表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/20

十四話 対悪魔

「おはよう...」


 完全に目を閉じたままに感覚だけを頼りに階段を下り、ふらふらと壁にぶつかりながらもなんとか食堂にたどり着いてそうか細い声で挨拶をする。食堂は朝から騎士達でごった返しており、そのざわめきの中では小さな挨拶の声など本来誰にも聞こえるはずがなかったのだが、一人、昨晩とんでもない目にあった猫獣人が立っていた。


「おはようじゃないにゃ!」


 ただでさえ眠たそうにゆっくり歩くアカネに触らぬ神に祟りなしと距離をとって移動している騎士たちだが、その食堂の入り口で仁王立ちしている猫獣人がいるとなればそそくさと食事をとって退散しようとするのは当然である。

 

 まさかこの大勢の聴衆がいる中で昨晩出会った存在のことを話すわけにもいかず、というか今話したところで次の瞬間には忘れていそうなので手を引っ張り無理やり椅子に座らせる。


「持ってくるからさっさと食べるにゃん。」


「うん...」


 返事がすでに吐息と同化している。これは戻ってくる前には机に突っ伏して寝ていそうだなとは思いつつもとりあえず取りにいく。

 

 この食堂では大勢の騎士たちに食事を配るために自分でプレートをもってよそってもらうようになっている。それはつまりピーク時には行列ができるというわけで、今はそれよりは少し遅いものの出遅れた人間たちが慌てて食べにくるためにそれなりに列はできている。ちなみにここでは序列がどうであろうと順番抜かしは許されない。食べ物の恨みは怖いのだ。


 ほどなくしてミーの番がくると、ほいほいと決まった量を注いでくれる。


「ありがとにゃん。」


「いっぱい食べろよ!」


 ミーが食べるわけじゃないにゃんけどと思いつつ溢さないように両手でトレーを持って席へと帰る。メニューは一律で同じなので席へと戻るまでの間にすれ違う人々も皆同じように食べている。しかし中にはジャムやちょっとした果物を持ち込んでる者もいて物物交換が行われているが、これは上官に見つかったら可愛がりの対象である。あそこにいる怖い顔をしている男性は一体誰なんだろうにゃあ。


「もってきたにゃんよ。」


「...ありがとう。」


 もしゃもしゃとパンをちぎって口の中へと押し込む。普段の豪快さはどこへ行ったのかと聞きたくなる。そのままスプーンでスープを掬い、小さな一口でパンと一緒に流し込む。

 騎士全員分の食事を用意するとなるとかなりの金額になるため、贅沢なものは使えない。運動量の多いために塩だけは通常よりも入れられているとはいえ、それ以外の味付けは薄いし肉もあまりいい部位とは言えない。騎士とはいえ普段から美味しいものを食べている二人からすると、そこそこの料理という評価になってしまう。それでも野外で食べるような携帯食料と比べれば天上の食事ではあるのだが、それも携帯食料なんて絶対に食べない二人には関係のない話だった。


「ん、おいしいな。」


「防衛に続く防衛で士気を維持するのも大変にゃんね。」


 この短期間で二回も防衛戦を行うというのはグランツァにおいては初めての出来事である。その士気を保つためにもここ最近の食事には金がかけられアカネ達でも満足いくものになっている。当然、騎士達にとっては大変満足いくもだ。


 眠りこけていた頭も食事をしていくと段々と冴えてくる。昨晩ミーが戻ってきてから大急ぎでグランツァ侯爵を叩き起こし関係者で会議を行うことになったために足りていなかった睡眠時間も、食事の前にはひとまず忘れさられる。


「早く会議に戻らねばならん。」


 手に持ったパンをぱくりと口の中に入れると、皿ごとスープを飲み干し食事を終える。


「もがもが。」


 口の中に食べ物を入れたままにトレーを返却して、一言何かを言ってから早足で歩き始める。

 その後ろをミーは小走りでついていく。歩幅が倍以上は違うので、アカネの早歩きについていくには走らなければいけなかった。この建物に走るの禁止というルールがないことを願う。


