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猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

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五話 意外性のある作戦会議

「ほう、知り合いだったのか。」


「そういうわけではないが...依頼人といったところか。」


 驚いた表情で立ち尽くすレオ。それは名前を知られていたことと、この戦いの英雄とも言える存在が目の前にいたからでもあった。

 だが依頼人という言葉には思わず聞き返す。


「依頼人ですか?」


「ああ。...ミー?」


「みゃあ、説明せずに連れてきたからにゃ。」


 ミーがレオを選んだのはグランツァ侯のところへ向かえる権力があり、顎で使えそうな人物を選んでいたからだ。

 その点レオは絶望的な状況が一変したことに対して頭が追いついていないところがあり、呆然と過ごしていたところをミーに連れ出されたのである。


「それでは初めから話そうか。といってもそれほど多くを語れるわけではないが。」


 そう言って足を組み直そうと動かすと迷惑そうにミーが起き上がる。


「失礼、それは我々が聞いてもいい話ですかな?」


 依頼人などという言葉が聞こえた以上、気にはなるが尋ねておかねばならない。そしてその誠実さが、アカネがこの話を持ちかけるのにグランツァ侯爵を選んだ理由でもある。

 グランツァ侯爵の部屋でレオと会話をしたのは、アカネにも思惑があってのことだった。


「むしろグランツァ侯には是非聞いておいていただきたい。」


「ほうほう、それは...」


 突然こちらが関係しているようなことを匂わされて狼狽えるが、言葉だけで動きには出さない。平然としているようだが聞きたいような聞きたくないようなという気持ちだ。


「まず、ミーの報告から考えても、近いうちにもう一度ゴブリンが侵攻しに来るでしょう。」


「考えたくないことだが、その可能性は高いだろうな。」


 グランツァ侯は思わず頭を抱えたくなるが、紅茶のカップを手に取ることで抑える。一度の侵攻でも頭の痛くなる被害が起こるのだ。次を耐えられるかどうかというところも含め今すぐにでも部下たちと会議を行いたいが、仮に次が起こるのであれば確実に鍵となるアカネの話は聞いておくべきだと判断した。


「...と、そういえばミーの報告をきちんとは聞いていなかったな。」


「んにゃ。」


突然名前を呼ばれ慌てて茶菓子を食べる手を止める。


「ん、ごほん。えーっと、まず数だけで言うなら今回侵攻しにきた以上の規模は残っていたにゃんね。」


 信じ難いことだが、これは既にその可能性を考えていることでもあった。全軍で侵略しにきたのではない限り、まだ群れには残りがいるはずだ。最後に現れたゴブリンが長であればあとは残党を狩るだけで、組織的な侵攻も多少は崩しやすい可能性も考えられるが...


「もし拠点まで偵察できたら多少は妨害でもしようと思ってたにゃんけど、そんなことできる隙がなかったのにゃん。」


「ミー殿でも偵察できぬ拠点とは...」


 これはある意味、群れが残っていることよりも驚きである。時にあらゆる情報をすっぱ抜いた上で敵に最後まで偵察されたことを知られずに終わる戦いもあるほどのミーの偵察能力を理解しているからこそ、たかがゴブリンの拠点とは思えなくなる。


「あれは多分、ゴブリンシーフの上位種にゃね。」


 魔物であっても社会を築く以上、兵士にも職種がある。その理由まではわかっていないが、小さな群れでは見つからないことから単純に数が増えることで一芸に秀でる者が現れるようになるのか、リーダー格が意図して職種を分けているなど、いくつかの仮説は立てられている。


「そうか。それは大変だったな。」


「大変なんてもんじゃにゃかったにゃ!」


だからもっと食べるにゃんとぱくぱく平らげると傍に立つメイドにおかわりまでせびっている。


「それで単刀直入にお尋ねしますが、次の侵攻を耐える可能性はどの程度あると考えていますか。」


 直球の質問に考え込む。耐えられると言えばでは私の力はいりませんねと、そんなことを言う者ではないとわかってはいるが、力を抜かれるだけでも被害の数がかなり変わってくる。しかし耐えられる自信がないと言えば貴族として、この街を守るものとしてのプライドに関わる。


「むしろ金将殿にお聞きしたいところだ。サウターフィリアの英雄として、蒼龍の侵攻を食い止めた者として、この街は耐えられると思うか?」


 なのであえてアカネに委ねる。自分が言うことと全く同じであったとしても、アカネが発言したことであればアカネの責任となる。信頼しているとは言え自らの部下に口の軽い、あるいは口を割らされるトラップに引っかかる愚か者がいる可能性はある。その際に不利な状況に立たされないようにと言う政治的な判断であった。

 まあ実際のところ、自信はともかく実際にどうかという軍事的なことについては自分よりも軍に近いアカネの方がわかるだろうと言う判断もあったが。


「正直厳しいだろう。人間もそうだがポーションや武器が連戦に耐えられるほど残っていないはずだ。」


 そしてそれは正しかった。ここは王都に近く、今までこうして魔物による侵攻を受けたことはほとんどない。そのため常識的な量の備蓄はあったが、激しい戦いを二度繰り返しても耐えられるほどの量はなかった。盗賊団相手であれば常識的な量で足り、他国の侵略であれば王都にしがらみなく援軍を要請できるため、これほどの規模の魔物の群れが、それも二度も侵攻に来るというイレギュラーがなければ問題にはならなかったのだ。

 

「そうかもしれんな。...今更それを悔いても仕方ないか。」


「耳の痛い話でも誠実に受け止められるところがグランツァをここまで導いたのでしょう。」


 受け入れるための時間を取るために紅茶に手を伸ばす。時間が経ちぬるくなってしまってはいたが、王国最大の貿易港だけあって高品質な茶葉を利用しているとわかる。


「それでこれからの方針ですが、こちらから向かおうと考えています。」


「こちらから拠点に乗り込むというのか?それはミー殿でさえできなかったことでは?」


「いえ、乗り込むのは拠点ではありません。」


 怪訝な顔で聞き返すグランツァ侯だが、流石のアカネでもそれほど単純な策を取るつもりはなかった。ミーでも入れなかった敵の拠点に突入するのであれば、かなりの消耗をすることになりイレギュラーに対応できるか怪しい。それよりも、こちらにとっても得である方法がある。


「乗り込むのは出陣している状態の敵陣です。」


「...暗殺を狙うのか。しかし、それでは拠点に乗り込むのと変わらないのだろう?」


 アカネは首を振って答える。


「いえ、敵の戦力はグランツァ軍に引き付けていただきます。」


「なるほど、それで耐えられるかという話か。」


 敵の戦力をグランツァに十分に引き付けた上での突入であれば、群れの長に辿り着くまでの障害は少なくなる。


「そういうことであれば、どれだけ早期に決着をつけられるかが重要になりそうだ。」


「そこでご提案があります。」


 かしこまって言う姿に若干嫌な予感はしつつも、ここまで聞いて断るわけにもいかない。


「アグリ商会から物資を購入していただきたい。」


「アグリ商会?王都のそれほど規模の大きくない商会だな...」


「アカネ殿、それは!」


 アグリの名前が出たことでそれまで聞き役に徹していたレオも口を挟む。それは完全にアカネの力によってアグリ商会、ひいてはエレンに便宜をはかることに対する後ろめたさもあった。


「ん?なぜそこでお主が反応する?」


 しかしそのことを知らないグランツァ侯爵からすれば突然口を挟んできたことに驚くばかりである。


「...結論から先にお話ししましょう。このレオは私とミーと共に長の討伐に向かいます。」




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