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猫の縁結び屋さん   作者: 白崎イチイ
グランツァの英雄の章

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十二話 最初の一歩

「レオ!」


「アカネ殿!」


 にゃあ。なにやら師弟の再会みたいな顔してるにゃけどまだあって四日も経ってないのにゃ。

 着いて早々訓練場の中へと進んでいくアカネとそれに着いてくアドラ、ミーは一人で馬車の片付けをしてからにゃ。


「特訓の成果を見せてもらおうか。」


 少しだけ手伝った後馬番に任せて急いで戻ると、巨岩の前に立つ二人がまさに今試練を始めようとしていた。この結果次第でどれだけレオに任せるかが決まる。緊張した表情で頷くレオだが、それを見守るグランツァ侯爵達は何も言わない。


「どうにゃ、レオは。」


 ミー達がいない間のレオを知っているのはグランツァに残っていた人間だけ。特訓である程度突破の兆しが見えたかどうかぐらいは知っているはずだ。そう思い尋ねるも、微笑んで躱される。


「見ればわかりますよ。」


「ずるいのにゃ。」


 そんなことは分かってて聞いているというのに。まあ、仮に一撃で葬り去るに足る火力が得られなかったとしてもアカネが盾役、レオが攻撃役として時間をかけて長を攻略することもできるので問題ない。それでもやはり英雄というのは一目見てわかる力が必要だ。そういう意味で、このサイズの岩を破ることができるというのは誰にでもわかる偉業として英雄の証明として扱える。


 ひと足先にその結果を知ろうとしたのは単に気になったからだが、そうはさせてくれないらしい。こういうドキドキして待つのは好きじゃないんだけとにゃあとぼやきながらもその辺の椅子にどかりと座って見守る。


「ん、あれはレオがやったのかにゃ?」


「ああ、あれは私が。」


 アカネやレオより遥かに大きい岩から視線をつつつと動かすと、既に真っ二つに割れた岩が転がっている。サイズはちょっと小さいとはいえあれができるなら問題ないにゃと安心して聞くと、グランツァ侯爵の後ろに立っていた騎士の装いの男が声を上げる。


「おお、ライルかにゃ。そりゃああれぐらいできて当然当然。」


 グランツァ侯爵騎士団のライルといえば...いや、本人があんまし目立ちたがりじゃないから思いつくような功績がないのにゃけど、それでも実力は王国でも指折りの存在にゃ。グランツァ侯爵がこの貿易港を拡張するにあたって邪魔な海棲の魔物や森に住む魔獣達の討伐から、侯爵が出かける時の護衛までなんでもこなせるオールラウンダーなのにゃ。書類仕事だけは普通だけどにゃ。


 しかしこのオールラウンダーというのは案外貴重な存在で、特に海の魔物を討伐できる人間はグランツァ内でさえ数百人ほどしかいない。その理由は当然海という人間にとっては圧倒的に不利なフィールドで、その上相手にとっては最高の場所という条件下では相手に攻撃をとどかせることすら一苦労だからだ。それを乗り越えるには水の抵抗をものともしない貫通力をもつ魔法か、陸上に引っ張り上げる道具や魔法を使ったり、ライルのように水の中でも剣が振れるような化け物になったりとおおよそ普通にはできないことばかり。


「恐縮です。」


 そんなことができる人間からしたら、地上で岩を二つに割る程度のことは朝飯前。いや、昨日の夕飯前にゃとエレンの家で食べた豪華なディナーを思い出して涎を垂らす。侯爵の代理を持て成すために用意された料理達はどれも高級な食材が使用されたもので、食後にはデザートまでついてくるというのだから至れり尽くせりだ。アカネとミーの分も当然用意されていたので役得である。


「おっとっと、これから始まるというのに遊んでる場合じゃないのにゃ。」


 何やら一言二言交わした後、アカネがその場から二、三歩引く。ついにその時が来たということにゃ。慌てて口元を拭いて備える。


「ところでミー殿。」


「なんにゃ?」


 この両目でしっかりと見ておくにゃとぐいっと身を乗り出したところでアドラに声をかけられる。


「ミー殿ならあの岩を割ることはできるのでしょうか。」


 せっかく集中して見ようとしていたのにアドラの方を向くと真剣な表情をしている。どうやら緊張をほぐすための小粋なジョークといった風ではない。そのままグランツァ侯爵に視線を送ると、こちらも好奇心旺盛な部下に呆れた様子ではあるが何も言わないで先を促している。

 アカネの実力は十分に知っているグランツァ侯爵だが、確かにミーの役割はその舞台を整えること。諜報では疑う余地もないが、正面から戦うことに関してはアカネにお任せしているのでほとんどの人間が見たことはない。別に正直に言う必要もないのだが、美味しいデザートに免じてこれぐらいはサービスしといてやるにゃん。

 

「...まあ、割れないことはないにゃん。」


「やはりそうでしたか。」


 いかに敵に悟られないことに長けているとはいえ、万が一の時に戦う力がなければ一番危険な目に遭う役割でもある。そのことを考えるとある程度の戦闘能力も有しているだろうと予想はしていたが、本当にそれだけの実力があるなら隠密と合わせるとその武力は実に恐ろしいものになる。


「割れないことはないというだけで、めんどくさいからやりたくないにゃんけど。」


 何やら考え込むアドラを見てまさか自分もやらされるんじゃないかと慌てて付け足す。必要な時には惜しみはしないが、こんなことで手札を開けるようなことはしたくない。


「でしたらどうです、ライルと手合わせでも。」


「絶!対!やにゃん!そんなことはアカネにやらせるにゃんね。」


 何が楽しくてあんな化け物と戦わなければいけないのか。ミーは快適なソファの上でケーキを食べることが仕事だと言うのに。


「アカネ殿とは手合わせ願いたいところですが...今の私では相手にならないでしょう。」


「ミーと戦いたければアカネを倒してからにするにゃん。」


 にゃー、最初からこうすればよかったにゃん。一通り会話が落ち着いて、ライルの言葉に目を丸くするアドラは置いておいて二人の方を再び見る。


「...あれでやれるにゃん?」


 剣を構えたレオの姿はお世辞にもアカネの足元にも及ばない。アカネと比較しても仕方ないとはいえ、果たしてやれるのかは不安になる佇まいだ。


「どうでしょうな。」


 そう口にしつつもグランツァ侯爵に疑っている様子はない。その視線の先には上段に構えたままに息を整えるレオを見据えている。

 レオが今何を考えているかはわからない。集中して何も考えていないのか、あるいは不安や高揚があるのか。昔アカネが言っていたことを思い出した。斬り方を考えていても、明日のご飯を考えていても、やることは同じなのだから関係するのは身についた実力だけだと。


「ハッ!」


 一瞬、ぐわりと空気が揺れる。剣の纏う空間が残滓となって消えていく。振り抜かれた剣は地を打ち、遅れて岩が左右に倒れる。


「!」


「やるにゃんね。」


 それはたった四日の成果とは思えない結果。願いは叶うのだと、その場にいる誰もが目にした。強い想いが引き寄せた力をものにできるかは本人次第である。


「やったなレオ!」


「はい!」


 近づいたアカネがばしばしとレオの背中を叩いている。遠くからその様子を見守る三人も歓声をあげて口々に褒め称える。まさにグランツァの英雄が最初の一歩を踏み出した瞬間であった。

 レオもその勢いに押されながらも嬉しそうに返事をしている。


「今日は前祝いと行くか。」


「にゃに!?二人とも、そんなとこで突っ立ってないで早く行くにゃ!」

 


 

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