066 同級生
学が登校すれば、クラスメイトがチラチラと様子を伺っている。
茶会 学(通称=ナデ男…見た目から)
自他ともに認めるお調子者。
何事にも興味を持つ。好奇心旺盛で行動的と評すれば得難い人材と言えるのだろうが、噂話にも騒動にも首を突っ込み事を大きくしてから他に興味を移すのはどう評したものか。
フットワークが軽い。そして、人が集まるところに吸い寄せられていくので、コミュ力が高い印象を得ている?
行動の前に下調べをして好奇心を探究心に変えて、飽きっぽさを突き詰めて集中力に変えることができれば、“お調子者”の評価を取り下げられるに違いないが、はてさて。
窓側の一番前の席、つまり、太原の席で池園相手に話し込んでいる。
学年一の秀才が登校不良児と話し込んでいるのだ。皆、何を話しているのか気になっているが近づけない。そんな感じだ。
太原 啓介(通称=ソーフ)
“一を聞いて十を知る”と言うような天才ではないが、五を聞いて六を返す、七を聞けば八を返すと言うことくらいはする秀才である。
付いたアダ名はソーフ。言わずと知れた今川義元に仕えた名補佐役にして軍師の太原 崇孚に拠ったものである。
ちなみに髪は短くまとめられており、坊主ではない。
軽症だが外斜視(両眼で見ることで初めて立体的にものを見ることができるが、斜視になっていると立体感は低下する)のため、集中すると目が疲れやすい欠点があり、いらだつ姿を見せることがある。
見られている当人たちは周りの雰囲気に間違いなく気付いている奴だが、そんな素振りは見せない。ガン無視である。
先週の連休明けに、頬に大きな絆創膏を貼ってきた太原に、久々に登校してきた池園が一直線に寄って行った時は休み中に何事かあったかと皆の視線も追って行ったが、さらに、ソーフにゾノと互いに呼び合っているのを聞いて、本当に何があった!と皆が興味深々になったのは仕方のないことだろう。
会話をかわす姿をよく見かけるようになったが、慣れるどころか関心は増すばかりだ。
二人は旅行先で偶然に会ったと皆の興味をかわす。その態度で分かるように二人が関心を消火するような情報を与えないのも原因の一つに違いない。
「おいおい、そんなことで俺はごまかせないぜ」
学が太原に絡んで聞き出せば、魔王領に行ってきたと白状した。以上が先週の話だ。
「俺にもメールが来たぜ」
池園が太原に携帯を振ってみせる。
湧井 菜々さんからの週末の探索のお誘いだ。金曜の深夜に“鬼太郎”特区に集合とある。こっちが高校生だと理解しているのだろうか。
菜々さんは“湧バイオファーマ”という製薬会社の研究員だ。魔王領で野外調査をしている。
「どうするか?菜々さんの補助があれば、赤字は避けられるが……」
初の冒険の収支はトントンだった。
菜々さんの護衛のバイトの分がちょうどプラス分になっている。(063 続・ハクムの丘(6/6)後書き参照)
正直な所、非日常体験ができればと思っただけだったが、行動の結果について見直すのは癖になってしまっている。
「仕様変更があったからな。次は多少は上向くんじゃね?」
仕様変更と言う語句に何か思うところがあるのか、池園のそう言う表情は苦かった。
制度の修正があった。国からの補助である探索手当の給付条件が“害獣を一匹間引くこと”から、“赤い石1個の納品”に変更された。これは、ルドン周辺の草ねずみを一匹だけ狩って日毎に入退場を繰り返していた連中がいたらしい。
「まあ、確かにな。武器の持ち込み代がだいぶ痛い」
太原が開いたノートPCの画面をタッチペンで叩く。
逆に、“黒針”の買い取り価格が十倍になっていた。差額が振り込まれてきたので驚いた。100均の縫い針と同じかと思いきや、“黒針”は砒白金鉱で出来ていた。成分分析で判明したようだ。菜々さんみたいのが素材分野でもいるってことだな。
レアメタルの中でも、産出量が最も少なく、価格が最も高いのが白金だ。金の価格の約2倍の価値と言えば分かり易いだろう。
「そこは“鬼太郎”関を使うとしても、変わんねえのか。選任されれば、こんなつまんねーこと考えずに済むんだろ?」
「まあ、そんな簡単じゃないんだろ?それにどんなことでも考えるのは無駄にならない」
福島県田村市の特区の関がようやく開通した。これで移動時間が短縮されて、身体も楽になる。帰りはぐったりだったからな。
