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065 “鬼太郎”関

 本日は魔王領への第2の連絡路、陸の玄関口となる“鬼太郎(オウガ)(ゲート)の開通式典だ。

 命名の由来は、鬼太郎山(おにたろうやま)からだ。田村市内にあった訳でもないが、環状山脈に呑み込まれた双葉郡とともにその名を記憶に残しておきたいという理由からだ。

 出入国管理のために“円環の水盤”を塞ぐように作られた建物は、2層の鉄筋コンクリート造の上に鉄骨造の2層を加えた混構造になっている。その(たたず)まいは山裾から張り出した棚所(バットテラス)に立つ山小屋のようだ。

 施工期間を圧縮するためとの説明がなされており、鉄骨造部分は後々に鉄筋コンクリート造に改築される予定とのことで、1-2階部分の架構はかなりゴツい。

 下層の窓はそのほとんどがスリット窓で、屋内も狭く区切られているそうで、建築基準法には適合していないと見られた。それも田村市特区ゆえの措置だろうか。

「まるで砦か要塞だな」

 後の改築のためにテラスから突き出した柱型が城塞の狭間を思わせる。

 缶コーヒーをくわえた記者の呟きは山肌に張り付いたその建物を表現したが、そう言われるとそう見えてくるから不思議だ。


 式典会場は屋外の中央広場に設営された。

 中心にある円形の水場の真ん中には噴水の代わりに、倒れかけても朽ちなかった樹が移植されている。

「内部はセキュリティのために非公開らしいっす」

「まあな」

 探索者なるものが活動し始めて、2週間だ。その間にテレビ局のロケハンに同行した芸人の一人が行方不明との報が入っている。新たに任命された青山 官房長官の会見では、海外旅行でも予期しないトラブルに巻き込まれることはよくあることで、週あたり50人の死者数がある交通事故に比べれば安全だと言っていたが、はてさて。

「自己責任ということですか?」とぶつけていた報道もあったが、そりゃそうだろ?テレビ局に責任はあるかも知れないが、なんでも政治のせいにすれば良いというものじゃないだろ、バカか?そんなんだから、マスゴミって言われんだよ!

 目の前の砦に戻るが、“一つ目(ルドン)(ゲート)は魔王領側に巨大な建造物があって、日本側の出口は海と出島に遮られている。官房長官の言葉を借りれば、予期しないトラブルが起きても、どうにでも出来そうだ。

 周囲を見渡せば、どれもコンテナのトランクルームばかりだ。順次、恒久的な建物に置き換えていくそうだが、現時点では、まるで被災者の避難所のように見えてしまう。

「未来を先取りってか……」

 ろくでもないな。飯のタネにはなるが、そんな未来はこないほうが良い。

「武器・防具屋があるっす。異世界っぽいのは良きー」

 興奮気味にシャッターを切っているが、あれがお前のファンタジーかよ。俺にはお前のその頭がファンタジーだよ。

 確かに、煉瓦積みのような外装に、木枠の建具、看板なんかもゲームのそれっぽいが……たぶん、会場に流れる音楽に気分が引っ張られているに違いない。えーと、なんて言ったか、ケルト音楽だっけか。

「はぁ、関の刀鍛冶って、あっ、三条に堺の看板もあるじゃねえか」

 三大刃物産地が勢ぞろいかよ。

「あっちでゾーリンゲンやシェフィールドからも出店の希望が出されているって話してたっす」

 ここは行政特区に設定された。

 特区内では、往来での武器の所持が認められ、探索者組合を中心とした自治が許される。地方自治とは根本から違う言葉そのものの自治だ。

 アメリア合州国や他国でも町を歩けば、銃器店を見掛けるし食料品が並ぶ量販店に同じように銃弾が陳列されているが、日本国内でそれを見ることになるとは想定外だ。


 役者が出てきた。

 久坂部(くさかべ) 内閣総理大臣と岩破(いわさく) 特命担当大臣(領土)が談笑する姿は考えられなかった絵だな。同じ政党だが、総理の椅子を巡ってバチバチとやりあってた二人が握手するとは思わなかった。

 そして、魔王国からは麗しのレヴィア領主が姿を現した。

 途端に……

「あー!よっしゃいくぞー!レヴィた~ん!

 言いたいことが、あるんだよ!(なになに?)やっぱり、レヴィたんかわいいよ!

 好き好き大好きやっぱ好き!(ひゅう~)俺らも一緒に旅したい!

 あ、い、し、て、る〜!」

 法被を着て、陽光の中でサイリウムを振りながら、一糸乱れぬ動きは、レヴィア非公式ファンクラブの団体だ。

 連中は全員が入国審査で弾かれているらしい。だから、こんなところでアピールしているようだが、逆効果だと思う。レヴィアさんが死んだ魚のような目で二の腕をさすってるし。

(弾いているのは故意ではなく、結果だ。頭脳や身体を鍛えている者が適合する傾向が強い。彼らがそうではないとは言わないが)

 隣の上半身裸体の大男がビクッとして背中の大剣に手をかけてるし。って、あっちにもヤバいのがいるな。裸に十字に革帯を巻いて、大剣を背負うって……んで、村長って、マジかよ?

