表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『学校では誰にも知られずに卒業したい 〜うちのクラス、隠し事が多すぎる〜』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/75

第67話 秘密持ちチーム、文化祭の“平和な防衛会議”を始める

 世の中には、絶対に大げさにしてはいけない会議というものがある。


 たとえば、

 国家機密に関わる会議。

 会社の極秘案件。

 あるいは、文化祭当日に“できるだけ目立たず、できるだけバレず、できるだけ学校を学校のまま終わらせるため”の会議。


 最後の一つだけ急に規模が小さく見えるかもしれない。

 だが、2年A組と2年B組の一部にとっては、わりと本気で重要だった。


 文化祭は学校行事だ。

 学校の中で起こる。

 学校の人が集まり、学校外の人も少し入る。


 つまり、

“学校で普通の顔をしたい人”と“外で知られている顔を持つ人”が、もっともぶつかりやすい日

でもある。


 そのあたりを、長谷川琴葉が半分冗談で、半分本気で言い出したのは前日の放課後だった。


 そして、その冗談半分は、その日の放課後、ほんとうに会議になった。


     ◇


「というわけで」

 ひかりが教卓の前に立って言った。

「何が“というわけで”なの」

 さやかが即座に突っ込む。

「いや、流れ的に」

「その流れ、誰が決めたのよ」

「長谷川さん」

 ひかりが言う。

「私!?」

 と長谷川。

「いや、だって昨日、“ちょっと本気で守る?”って」

「あれは半分冗談!」

「でも半分本気」

 鳴海が静かに言う。

「……」

「何その、“身内に切られた”みたいな顔」

 真白が言うと、教室に小さな笑いが落ちた。


 場所は2年A組。

 放課後。

 文化祭準備で少し雑然とした教室。


 メンバーは、真白、澪、絵麻、木乃葉、ひかり、さやか、音々。

 そこへ長谷川と鳴海が来ている。


 人数だけ見ると、だいぶ密度が高い。

 しかも全員、何かしら“学校の外”を持っているか、その空気を理解している側だ。


「じゃあ」

 ひかりが教卓に手をつく。

「本日の議題」

「やめて、その進行役のノリ」

 真白が言う。

「でもわかりやすいでしょ」

「文化祭を、できるだけ平和に終える方法」

 木乃葉が伏せたまま言う。

「何その、議題だけやたら本格的」

 絵麻が笑う。

「でも本質」

 と音々が静かに言った。


 真白は少しだけ額に手を当てる。


 やっぱり始まった。

 こういうのが、最近のこの教室は本当に始まる。

 しかも、始まってしまうと案外ちゃんと意味があるから困る。


     ◇


「まず現状整理」

 ひかりが言う。

「何でそんなに仕切るの慣れてるの」

 さやかが聞く。

「見せ方の人だから」

 絵麻が即答する。

「それ、ちょっと好き」

 ひかりが笑う。

「褒めてる?」

「かなり」

 と絵麻。


 ひかりは満足そうに頷いてから、指を一本立てた。


「長谷川さん」

「はい」

「学校公表済みアイドル」

「急に雑」

 長谷川が言う。

「でも合ってる」

 真白も頷く。

「文化祭で人が来たとき、わりと見られやすい」

「うん」

 長谷川も認める。

「そこはもう避けられない」

「しかも隠してないぶん、“見てもいい”って思われやすい」

 澪が言う。

「それ」

 長谷川が真顔で頷いた。

「かなりそれ」

「うわ、急に重い」

 ひかりが言う。

「でも本題」

 さやかが言った。


 ひかりは二本目の指を立てる。


「鳴海さん」

「はい」

「隠している側」

「雑」

 鳴海が言う。

「でも合ってる」

 と真白。

「文化祭みたいに人の出入りが増える日は、声とか雰囲気とかの“気づかれ率”が上がる」

「うん」

「特に学校外の人が来ると危ない」

 ひかり。

「……」

「何その顔」

 鳴海が聞く。

「いや」

 絵麻が少しだけ目を細めた。

「今、ちゃんと会議っぽいなって」

「嫌?」

「嫌ではない」

「褒めてる?」

「かなり」


 三本目の指が立つ。


「真白さん」

「はい」

「学校では誰にも知られずに卒業したい人」

「その紹介文やめて」

 真白が即答すると、教室に笑いが起きた。

「でも一番正確」

 木乃葉が伏せたまま言う。

「しかも文化祭って、配信とか外の趣味と学校が一番交差しやすい」

 ひかりが続ける。

「うん」

 真白は観念して頷く。

「学校外の人、来るかもしれないし」

「あと、学校の中にも“ネット強い人”いる」

 さやかが現実的に言う。

「それ言い出すと怖い」

 真白。


 四本目の指。


「澪」

「うん」

