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無限のエネルギー・2a

 スバルはずっと、自信と弱気の間を揺れ動いてきた。自分はあまりにもマイペースで、いつも周りより一歩遅れているという自覚があった。人からそう指摘されることもよくあった。


 そんなとき、彼女は「でも、それが私だもん」と開き直ることもあれば、「やっぱり直さなきゃいけないのかな」と弱気になることもある。その割合は、今までの経験を数え上げてみると、大体半々くらいに収まる。


 茂雄が話題に出してくれた、あのときのテストは、数少ない明らかな成功例の一つだ。スバルにとっても忘れられない思い出になっている。あのとき一緒にいてくれた仲間の記憶はずいぶん薄れてしまっているが、いくつかの場面は今でも何度も蘇ってくる。ドッキングを焦るあまり彼女に対して強い言葉で指示を出すリーダーと、それに対して確信をもって言い返す自分の言葉――、最初に人工衛星をアームで捕まえたときに訓練船A号から聞こえてきた歓声とその後の落胆の声――、訓練が終わった後のデブリーフィングで教官がスバルを壇上に呼んで褒めてくれたこと――、そうした場面が鮮やかに脳内に刻まれている。


 そういえばあのとき、茂雄もまた自分の意見に味方してくれていた。その辺りはほんの少し曖昧な記憶になっていたけれど、スバルは今になって、薄れていた記憶の断片を少しだけ取り戻した。


 スバルは言った。

「あのとき、確かミスターも私と同じ意見だったよね」

「うん」

 と、茂雄はうなずいた。「俺もまずは衛星の乗組員の状態を確かめるべきだと思ったんだ。あの頃の訓練生はみんなお互いを意識しすぎて、とにかくスピードにものを言わせがちだったから、そろそろ何か罠がありそうな気がしたんだよ」


「私ののろまが役に立った、と」

「君がのろまなんて、俺はそんなこと思ったことないよ」

 茂雄は真剣なまなざしで言った。


 スバルはそのまなざしに、ご機嫌取りやおべっかの痕跡を読み取ろうとした。彼はスバルの気を引くために、なんでもかんでも手当たり次第に褒めようと思っているのかもしれない。

 そんなことを考えながら、スバルもまた真剣なまなざしで彼のことを見つめ返した。

「ミスター、本気でそう思ってる?」

「本気に決まってるだろ」

 茂雄は真剣そのものだった。彼は自分の気持ちを形にして表したいと思った。


 とりあえず彼は、両手で握りしめていたハンバーガー(スバルが作ってくれたやつ)をいったん皿の上に置いた。しかし、指にはソースがべっとりついている。これを拭いてきれいにしたいのだが、あいにくそばに拭けるものがない。舌で舐め取るわけにもいかないので、ちょいとばかし途方に暮れた。


 すると、そのとき、チームのリーダー森崎和馬みずからが、腰を低くかがめて小走りでやって来ると、熱く蒸された真新しいおしぼりを茂雄に手渡してくれた。

「もうひと踏ん張りだ、ミスターがんばれ」

 和馬は小さくそう言うと、サムズアップとウインクで茂雄を励ました。


「サンキュー、リーダー」

 茂雄は、この恩は一生かけてでも返したいと心に誓った。そんな思いを胸に、リーダー直々に渡されたおしぼりで両手をしっかりと拭った。

 それを見届けた和馬は腰をかがめたまま、焚火台のほうへ後ずさりしていった。仲間たちの「グッジョブ」という声が、かすかに聞こえた。


 さあ、気を取り直して本番だ。あらためて茂雄はスバルの手を取った。意外なほどすんなりと、彼は彼女の手を握ることができた。

「黒川さん、俺の正直な気持ちを君に伝えたいんだ」

 茂雄の両手で包まれたスバルの手は、柔らかくほっそりとして、まるでマシュマロのようだった。一瞬だけ、その快感に彼は溺れそうになった。


 しかし、気を取り直す。

「黒川さん、聞いてくれ。俺は……」


 それを、スバルの透き通った声が遮った。

「私にも相手を選ぶ権利があるんだから、そこらへんをしっかりクリアできるような、ちゃんとした言葉でお願いね」

 突然にハードルが跳ね上がり、茂雄は思わず言葉を詰まらせた。

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