表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/20

十五話 敵陣突破なう

 眼前に広がるのはあの時と同じ光景。地平線の彼方まで埋め尽くされた敵の影がグランツァへと押し寄せている。


「...やるしかないんだ。」


 託されたのは一点突破のみ、ただひたすらに奥に構えているであろうゴブリンの長を討伐すること。この悍ましい程の数のゴブリンの中を突っ切るなど昔は、いや今でも考えられないことではあるがそれが求められているというのであればそれに応じるだけである。


「大丈夫だ。レオの実力はこのアカネが保証しよう。」


「ありがとうございます。けどやっぱり、いざ目の前にすると震えてきて。」


 開いた両手は震えが収まらず、背中にも滝のような汗をかいていることだろう。アカネ殿の強さは今のレオの何倍という数字ではきかない。そんな至高の騎士に実力を認められることは何よりもありがたいことではあるが、自らの認知は昔のままだった。ゴブリンに囲まれ時間をかけている隙に数の暴力によって亡きものとされる。そんな恐怖は普通の人間であれば誰でもこびりついているものである。


「戦い始めたら分かるさ。」


 そしてそれは、アカネも他人の干渉によってどうにかなるものでないと分かっていた。他人にいくら言われようと、死のイメージが払拭されることはない。それは根源的な恐怖そのものだから。

 強いていうならその恐怖よりも強い感情で塗りつぶすことはできるが、この場にそのようなことができるものはいないしそんな小細工を弄さなくともレオの実力があれば普通のゴブリン程度に討たれることはない。そのため見守ることにした。

 手の震えも、死の恐怖も、それは悪いことではない。強くなれば自らの実力をより正確に測る必要がある。いくら強いといえど、世界最強というわけではない。ましてや魔物や悪魔を相手にすれば、格上も腐るほどいる。実力を見誤り無謀にも挑み返り討ちにあった者を何人も見てきた身からすれば、敵に対する恐怖を忘れず慎重であることは命を救うと知っていた。


「そろそろ正面が当たるぞ。」


「...生きて帰ってきて欲しいですね。」


 ゴブリンの数は人間よりも明らかに多い。正面から普通に戦えば、ゴブリンを殲滅する速度が足りずにいずれは押し込まれる。そうなったときに一番危険なのは当然正面に立つ者達だ。その分の補償があるとはいえ、そういう問題ではない。命あっての物種だ。必要なことだとは分かっていても、そのことに心を痛めていた。


「であればこそ、早急に片をつけることが重要になる。長さえ討伐して仕舞えば烏合の衆は碌に攻めて来れなくなる。」


「そうですね...」


 今こうして手間取っているのはゴブリン達が死を恐れず闘いに乗っているからだ。ただでさえ数で負けている中を、こちらは死に対する恐怖を失いきれないというのに相手だけたとえ自らを犠牲にしても道連れにしてやるというふざけた精神で来られるとたまったもんじゃない。その命令を出しているのはゴブリンの長に違いない。いやあるいは...いずれにせよ、長を討伐することがこの防衛戦において一つの鍵であることは間違いない。


「始まったか。もうしばらく待って相手の興味が完全に戦闘に移った頃に動き出すぞ。」


「はい。」


 相手の姿を完全に捉えることはできないとはいえ、こうして上から見るとある程度はどこが優勢でどこが劣勢かわかる。配置と照らし合わせ、それが実力的な要因なのかそれとも相手の数が少ないのかを分析していく。なるべくなら相手に警戒されずに奥まで進みたいことを考えると、数が少ないところを突っ走るのが妥当に思える。


「...あそこはライルさんのいるところですね。」


 一際ゴブリンの殲滅スピードが速い一角は、しかし他の部隊と戦線を合わせるために前に出られるわけではないものの簡単に釣っては討ち援護をしている様子が見られる。そのような余裕がある場所はライルのいる部隊を含めていくつか存在していた。通常の防衛戦であればそれらの戦力だけで押し返すことが可能であったことを考えると、今回のゴブリンの群れの規模が如何に異常であるかがわかる。