「あ、アカネ様。皆様お揃いでございます。」


「すまないな。」


 会議室の前に立つ見張り役の騎士がドアを開けると、すでに二人を除いた全員が居揃って中心に敷かれたどでかい地図を囲んでいる。その中にはグランツァ侯爵は勿論、アドラやレオといった状況を理解している者も呼ばれていた。


「遅れて申し訳ない。」


「アカネ殿!よかった、ちょうど聞きたいことがあったのだ。」


 遅れてきたアカネにムッとした顔を向ける比較的若い騎士達もいるが、主人のグランツァ侯爵が何も言わないのであれば言えることはない。アカネとある程度の付き合いのある高位の騎士達であれば朝食の時間帯にアカネが会議に顔を出しているだけ珍しいので元から何もいうことはない。まだまだ世間を知らぬ後輩達を若いなあと思うだけである。


 グランツァ侯爵が尋ねたかったことは当然、昨晩ミーが報告したあの存在のこと。報告の限りではそのような魔法をグランツァに対して、特に外壁ではなく壁内の建物に放たれてしまえば民間人の被害は甚大なものになる。緊急会議の中でもそのことについては議論したが、結局のところいい案が出ず各自頭を整理した上で朝に仕切り直そうという話になったのだ。


「我々が彼女の魔法を防ぐことは可能だろうか。」


「...正直なところ、かなり厳しい。特に最後にミーに放った操作できる炎を作り出す魔法は防ぐ手段が相手の魔法操作を上回ることしかなく、実質的に不可能と言っていい。」


 ゴブリンの中にも魔法を操るものがいるほどである。グランツァ侯爵騎士団とて魔法を防ぐための盾は用意してあるが、ゴブリンの魔法と彼女の魔法では威力も範囲も精度も、何もかもが違いすぎる。


「あれだけの魔法を操ることができるとなると、私の知る限り人間では数えられるほどしかいない。悪魔と考えるのが妥当であろう。」


 悪魔。伝承上の存在ではあるものの、時折姿を表し街を襲うことから今でもその戦闘能力や知能の高さは全ての人間に知られている。幸いにもこの国で現れた例はこの数百年では記録に残っていないが、ついにお鉢が回ってきたようだ。悪魔間でも個体差があるため厳密な戦闘能力は測れないが、こちらの持つ手札の中ではぶつけられるのは騎士団の上位かアカネ、逃げ切れたことを加味するとミーが入る程度。確実に防衛あるいは勝ち切るのであれば、唯一その可能性があるのはアカネだけだ。

  しかしそうなると、彼女がグランツァに詰めてきた時点でこちらも切り札であるアカネを出すしかなくなるためアカネを防衛側に回らせなければならない。


「ゴブリンの長はレオに任せることになりそうだな。」


「...」


 アカネにそう託されたレオの表情は重い。希望が見えたとはいえまだまだ実践は未知数な中で、いきなりクライマックスを迎える上状況は思い描いていた作戦とは全く異なる。敵方の動き次第ではあるがアカネのサポートも受けられない可能性がある。


「大丈夫にゃ。ミーは暇にゃし遊撃として助けてやるにゃん。」


 唯一彼女と対峙した経験があり自分が向かうよりこちらについたほうが良いと判断したミーは、アカネではなくレオのフォローに回る。


「ありがとうございます。」


「いざとなったらどうとでも逃がせるから安心するにゃんね。」


 こと安全という意味では、力技でねじ伏せるアカネよりも遥かに手札が多いため逃げるだけならどうにかなる可能性は高い。そうならないことが一番とはいえ、長との戦い自体もアカネよりも補助的に助けられる点でレオに注目を集めたい目的とも合致している。


「ではレオとミー殿で長を。グランツァ侯爵騎士団は防衛、アカネ殿は防衛兼悪魔に備えてもらうという形でいこうか。」

 

「いや、私に一つ考えがある。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