「歌う人」

「急に短い」

 澪が笑う。

「学校の中でちゃんとしてるけど、文化祭みたいな“声が飛ぶ場”は微妙に危険」

「うん」

 澪は素直に頷く。

「人前での発声とか、立ち方とか、癖は出やすい」

「やっぱりそうなんだ」

 長谷川が言う。

「出るよ」

「しかも朝倉さんって、学校の中でも強いから」

 絵麻が言う。

「外の顔と学校の顔の境目が、たまに近い」

「……」

「何その、“言われてみればそう”みたいな顔」

 ひかり。

「いや、実際そうかも」

 澪が小さく認めた。


 真白は横目でそれを見て、少しだけ思う。

 朝倉澪はたしかに、学校の中でも強い。

 だからこそ、文化祭みたいな舞台では少し危ういのかもしれない。


     ◇


「で」

 さやかが言う。

「そこまではいいとして、対策は?」

「それ」

 ひかりが指を鳴らした。

「ここからが本番」

「いや、本番は文化祭当日」

 真白が言う。

「今はまだ会議」

「その冷静さ好き」

 と絵麻。

「褒めてる?」

「かなり」


 ひかりは教卓に紙を広げた。


「対策その一」

「あるんだ」

 長谷川が言う。

「かなりある」

 ひかり。

「目立ちそうな人を“ひとりで放置しない”」

「うわ」

 真白が言う。

「何その、急に防犯みたいな」

「いや、でも大事」

 鳴海が真顔で言う。

「文化祭って、一人でいると変に見られやすい」

「うん」

 長谷川も頷く。

「誰かと一緒にいる方が、学校の人っぽく見える」

「なるほど」

 絵麻が言う。

「“同級生の会話”で包む感じか」

「そう」

 ひかりが満足そうに頷く。

「さすが絵麻ちゃん、言語化がうまい」

「褒めてる?」

「かなり」


 真白は少しだけ納得した。


 たしかにそうだ。

 ひとりで立っていると、そこに“見る対象”としての輪郭が立ってしまう。

 でも誰かと普通に話していれば、“学校にいる人”として風景に溶ける。


「対策その二」

 ひかりが続ける。

「うん」

「“声を張る場面を減らす”」

「それは助かる」

 鳴海が即答した。

「わかりやすいね」

 真白が言うと、

「そこはかなりわかりやすい」

 鳴海も少し笑った。

「あと澪にも効く」

 ひかり。

「そうだね」

 澪が頷く。

「必要以上に前に出ない方が安全」

「長谷川さんは?」

 絵麻が聞く。

「私の場合は」

 長谷川は少し考える。

「隠してないけど、学校でまで“見せる側”にはなりたくない」

「……」

「何その顔」

 真白が聞く。

「いや」

 長谷川は肩をすくめた。

「学校でくらい、普通の女子高生したいでしょ」

「……」

「うわ」

 ひかりが言う。

「何その“うわ”」

「今の、だいぶ刺さる」

「褒めてる?」

「かなり」


 その一言は、真白にもかなり響いた。


 そうなのだ。

 学校でくらい、普通の高校生でいたい。

 それはこの会議にいる多くの人の、共通の願いなのかもしれない。


     ◇


「対策その三」

 と、ひかり。

「まだある」

 さやかが言う。

「“何かあったら、会話で流す”」

「うん」

 長谷川がすぐに頷く。

「それはB組でもやってる」

「わかる」

 真白が言う。

「A組は止めるけど、B組は流す」

「……」

「何その、“またそれちゃんと覚えてたんだ”みたいな顔」

 長谷川が言う。

「覚えてるよ」

 真白は少し笑う。

「かなり大事なことだったし」

「褒めてる?」

「かなり」

 長谷川も笑った。


 ひかりはさらに言う。


「つまり」

「うん」

「気づきそうな人がいても、即座に別の話題へずらせる人を近くに置く」

「それ、ひかりちゃん向きすぎる」

 絵麻が言う。

「でしょ」

「自分で言うんだ」

 さやか。

「でもほんとに向いてる」

 真白も頷く。

「ひかりちゃん、空気を笑いへ逃がすの上手い」

「うわ」

 ひかりが言う。

「何その、急にちゃんと褒められたみたいな」

「褒めてる?」

「かなり」

 と真白。


 ひかりはちょっとだけ照れたように笑い、それからわざとらしく咳払いした。


「では次」

「まだあるの?」

 澪が言う。

「あるよ。文化祭って長いから」

「そこはたしかに」

 鳴海が真顔で頷いた。


     ◇


「対策その四」

 ひかりが言う。

「“先生を頼ることを、敗北だと思わない”」

「……」

 教室が少し静かになる。


 それは、冗談っぽく始まったこの会議の中で、かなり本気の一文だった。


「風間先生?」

 絵麻が聞く。

「うん」

 ひかりが頷く。

「たぶん、あの先生かなり見えてる」

「見えてる」

 真白が言う。

「かなり」

 澪も頷いた。

「でも広げない」

