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猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

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十九話 英雄の帰還

「おい!お前たち!ゴブリンが逃げて行くぞ!」


 命が惜しくないと言わんばかりに攻めてきていた魔物たち。

 無限に思えたその軍勢をついぞ根絶やしにすることは叶わなかったが、こうして撤退しているということはどちらが勝利したかは明白だ。

 歓喜に沸くグランツァの民達は新たな英雄の登場を予感していた。


「ひとまずは成功だな。」


「はい。グランツァのために最低でも防衛だけは達成する必要がありました。」


 陣内からその報告を効いたグランツァ侯爵は安堵のため息を漏らす。

 諸々の計画を抜きにしても、侵攻するゴブリンの群れを破るという目標だけは達成せねばならない。

 最低限の目標が達成されたことでグランツァの無事だけは保たれたのだ。


「あとは計画通りに進めば良いのだが。」


 あの時アカネが告げた計画はアカネが単騎で悪魔と戦い、レオには保険としてミーをつけるというもの。

 アカネの心配はしていないが、いくら強くなったとはいえレオ一人での討伐はまだまだ不安だ。

 

「いずれにしても、三人が戻ってくるまではまだ時間があります。こちらで準備できることをしておきましょう。」


「そうしよう。」

 

 グランツァの民は何があったのかを知らない。

 作戦が失敗した時、それを知るものは少ない方がいい。

 そのため単に防衛戦を行い精鋭部隊によって長を討つという方針が兵士たちに伝えられていただけだった。


 だが今こうしてゴブリンが引いていくのはその精鋭部隊が長の討伐を成功させたからだというのは容易に想像できる。

 感謝の気持ちと、そして新たな英雄の誕生を祝して派手にお祭り騒ぎを行っていた。

 それは安心感で緩んだ財布から金を抜こうという商品の思惑が主導ではあったが、この状況を無視するのは勿体無い。

 

 グランツァ侯爵としても防衛戦の成功を祝い食事を無料で提供する。

 酒まで無料で提供すると治安が悪化するのでそこまではしないが商人達が自主的に売り出すだろう。

 ご機嫌で食事にありついていたら酒を飲みたくなるのは当然の帰結だからして。

 今日の出来事が記憶に残れば、レオを英雄として担ぎ上げても受け入れやすくなる。


「それでは英雄を迎えにいくとするか。」


 部下達に指示を出したグランツァ侯はレオ達を出迎えることにする。

 これもまた、英雄の誕生を印象付けるための策だ。

 ここグランツァの領主である自分が自ら迎えにいき、そのような待遇を受けるのは誰かを兵士たちにその頭で考えさせる。

 当然すぐさま理解するはずだ。

 あそこにいるのはそれだけの功績を残した者、つまりは長の討伐を成功させたこの防衛戦の英雄なのだと。


 前線までグランツァ侯爵が出てくると流石に兵士たちのどよめきも大きくなる。

 いくらゴブリン達が引いて行ったとしてもまだ警戒は続けている。

 兵士たちは城壁の内側で騒ぐ民達を羨ましくは思いつつもその職務を全うしていたのだ。

 そのことに目敏く気づいた侯爵は彼らを労うための一番の言葉を伝える。


「ご苦労だった。今日の夜はお前達のための宴を用意しておこう。」


 一気に歓声が上がる。

 城壁の上から周囲を警戒していた兵はその大声にまさかもう一度攻めてきたのかと驚くほどだったが、両手を上げて喜ぶ様子を見て何か言われたのだろうと落ち着きを取り戻す。

 しかしそうなるとそれはそれで何を言われたのか気になったが。

 

