まる必要がないのか」
神谷は否定しない。
「少なくとも御堂さんは、そう考えてます」
その瞬間
黒沢のPCに通知が表示される。
『新宿西口店 売上レコード更新』
送信者 東堂
メッセージは短い。
『まだ上がる』
黒沢はその文章を見たまま、
しばらく動かなかった。
熱狂は、まだ終わっていない。
そして黒沢は初めて理解する。
自分は、“崩壊の始まり”を見ていた。
だが御堂は、
“壊れても進み続ける構造”そのものを作っていた。