 さやか。

「だから、もし本当に危ないなら」

 ひかりは続ける。

「学校の大人に渡した方がいい」

「……」

「何その顔」

 鳴海が聞く。

「いや」

 真白は少しだけ言葉を探した。

「それ、すごく正しいと思って」

「うん」

 長谷川が頷く。

「自分たちだけで守れる範囲ってあるし」

「学校を学校として守るのは、最終的には学校の大人の仕事」

 とさやか。

「何その、今の委員長ちょっと強い」

 ひかりが笑う。

「褒めてる?」

「かなり」

 ひかり。


 真白は少しだけ胸の奥が落ち着くのを感じた。


 そうか。

 全部を自分たちだけで何とかしなくていい。

 それは、かなり救いだ。


     ◇


 そこで、ずっと黙っていた音々が言った。


「対策その五」

「え」

 ひかりが言う。

「音々ちゃんが続けるんだ」

「うん」

「何?」

 絵麻が聞く。


 音々は窓の外を見たまま、静かに言った。


「“本人が嫌がってる時は、無理に元気づけない”」

「……」

 空気が少しだけ止まる。


「何その、急にめちゃくちゃ本質」

 真白が言う。

「褒めてる?」

 音々。

「かなり」

 と真白。


 鳴海が、少しだけ目を伏せた。


 たぶん、かなり響いたのだろう。


「気づかれそうになったあとって」

 音々は続ける。

「うん」

「その場では笑えても、あとで疲れる」

「……」

「だから、“大丈夫?”を言いすぎない」

「……」

「何その、“今のすごく助かる”みたいな顔」

 ひかりが鳴海を見る。

「うん」

 鳴海は小さく頷いた。

「かなり助かる」

「褒めてる?」

 音々。

「かなり」

 鳴海。


 真白はそこで、今日の会議がただのコメディではなくなったと感じた。


 笑える。

 でも、ちゃんと切実だ。

 文化祭を前に、自分たちは本当に“学校で普通でいるための準備”をしているのだ。


     ◇


「……で」

 さやかが言う。

「結論、どうするの」

「まとめると」

 ひかりが指を折り始める。

「一、ひとりにしない」

「二、声を張らせない」

「三、会話で流す」

「四、危なかったら先生」

「五、あとで無理に元気づけない」

「……」

「何その顔」

 真白が聞く。

「いや」

 長谷川が笑う。

「思ったよりちゃんとしてる会議だったなって」

「やっぱりそこ」

 絵麻が笑う。

「でもかなりちゃんとしてた」

 澪が言う。

「うん」

 真白も頷く。

「かなり」


 鳴海は、そのまとめをしばらく黙って聞いていた。

 それから小さく言った。


「これ」

「うん?」

 ひかり。

「文化祭の防衛会議っていうより」

「うん」

「学校で普通にいたい人のための会議だね」

「……」

「何その顔」

 真白が聞く。

「いや」

 絵麻がやわらかく笑った。

「今の、かなりいい」

「褒めてる?」

 鳴海。

「かなり」

 と絵麻。


 真白も頷く。


 たぶん本当にそうだ。

 文化祭はきっかけにすぎない。

 この会議の本質は、学校でただの同級生でいたい人たちの願いなのだ。


     ◇


 そのときだった。


 教室のドアが、ほんの少しだけ開いた。


「……」

「……」

「……」


 全員がそちらを見る。


 風間だった。


 担任は、いつもの静かな顔で教室の中を見回した。

 誰がいるか。

 どんな空気か。

 たぶん一瞬で全部見ている。


「先生」

 さやかが一番先に声を出す。

「何か?」

「いえ」

 風間は静かに言う。

「二階堂に連絡事項を伝えに」

「……」

「何その、“絶対それだけじゃないでしょ”みたいな顔」

 ひかりが小声で言う。

「やめて」

 真白も小さく返す。


 風間は教卓の近くまで来て、さやかへ紙を一枚渡した。


「明日の朝、実行委員の集合が少し早まります」

「はい」

「それと」

 風間はそこで一拍置いた。

「文化祭は、学校の中でやるものです」

「……」

 教室の空気が、ほんの少しだけ変わる。


 誰も何も言わない。

 でも全員が、その言葉の意味を少しずつ受け取っている。


「以上です」

 風間はそう言って、いつも通りの顔のまま出ていった。


 ドアが閉まる。


「……」

「……」

「……見えてたね」

 ひかりが言う。

「かなり」

 真白。

「全部だね」

 絵麻。

「かなり」

 澪。

「でも、何も壊さなかった」

 鳴海が小さく言う。

「うん」

 真白も頷く。

「かなり、あの先生らしい」


 そして全員、同じことを思ったはずだ。

 この会議は、たぶん今、風間にも承認されたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