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無限のエネルギー・3b

 スバルの赤い髪と赤いビキニが、海面から出たり隠れたりしながら遠ざかっていく。

 それを追う海パン姿の男たち五人組は、わざわざ騎馬戦のフォーメーションで海に飛び込んだ。


「こんなの初めて見たぞ。器用に泳ぐもんだな」

 一人、騎手としてまたがっている落合茂雄は感嘆の声を漏らした。

「意外に速くて、自分でもびっくりだよ」和馬は自分でもびっくりしていた。


 フロント側の和馬と俊作は肩を組み、それぞれ片手で平泳ぎしている。リア側の拓也とジュウザは猛烈な勢いでバタ足している。いつの間にかどこから調達してきたのか、四人ともが大きな足ひれを装着している。結局のところ、これがあるおかげで凄まじい推進力が生み出せていた。


「四人で力を合わせれば、あっという間に追いつけそうだな。ようし、俺もいっちょう、加勢してやるか」

 茂雄は張り切ってそう言うと、両手でぱちゃぱちゃと水面を搔き始めた。

 たちまち全員が不満の声を漏らした。


「おい、変なことするな、バランスが崩れる」

 和馬が顎を上げて叫んだ。「お前は、黒川さんがどこにいるかだけ見ていればいいんだ」

「よっしゃ、わかった」

 茂雄は両手で望遠鏡の形を作り、それを覗き込んで遠くを見渡した。


「見失っていないだろうな?」と和馬。

「見失うもんか。黒川さんは二時の方向だ」と茂雄。

「ようし、そのまま見張っていろよ」

 和馬は騎馬を組んでいる全員に向かって叫んだ。「全速前進! みんな死ぬ気で泳げ!」

 それに応えて「おお!」と雄たけびを上げたみんなは、さらに倍近く速度を上げた。


 背後から白波を立てて突き進んでくる男たちの一団を見たスバルは、その恐ろしさに震えあがった。

「なんで、あんな状態で速く泳げるんだよ」

 こっちだって捕まるわけにはいかない。こうなったら向こうが疲れ果てるまで逃げ続けるだけだ。


 このまま直進すると、じきに突き当りの立ち入り禁止区域にぶつかる。金網が端から端まで張られ、その向こうに島の衝突面の大きな壁がそそり立っているのが見えてくるはずだ。そこで監視員たちに見つかってしまうと、詰所に連行されたうえに署まで連絡が行って、仲間たち全員が大目玉を食らうことになる。それはまずい。


 辺りを見回してみると、左手のほうが比較的人が少ない。右手は混雑しすぎて泳ぎにくそうだ。どちらに進もうかしばらく思案した末、スバルは右手に向かうことにした。人に紛れて隠れたほうが逃げやすいと思ったからだ。追手もあんなところでは騎馬を崩さずに進むことは困難だろう。一人ずつバラバラになれば、それを()くことは容易(たやす)い。


 スバルは方向を転換した。グズグズしている暇はない。

 右手の奥に、大きなバルーン・シップが二つ見えてきた。人がやたらに集まっていたのは、これがあったからのようだ。一方は風船でできた帆船で、高さは実際の帆船と同じ五十メートル近くある。すべてが柔らかな風船でできているので、力いっぱい体当たりしても優しく跳ね返されるだけだ。


 もう一方のバルーン・シップは、風船でできた巨大なタコだ。何十本もの大きな足が生えていて、ロボットがそれを動かしている。子供たちはわざとそれに捕まったり、戦いを挑んだりして、思い思いに遊んでいる。

 今まさに、帆船に巨大なタコが襲いかかっている場面が演じられているところだ。


 そこに親子連れがうじゃうじゃと群がっていた。風船でできたマストによじ登ったり、横に伸びた帆桁にぶら下がったり、薄い風船でできた帆を滑り下りたりしている。高いところから子供が落下しても、それをセンサーが感知して下から空気を噴射し、落下の速度を抑えるシステムが完備されているから、どんな乱暴な遊び方をしてもめったなことでは怪我はしない。


 スバルはその中に姿を隠すことにした。巨大なタコは全身が真っ赤なので、そっちに紛れてしまえば見つけるのは困難なはずだ。

 海面を埋め尽くす子供たちの集団をかき分けて、スバルはタコのバルーン・シップへと向かった。思った以上に、人混みのせいでなかなか先へ進めない。


 背後から、騎馬の白波が接近してきた。まるでシャチが獲物を追うように。騎手としてまたがっている茂雄の眼鏡が、太陽の光をギラギラと反射している。

「いやーん、怖いよう」

 スバルは身をすくませた。一刻も早く隠れなければ、あの男に捕まってしまう。

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