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愛梨紗の冒険・3b

 後輩たちも加わってみんなで引っ張ってくれたおかげで、愛梨紗の宇宙船はスムーズにハウスボートに横付けできた。

 健太郎が屋上デッキから縄梯子を下ろした。愛梨紗はそれにつかまった。途中まで上ったところで、健太郎が大きく身を乗り出して手を伸ばしてきた。


「ようこそ海豹丸(かいひょうまる)へ」

 彼の笑顔はあまりにも眩しくて凛々しい。愛梨紗は思わずぽーっとなった。彼女の子供みたいな小さな手を、彼は大きくぎゅっと包み込んでくれた。思わず頭が混乱して、すぐそばにしのぶがいるにも関わらず、愛梨紗は彼の顔に釘付けになった。

 そんな彼女の両脇を、健太郎はひょいと抱え上げた。


 愛梨紗は赤いオーバーサイズのTシャツとデニムのショートパンツを着ていたので、遠目で見ると父親に持ち上げられた子供のようだ。


 そうして、屋上デッキにすとんと降ろされた愛梨紗は、広々とした真っ白なハウスボートを見渡した。クロノ・シティの独特な星空を照り返して、白い屋上がやけに白々と光を放っている。

「なんで船の名前が海豹(あざらし)なん?」と愛梨紗。

 健太郎はにこやかに答えた。

「それはね、しのぶ君のお父さんが宇津井健に似ているからだよ」


 愛梨紗の頭には「?」しか浮かばない。確かにしのぶの父の正人(まさと)が宇津井健に似ていることは、会ったことがあるので知っているが、それがどうして海豹(あざらし)と結びつくのだろう?


 横にいるしのぶは、ぶっと盛大に吹き出して、健太郎の肩にパンチを浴びせた。

「ばか、そんな話はどうでもいいんだよ」

 しのぶは笑いが止まらないようだ。「愛梨紗、忘れていいよ。どうせ映画の話だから」

「お父さんはすっかり気に入ってくれたみたいだけどね」

「ばーか、親父はすぐ調子に乗るから、あんまり言うんじゃないの」


 そうやってイチャイチャする姿が、愛梨紗にとっては微笑ましくてたまらなかった。二人がここまで距離を縮めるのに、実に三年もの月日が必要だったのだ。しのぶが龍之介に盛大にフラれた後、健太郎は彼女のことを根気強く支え続けた。やがて傷が癒えたしのぶは、素直に彼の愛情を受け止められるようになっていた。


 しのぶは胸を反らして、屋上デッキを颯爽と歩いていった。黒いタンクトップがこれほど似合う女性はなかなかいない。

「肉は乾いたかい?」としのぶ。

「良い具合に塩味がついてますよ」

 第十八小隊ブラボー・チームのリーダー、森崎和馬は、網の上でトングを使い、肉をひっくり返しながら答えた。夜のバーベキューで焼いているのは、脂のしっかりと乗った牛のロース肉だ。

 船の上で火は厳禁なので、こちらの焚火台は電気グリルだ。


「一番良いやつを愛梨紗に食べさせてあげて」

 しのぶが気の利いた一言を言う頃には、愛梨紗はすでに焚火台に一番近い椅子に着席していた。愛梨紗が座ると、折り畳みのデッキチェアが極端に大きく見える。

「こっちはいつでも準備万端やけんね」


 愛梨紗のそばに、新人の女の子たちがわらわらと寄ってきた。まるでかわいい動物をすぐそばで愛でようとしているかのように、みんな幸せそうな笑顔だ。

 まだ知り合って間もない女の子たちが水着姿で取り囲んできたので、愛梨紗はかえって自分のほうが恥ずかしいような気分だった。


「愛梨紗さん、このお皿をお使いくださいな」

 腰をかがめた沙織が、木目の美しい木皿を差し出した。

「こちらのフォークをお使いください。それともお箸がよろしいですか?」

 と、反対側にかがんだ美穂が、木の柄のついたフォークと、太めの木の箸を差し出した。

 愛梨紗は、どちらにしようか真剣に迷った末に(彼女の食事はすでにこの段階から始まっている)、フォークのほうを選んだ。


「私がお肉を切り分けて差し上げます」

 晴香が、愛梨紗の小さな口でも食べやすいようにロース肉を細く切ってくれた。

「愛梨紗さん、タレは何が好きなの?」

 と、しずくがいろんな種類の調味料が入ったバスケットを抱えてきた。


「私はね、リンゴとニンニクがいっぱい入ってるバーベキューソースが好きと」と愛梨紗。

「じゃあ、これですね」

 しずくのたくましい腕で注がれるバーベキューソースは、それだけで贅沢な高級品に思えた。


 それを、スバルが遠巻きに見ていた。

 同じパイロットとして一番尊敬する人物が、こんなくだけた雰囲気の中で、すぐそばに座っている。こんなチャンスが他にあるだろうか。

 しかし、怖気づいてしまっているスバルは、なかなか前に出られなかった。間接照明の陰の後ろに、無意識に隠れてしまう。


 そんな彼女の背中を、そっと優しく押してくれる人物がいた。

「黒川さん、大丈夫だよ。俺がついてる。思いっきり行ってきな」

 そう、あの落合茂雄(ミスター)が、彼女を励ましたのだった。

「ありがとう、ミスター」


 勇気づけられたスバルは、思い切って前に出た。

「愛梨紗さん、欲しいものがあったら、どんどんおっしゃってください」

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