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猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

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2/20

二話 エレンの依頼

 活気に溢れた王都の少し薄暗い路地の中に人影が二つ。

 先を歩く元気の良い少女は慣れた足取りで込み入った道を進んでいく。

 その後ろからもう一人の少女が手を引かれてやって来る。前を歩く少女とは違い不安げな足取りでチラチラと周囲を見渡している。

 

 「ね、ねぇ、ミー。本当にこの道であっているの?」


 「もちのろんにゃ。ここを曲がったら...あそこにゃ!」

 

 猫の手が指した先には、言われなければ気づかないような小さな看板が下がっていた。

 多分エレンが想像していたのとは違うんだろうにゃと、隣でポカンと呆けている少女を見て思う。

 薄汚れた木の扉をドカンと開けると、その外見からは想像のつかない綺麗で新しい内装が現れた。

 しかし何より目につくのは、正面のテーブルで豪快にジョッキを煽る金髪の女性である。

 

 「アカネ!お客様にゃ!」


 「ひぃ。」


 アカネの見た目はちょびっとばかし刺激が強いのにゃ。

 にゃから温室育ちのお嬢様が悲鳴をあげても仕方にゃいのだけど、見た目とは裏腹に繊細だから多分少し凹んでるにゃね。

 しょうがにゃいからミーが取り持ってあげるにゃ。 


 「昨日言ってた女の子にゃ。」


 そう言葉で思い至ったのかポンと手を叩きエレンのことを観察し始める。


 「にゃー...」


 そのことが更にエレンを縮こませているのだが、あの様子だと気付いてにゃいらしいにゃ。

 なんとかしてこっちに注目を集めようとぴょーんと大きな身振り手振りで視線を誘導する。

 

 「それでにゃ、今その相手がいるのがグランツァらしいのにゃ。」


 「ほう、あそこか。」


 王都の南に存在するグランツァは湾岸都市であり、王都と近いその立地から王都と遠く離れた諸地方を結ぶ貿易の拠点として栄えている。

 ミーとアカネも以前に行ったことがあり、非常に興味深かったのを覚えている。

 新鮮な海鮮料理に、貿易港なだけあって各地からやって来る名産品をしかも王都より安い値段で食べれるのだ。

 ...思い出すだけでお腹が空くにゃ。

 アカネも頭の中で何を食べるか決めているみたいにゃが、突如きりっと此方を向いた。


 「改めまして、自己紹介をさせて頂こう。私はアカネ。君の抱えているような問題の解決を生業にしている。」

 

 アカネは椅子から立ってエレンに手を差し出した。

 平均的な体躯と比べるとかなり大きいアカネと並ぶとエレンも小さく見えてしまう。

 エレンは顎を上げてアカネの目をしっかりと見た後、ぎゅっと手を握った。


 「そしてミーはその手伝いをしてるのにゃ。」


 忘れないでにゃと二人が握っている手を上からぶんぶんと振る。

 

 「私はアグリ家のエレンと申します。ミーから紹介されて仕事をお願いにきました。」

 

 二人はしばらく見つめ合った後部屋の中央にあるテーブルに向かう。多分、仕事の話を詰めていくんだろうにゃ。

 となるとミーはその間にグランツァに向かう為の準備を進めておくのにゃ。こういうのは段取りが大事なのにゃ!

 といっても、いつ旅に出ても良いように荷物は纏めてあるんだけどニャ。

 とととと軽快な音を立てて木の階段を駆け上がると、長い廊下と幾つかの扉が視界に入る。

 えーと、荷物はあの部屋にあるはずなのにゃ。


 「うぅ、アカネの荷物重過ぎなのにゃぁ。ミーのを見習って欲しいのにゃ。」


 肩に自分の荷物を掛け、えっちらおっちらとミーよりも一回り以上に大きなカバンを引き摺っていく。

 どがん、ごとごと、階段にぶつけながら荷物を下ろし、地図や紙を広げて話し込んでいる二人に声をかける。


 「アカネ!荷物は下ろしておいたのにゃ!」


 「ありがとう、重かっただろう?」


 まさかあの重い荷物を運んでくれるとは思ってなかったのかキョトンとした後感謝の言葉を投げかける。

 荷物の準備が終わったらあとはもう馬車に乗るだけにゃ。 

 だから、エレンとはしばしお別れだにゃ。流石に王都の外までは連れ出せないからにゃ。

 入り口に掛かっている上着を手に取ると、突然目の前に袋が差し出される。


 「む。」


 「ミー、食べすぎないようにね。」


 中から香るこの匂いは間違いなくあのクッキーにゃ!

