愛梨紗の冒険・3a
空を引き裂く衝撃音が、夜のクロノ・シティに響き渡った。何の騒ぎかと、人々は外に出て空を見上げた。音は海のほうへと遠ざかり、そこでぷつりと途絶えた。
ロジャーこと山田健太郎が住むハウスボートは、たくさんのヨットが停泊している埠頭の先にあった。愛梨紗は以前、その画像を見せてもらったことがあったので、どれがその船なのかはすぐにわかった。
ロジャーが住む船――通称海豹丸は、平べったいモダンなデザインが特徴だ。壁や屋根はすべて真っ白に塗られている。平たい屋根は屋上デッキとして使用されていて、そこで新人宇宙消防士たちがうようよとたむろしているのが空から見下ろせた。ムーディーな間接照明に照らされて、どこか幻想的な儀式の現場のようだ。新人たちはみな、水着姿になっている。
ホストを務める健太郎としのぶは、忙しそうに中と外を行ったり来たりしていた。しのぶが、空からやって来た愛梨紗に気づいて、こちらを指差しているのが見えた。健太郎としのぶの二人は、まだ水着に着替える暇もないらしく、普段着のままだ。健太郎は真っ白いTシャツにジーンズというシンプル極まりない服装なのに、引き締まった身体とばっちり決まった髪型のせいで、まるで映画俳優のようだった。
一方の黒いタンクトップ姿のしのぶも、いつも通りの格好なのに、大きな船を背景にすると実に華やかに見える。
「相変わらずロジャーさんは花形満のごたるね。しのぶも女優さんみたい」と、愛梨紗も感心した。
船の往来が少ない場所を選び、愛梨紗は大きく旋回して、海に着水した。なるべく気をつけたつもりだったが、大きな水しぶきがカーテンのように空に広がって、ハウスボートに盛大な海水の滝を降らせてしまった。
「こらー! 愛梨紗! ゆっくり降りてこいって言っただろ!」
屋上の端に駆け寄ってきたしのぶが、拳を振り上げて大声で叫んだ。
愛梨紗は、宇宙船の上部の扉を翼のように開いて、ひょっこり顔を出した。彼女は自前の小さな宇宙船でやって来ていた。それはごつごつといかつくて真っ黒な、スポーツ仕様の船だ。
「ごめんねー、みんな濡れた?」
「濡れたに決まってんだろ!」
猛抗議するしのぶの横に、健太郎がすっと近寄って、彼女に無言でタオルを手渡した。しのぶは「サンキュ」と小さく言ってから、健太郎にも大声を出した。
「あんたからも何か言ってやってよ」
「よく来たね、愛梨紗ちゃん」
「よく来たね、じゃないよ、ロジャー」
しのぶに文句を言われながらも、健太郎はにこやかに愛梨紗に向かって手を振った。
その様子を、新人たちは遠巻きに興味津々で見つめている。初々しい顔ぶれがたくさん並んでいるのを、愛梨紗は微笑ましく思った。
「まだお肉は残っとーね?」
「山ほどあるよ。愛梨紗ちゃんが食べてくれないといっぱい残っちゃうから、早くこっちへおいで」
健太郎が投げたロープを、愛梨紗は空中でつかみ取って、船に結びつけた。早くご飯が食べたいせいで、指がもつれてなかなか結べなかった。