「ゴブリンの数が少ないわけではなく殲滅力で優っているだけだが...あそこから行こう。城壁を離れている間の万が一のためにライルはこちらに戻したい。」


 レオをゴブリンの長の元へと連れていく間グランツァ自体の防衛はガラ空きになる。その隙をあの女が狙ってくるかもしれない。

 ライルを防衛戦に出していたのは、最初のうちはこちらの実力が相手を上回っていることを見せつけることで士気を上げることにあった。いくつかの部隊に分けて強力な騎士を配置しているのも、その戦線においても士気を高めることで長を討伐するまでの時間を限界まで稼ぐことを目的としていた。その上で、アカネとレオがグランツァを離れる際に入れ替わりでその騎士を戻す。普通であればせっかくあげた士気を下げることになりかねないが、二人の殲滅力を持ってすればただ前に進むだけでも十分に数を減らしむしろ上げることさえできると予想していた。


「ライル!」


「アカネ殿。私のところからですか。」


 アカネに声をかけられたライルは残念そうな顔をする。グランツァの防衛は名誉な役目とはいえ、こうして前線で戦うことで味方の役に立つことも彼に取っては誉だった。


「一番敵が手薄そうだったんでな。」


「そうでしたか。ではお二人とも、後はよろしくお願いします。」


 その目には失敗は許されないという強い意志が感じられた。しかしもとより失敗など考えていない。まだこの作戦は最高のカードをまだ手札に隠したままなのだから。


「任せられた。」


「必ず倒してきます。」

 

 二人の返事に満足そうな表情を浮かべるとグランツァへと駆けていく。


「では行こうか。」


 剣を抜く。少し前まではゴブリン一体を倒すのにも手間取っていたのが、今ではどれほどのものになっているのか。彼自身、少し楽しみな部分でもあった。

 優雅に駆け出していくと突出していることに気がついたゴブリン達がカモが来たと押し寄せてくる。


「どちらが鴨かわからせてやれ。」


「はい!」


 間合に入ってきたゴブリンを一閃。撥ねられたゴブリンはそのまま体を崩し、他のゴブリン達の障害物となる。


「やるじゃないか。」


 そういうアカネもレオとは反対側で既に山を築いている。


「まだまだ先は長いぞ。」


「...頑張ります。」


 ゴブリンの長はまだまだ先に鎮座している、こんなところでへばってはいられない。しかしそれは剣の道を、遥か先を歩くアカネの発破とも思えた。

 ちらりと遠くで動いた影がこちらを離れていくのを捉えるが気にせずにそのまま先へと進んでいく。


「暇だし倒した数で競うか?」


「無理ですよ!」


 段々と慣れてきたレオもアカネの軽口に付き合う余裕が生まれ、緊張による力みが抜けることでさらに振りが洗練されていく。

 奥へとへ入り込んでいくうちに迫ってくるゴブリンの数は減ってくるが、その分それぞれの練度は高い。確実に長の元へと近づいているという実感が湧くと、そのような練度の差による影響など微々たるものだ。全て斬って仕舞えば同じこと。


「完全に攻撃に全て振ってるのにゃ。」


 そんな様子のレオを見ると思わずそう呟かずにはいられない。出会った頃はあんな脳筋ではなかったと思うのだが、アカネの育成方針がそうさせてしまったらしい。もしこれでエレンにあって引かれたらどう責任をとるつもりなのだろうか。帰ってきたらアカネには一言言っておく必要がある。


「見ていないとでも思ったのにゃ?」


 レオに向けて弓を放とうとした弓兵を拾った礫を投げて沈める。顔がこちらを向いていないから見ていないというのは愚かな考えだ。どこに目があるかはわからないというのに。


「さて、あの重役出勤野郎の面を拝みに行こう。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