 グランツァ侯爵も兵士達の喜び様に満足する。

 苦しい戦いではあったがこの様子ならいくらでも立て直せる。


「来たか。」


 兵士達の一団が割れる。

 それは何かをグランツァ侯爵の元へと届けるため。

 この状況でそうやって敬われる者達なんて決まっている。


「よくやった、レオ。」


「ありがとうございますグランツァ侯爵。不祥ロンハイム家次男レオ、ゴブリンの長を討伐して参りました。」


 膝をついて騎士としての振る舞いをするレオ。

 その様子を固唾を飲んで見ていた兵士たちはレオの言葉を聞いて思わず歓声が出る。

 すぐさま手で口を押さえて止めようとするが、グランツァ侯爵が歓声を上げることを許すとこれまで以上の大声でグランァの勝利を祝った。


「ミー殿はその姿なのですな。」


「ミーが目立っても意味にゃいにゃんね。」


 レオの横で四つ足で立つ黒猫は誰を隠そうミーである。

 ミーが獣人の姿でレオと共に帰還すると注目は二人で分散される。

 レオに注目を集めたいのはミー達の思惑でもあるため、猫の姿でひっそりと帰ってきていたのだった。

 

 ちなみにアカネの姿で帰ってきていないのも同じ理由だ。

 むしろアカネの姿で帰ってくると、新顔のレオと見知ったアカネではアカネの方に注目を寄せることは想像に難くない。

 アカネの腕を知っている人間からすれば当然アカネによる討伐と、それを手伝ったレオ、ぐらいの認識に落ち着くことだろう。

 それが事実であれば仕方ないが、実際ミーは場を整えただけで討伐したのはレオ一人だ。

 わざわざ余計なことをする必要はない。

 

「少し街中を歩こう。」


「凱旋にゃんね。」


 先頭にはグランツァ侯爵とレオ、そしてライルの抱えた黒い猫。

 その後ろからゾロゾロとついてくる騎士と兵士たちは大通りを練り歩く。

 住人達は何事かと目を丸くした後理解が追いつくと、喉が張り裂けんばかりの大声で英雄達を出迎える。

 

 お祭りにはイベントが必要だ。

 こうやって大勢で姿を見せる非日常な出来事は記憶に強く残ることだろう。

 うろうろと特に人通りの多い道を通り長い時間をかけて屋敷に戻ってくる。


「さて、改めておめでとう、レオ。」


「ありがとうございます。」


 先に席についたグランツァ侯爵に続いて席に座る。


「よくやってたにゃ。戦いっぷりを見せられないのが残念にゃんね」


 ミーも獣人の姿に戻ってくつろいでいる。


「ミー殿もありがとうございました。」


「気にするにゃ。周囲のゴブリン共をやってただけにゃん。」


 気にするなと言ってくれるが、近づくゴブリンを片っ端から討つのは並大抵のことではない。

 今のレオでは間違いなく警戒網を抜かれて突破される。

 お菓子を頬張り紅茶で流し込む姿からは微塵も威厳を感じられないが、レオよりも遥かに格上なのだと実感させられる。


 すると突然ミーがお菓子を口に運ぶ手を止め耳をピンと立てる。

 なんだろうと思っているとドアが開けられ金髪の女性が入ってくる。


「遅くなったな。」


「おかえりにゃ。」


 悪魔と一人で戦ってきたというのに、何の傷も負わずに帰ってきた。

 それだけで一流の戦士と呼べるが戦果はそれだけではない。


「あの悪魔はもういないさ。」


「本当か!?」


 グランツァ侯爵からすれば一度ならず二度も侵攻を退けたとて、これからも狙われ続けたらいくら金と命があっても足りない。

 その原因として考えられる悪魔の討伐は既に今日何度も吉報を聴いている侯爵をしても特別良い報告だった。


「だが妙な儀式、あれはあの悪魔の技術なのかそれとも...」


 悪魔の儀式と聞いて静かに先を促す三人を見てひとまず話を切り上げる。

 

「まあ、細かい話は置いておこう。このような幸せな空間には似つかない。」


 そう言うとアカネはレオの背中を叩く。


「おめでとうレオ。これでエレンと婚約する目処が立ったな。」


 今まで戦闘の高揚でその感覚は覆い隠されていたが、アカネによって引き上げられることで表に出てくる。

 エレンと婚約できることは確かに嬉しい。

 だがそのために動いてくれたアカネとミー、グランツァ侯爵、アドラ、ライル、条件付きではあるが認めてくれたアグリ子爵。

 それだけではない、名もなき騎士や兵士、レオを助けてくれた全ての人達。

 胸の中から押さえきれない感情が溢れ出てきた。


「ありがとうございます...ありがとうございます...!!」

 

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