 それと舞台の袖でもめているのは、女子高生勇者の(稲光(いなみつ))真琴ちゃんだな。彼女が探索者組合の長だと聞いた。つまり、ここの特区の長でもある。

 だが、今日もまた、いつも通りに涙目だな。帯剣して革鎧をまとって大勢の人前に出るのがイヤなようだ。

「マコっちゃん、頑張って」

 身内にもいたか。そのシャッターの切り方は仕事の熱量じゃないよな?

 真琴ちゃんが黒ドレスの女性に押し出されて出てきた。

 その横の白張(しらはり)装束のニヤけ顔も気持ち悪いな、足元の子犬たちは可愛いけど。

(真琴ちゃんは召喚勇者なので、常人では太刀打ちできない力の持ち主ですが、アクア・スに軽くあしらわれている姿をよく目撃されているので、その実力を正しく知っている者は少なかったりする。

 また、女官長であるアクア・スは魔王さまの側近中の側近だが、政府の役職にはないので式典などでは裏方である。戦時では諜報部隊(ワン・ハンズ)の長だが、それも表の世界に堂々と姿をさらす職ではないだろう)


      ◆


「くっそ、調子にのりやがって、クソガメの癖に」(クサガメとも糞瓶とも、ひどい悪口です)

 射蔵(いくら) 副総理が中継を見て罵る。

 あまりの傍若無人ぶりに耐えかねた久坂部 首相に財務大臣の職を解かれたので、内閣法では副総理の指定からも外れているはずだが、自身でそう言い続けている。



 内閣改造で財務大臣には(せき) 肆腥(いなり)が、空いた官房長官の席には無派閥を貫く関の唯一の弟子である青山 百合(ゆり)が就いた。報道記者から報道キャスター、東京都知事を経て、国政に出てきた逸材だ。世間的には美人すぎる報道記者の方が通じやすいだろう。すでに50代だが、その可愛さも健在だ。頭の回転の速さも知事の経験で証明されている。久坂部の次は関で決まりだろうが、この抜擢で初の女性総理が誕生かと話題になっている。

「良かったのですか」

 ポストの件もあるだろうが、魔王領の情報にも触れる立場、つまり、新種との生存競争の秘密にも関わると言うことに対しての懸念だ。

「関が導いてきたんだ、資質は申し分ないんだろう?

 いずれ世間にも魔王領の実態がもれるさ。射蔵くんを放し飼いにしたのだから、な」

 苦笑いの久坂部に、笑っている場合ですかと渋い表情の関がとがめる。中にいては和を乱し、外に出せばありもしない話でこちらを崩してくる、本当に扱いづらい相手だ。

「青山は今少しの時間稼ぎと、(こちらにとって)正しい情報を発信し続けることが役割になりますか?」

 発信者に対する信頼が情報の真偽に影響する。

「今はね。彼女次第だが、もう少し期待させてもらおうと思っている。

 それと、合州国の大統領が、どこから聞きつけたのか、“山峡(やまがい)”の対処に協力する用意があると言ってきたよ。

 見返りは素材の共同研究だそうだ」

 “力こそパワー”を信奉する連中に主導権を渡すのは最悪の事態を招く予感がする。

 事態は急速に動き始めていた。



 射蔵は久坂部と袂を分かって以降、屋根裏(おくねり) 幹事長の派閥と合流し、復帰の機会を待っている状況だ。

「射蔵くんの気持ちも分かるが、ここで憤っててもらちが明かんよ。

 確かにアレに国政を任しておいたらあかん。ただアレも力をつけた。やるときは確実にたたき殺さなくちゃならん」

 老齢と放漫の証である頬のたるみ皮膚を震わせる。


 屋根裏 幹事長も、久坂部が総理になってから、影響力が落ちた。

 表に出る必要はない。陰で調停し指示を与えすべてを意のままに操る。それが今は、自身をさらして発信する破目(はめ)になっている。さすれば、言葉の揚げ足をとるバカ者どもも出てくる。

 気に入らない。愚民どもは、黙って従っておれば良いのだ。

「誰のおかげでその椅子に座れたと思っておる」

 人目をはばからずにそう口にする。何事も自分に相談し、自分の意志の下に政治を行うのは必然である。日参するくらいでちょうど良い。

 アレは自分を軽んじている。そう感じた者はことごとく目の前から消してきた。


「しかし、久坂部(ヤツ)もしぶとい。引きずり下ろすのは容易じゃない」

 射蔵も魔王領のことを突かないだけの自制心はある。自身が再び総理に返り咲いた時に立場を危うくさせる可能性のある劇薬であることぐらい理解している。但し、その意志に関わらず、彼の口からは自然と情報がこぼれ出る。首脳部から離れて、その制約からも解かれたのだ。それはもっと緩くなることだろう。

 そう、彼も総理経験者だ。

「揺さぶってやれば良い……」

 正面からではなく、からめ手からいくのは政治家(かれら)の常道だ。

「……射蔵くんは警察庁に強かっただろう。コレを気に入らないと思うのは君だけではない」

 射蔵の内閣では官房副長官に当時の警察庁長官を就けている。それくらい彼と警察庁の関係は深い。

 二人は低く笑い声を上げた。




筆者注)新官房長官のモデルは、緑のおばさんではなく、とある医療ドラマで東京都知事を演じたゆりちゃんです。

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