交通費は補助が付いて元々“0”なので、“特殊器具の輸送費”が重くのしかかる。一夜島にはロッカーもあったが、期間制限や使用料を確認できない。どっかにメモしたはずなのだが。
「情報が取りづらくなったのが痛いな」
自称“探索者”のまとめサイトは散見されるが、どれも彼らの経験からすると疑問符が付くものだった。スク東の情報サイトが有用だったのだが、あの不祥事“芸人行方不明事件”以降、更新が止まっていた。
太原と池園の会話は静かに続く。
太原のズッ友を自認する学は、早速、休みに魔王領の入国審査を受けに行った。
そして、ぎりぎりだったが③の資格を得た。
後は話に加わるだけだ。
そう意気込んで足を踏み出した瞬間に池園と視線が合いそうになり、目をそらし足が止まる。
池園 謙一(通称=ゾノ)
ちょっと怖えんだよな……
鋭い眼光→前日、残業で鉄筋加工を手伝っていたために、寝不足気味
何考えてるのかわかんねえ……
しかめ面の表情→翌日の段取りを頭に叩き込んでる、頭脳は沸騰中
今度は誰をボコボコにしてきたんだ……
手や頬の絆創膏や湿布→仕事でミスして怪我をした。上司からは労災申請するから病院に行ってこいと言われている
その池園の裏を取って、突っ込んだのは鈴女だ。
「トゥース!見て、見て」
鼻息荒く、太原たちの目の前に突き出されたのは、④が大きく印字された銀色のカードだ。
「おっ、入国査証じゃねえか」
滞在許可日数を示す②~⑥の印字があり、カードの色味も数字が大きい方が金の光沢があり、小さいほど鈍色になっている。
注)現状、②は入国できない。査証の色味は酸化皮膜の厚さによって変えられている。
「俺も、俺も、ほらっ」
だが、学の手に持つカードは黒ずんでいた。薄墨色とでもいうのだろうか。
それを見た鈴女が勝ち誇る。
「ふふん」
「ぬぬぬ」
加藤 鈴女(通称=トゥース)
母がアメリア合州国出身のハーフ。ちなみに英語の成績は平均である。
黒髪に母譲りの赤髪がわずかに混ざっている。本人曰く、ピンクブロンドらしい。身に着けるのもピンク系が多く、「だってマイカラーだから」らしい。
元気、溌剌、(か)トゥース(ずめ)を推している。将来が心配される女子高生。
「「俺も連れてけ」」
角を突き合わせた二人が同時に振り向いて声を合わせた。
「無理だろ」「却下だ」
返答もまた同時だった。
「なんでだよ~」
「いいじゃん、一緒に行こうよ。男二人じゃバランス取れないよ。可愛い女子を入れてこそのユニットだよ」
鈴女は、ちっちっちっと指を振る。そして、さりげなく学を排除している。
「観光ガイドなら、他を当たれ」
「足手まといを増やす義理はない」
「なんだよ~。先週だって、芸人がバズろうとしてバカやっただけだろう」
「いや、発表されてないだけで死者は出てるぞ」
「えっ、マジで?」
ルドン近くで“草ネズミ”一匹も狩れなかった男が7240円の探索手当欲しさに、持っていた“特殊器具”で見ず知らずの男を刺して“ネズミの尻尾”を奪った事件があった。結果、死亡者2名だ。
それも“魔王領における死亡者”なのは間違いないが、ほとんどの人が思い描く理由とは違うだろう。太原も勘違いさせるために言っている。所謂、ミスリードというやつだ。
いや、それさえも言い訳か。探索手当の給付条件は魔物の駆除だ。言葉を飾らずに言えば、対象を殺すことを求められている。相手を殺しに行っているのに、自分は無傷でいられる保証なんてできる訳がない。
もっと言えば、行くつもりで査証を取ったのなら、自由に行けば良い。本人の意思を止めるつもりはない。こいつらは自分の命を守るために僕の命を使えと言っているに等しいことが分かっていないのか。だから、僕は自分から他人を危地に誘わない。
クラス全体が固まっていると、いきなりドアが開いた。
「授業を始めるぞ。全員、席に着けー。
あー、太原と池園はこの授業は出席にしておくから、職員室に行くように」
「はぁ~、朝っぱらから先公に呼び出しくらうだなんて、マジでウゼーぜ」
池園がぼやく。
「何かしたんだろ」
「んなことすっかよ。めんどくせー」
ここに来るだけで立派だろーが。
「お前が暴れたつもりなくてもなー、怪獣が歩いているのと一緒だもんよ」
「僕もですか」
「どうせ、お前はいつも俺の授業は聞かんだろ」
「まあ、そうですね」
投げやりな英語の先生の問いかけに間を開けずに太原が答えた。