 ミーのやる気は今天井を突き破っていったのにゃ。

 ばさりと上着を豪快に着込み、後ろを振り向いてエレンに伝える。


 「じゃあにゃ、エレン。次ミー達が戻って来る頃には全てが終わっているから安心して待っとくにゃね。」


 









 「この道ってこんなに綺麗だったかにゃあ。」

 

 「あれから整備されたんだろうね。おかげで思ったより早く着きそうで助かるよ。」


 何にもない馬車道をまったりと走っていく馬車が一つ。

 御者台にはミーが座って、荷車の方でアカネが寝っ転がっている。 

 昔通った時より整備がなされていてつい出た独り言もどうやらアカネには聞こえていたらしいにゃ。

 本当なら深夜につきそうだから途中で野宿かと思ってたけど、この分ならギリギリ夕方過ぎぐらいにはつきそうだにゃ。


 二人で楽しく喋っていると、突然アカネが御者台に身を乗り出してきた。

 一瞬遅れた後、ミーのピンと立ったキュートなお耳にも弦のしなる音と何かが風を切る音が聞こえてくる。


 「アカネ!」


 ミーがそう叫んだ頃にはもう結界が貼られていたのにゃ。

 コツンと結界に矢が当たる音が聞こえ、そのまま地面に落ちる。

 方角的には...あっちだにゃ。

 目線を向けると走っていくアカネの後ろ姿が見える。

 

 「にゃー、馬車でいくよりアカネにおぶってもらう方がいいんじゃにゃいか。」


 後ろで束ねた金の髪を靡かせ、街道の脇の森へ消えていくアカネ。

 あの脳筋スタイルは何度見ても驚かされるにゃ。

 馬車に結界を貼るほどの腕がありながら切った方が早いからとわざわざリスクを犯しにいくその姿勢。

 けどミーが一緒になってからは怪我をしたのを見たこともないのだから好きにすればいいのにゃ。

 

 空を眺める雲を見たり、馬に餌をやったりしてのんびりと過ごしていると此方に向かって来る足音が聞こえて来る。

 一応警戒の姿勢は取るものの、あの踏みしめるような足音の持ち主は一人しかいないにゃ。

 

 「ミー、先を急ごう。」

 

 体に返り血すらつけないで戻ってきたアカネは開口一番にそう言った。

 ミーが何かを言う前に荷車の後ろに乗り剣の手入れを始める。

 そう言われたらミーもそうする他にゃい、慌てて馬に合図を出し出発する。

 

 「何かあったのかにゃ。」

 

 後ろを振り返ってそう言うと汗をかいたから下着を着替えてるところだった。

 言ってくれればいいのににゃ。

 慌てて前を向くといつもよりか少しだけ焦った口調で説明して来る。

 

 「ゴブリンが居た。それもかなりの数の。」


 森の奥をじっと睨む。

 木々に日を遮られた暗い森を見通すことはできないが、それでも状況から把握できることはある。


 「体格からして食い出にも困ってないようだったし、あの規模の遠征班を構成できる余裕があるんだろう。」


 ゴブリンといえば身体能力では鍛えた人間に劣る魔物だが、良くも悪くも思考が単純故に自分が傷ついても此方に向かって来るという習性がある。傷ついて激昂したゴブリンたちに数で襲われるのは脅威であるため、中途半端な実力で手を出していいわけではない。

 大抵四から五匹で班を組み森を徘徊し動物を襲ったり、自分たちより数で劣る人間達を襲ったりするのだが、この班にいるゴブリンの数がそのままゴブリンの群れの規模を表す一つの指標になる。

 そして大きくなった群れは群れを維持するために必要な食料を自分たちで賄いきれなくなった時、当然食料を持っている者を襲うことで補おうとする。

 

 「ここ最近王都でゴブリンの被害が増えていると言う話は聞いていない。となるとこのゴブリンが向かっている先はおそらく...」

 

 そう言うアカネの表情はあまり芳しくなかった。

 

 「大丈夫にゃ。アカネが戦っている間ミー達はのんびりしてたからにゃ、その分頑張って飛ばすのにゃ!」


 馬がもし言葉を理解できたら今まで走ってましたよと反抗して来たかもしれないが、獣人と獣の間には大きな差がある。

 突然急かす主人に驚きつつも素直に走りだす馬達に満足げにするミーを見て少しは心に余裕ができたのかアカネは少し笑った。

 

 

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