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046 入国審査(後)

 建物から出て、次の検査の受付になっている迷彩模様の災害用テントに向かう。

 そこに先程書いた“責任免責書”を提出する。

 それに同意しないと、次の検査である“環境適合性試験”は受けられないらしい。

 責任免責書はバンジージャンプなど、危険なことをする前に書くあれだ。それとも、ワクチン接種の時に書いたあれと言った方が昨今は伝わりやすいか。

 記載内容を読むと、現地に放射能の心配は全くないが、それらを撤去した影響で“原初の環境”に似た状況になっているらしい。

 そりゃあ、人の幾世代分の期間をかけても風化しないような物質が飛散し土中にも浸潤したんだ。どんな方法(マジック)を使ったのか知れないが、元の通りでござぁーいといかないことは想像がつく。

 原初の環境って、なんだろうと思うが、適合には個人差があり、合わない場合は人工透析治療を受ける場合もあるようだ。

 そのために病院のそばに会場を設置したということか。

「最悪、4~5時間、寝っころがるだけなら、まぁいいか」

 あまりにも用意が良いと裏を勘繰りたくなるが、ここまで来て引き返すという選択肢は彼にはない。経験値の少なさによる無鉄砲は若さ故の代償と言えるが悪くない。なんとしても、その経験は積めるし、やり直せる時間もある。

 先程の脱脂綿はその重篤な症状を起こす可能性を極力排除するためのアレルギー検査のようなものだったということだ。文句を言ってた人にも渡されてた書類なんだけど読む前に症状が出ちゃったのかな。


「では、こちらを食べて、あちらの白テントで少し運動してくださいね」

 渡されたミニトマトを口に放り込む。目は、指し示された大小2つのかまぼこを繋げたような医療用陰圧テントをおう。

 噛んだ。

「苦っ!」

 係員にさっと渡されたコップを受け取って、流し込んだ。

「苦っ!」

 水まで苦い。喉が苦い!

 若さゆえの無防備な素直さもまた良きだ。一つの経験は千の学びに勝る。

 だました係員は、ですよねーと言った表情だ。予め、苦いと説明されたら躊躇する者をいるだろう。効率を求める故の、騙し討ちは受け入れるしかないのだろうか?

「こっちは大丈夫ですから」

 いくつかの果汁パックが差し出されたカゴに用意されているが、手が出ない。

 ピロピロン!彼は疑う事を覚えた。

 疑いの目で見れば、相手の眉が下がっている。

 ブルーベリー入りの飲むヨーグルトを選んだ。


 白テントに入れば、空調の音がすごい。エアーテントだ。室内を陰圧に保っているのだろう。

 小かまぼこの通路を抜ければ、フィットネスジムによくあるランニングマシンが3台ほど並んでいた。

「手荷物を籠に入れて、早足か軽いジョギング程度の運動をしてください。所要時間は十数分です」

 スピーカーから声が流れる。

 間仕切り布の奥に人の気配がする。彼の状態を観察し記録(モニタリング)でもしているのだろう。

 室内には、被験者がもう一人いた。カラフルな登山着でパックジュース片手にジョギングしている姿が妙に調和している。

 彼もライディングジャケットを脱いで、厚手のジーンズに白シャツで同じように走り始めた。


 映像も音楽もない状況でただ運動するのは退屈だ。

 隣ではぁはぁ言っているのを聞くと、話しかけるのもためらわれる。

 必然、目にするのはマシンの分速表示だけだ。

 140mをぴったり維持するように走る。ジョギングと呼ぶには少しばかり速い。

 興に乗り始めたところで終了の指示が出た。


太原(たいげん) 啓介さん、お疲れ様でした。こちらが入国推薦状です。あちらの棟の2階で説明会がありますので、それで本日は終了です」

 結果が早い。彼=太原が白テントの外に出ると、待ち構えていた係員に封筒を渡された。

 示された場所は脱脂綿の棟の上階だ。封筒の中の推薦状には④の印判が押されていた。


 直ぐ様に向かえば、第一説明会場と貼紙をされた引き扉の横の壁のボードには、手書きで開始時刻11:00~とある。

 部屋を覗けば、2つ席の長机が3列並び、前方にはホワイトボードとスクリーンに司会者台が用意されていた。思いつくのは、教室というよりもサークルで利用した区民会館の集会室か。定員48名で時間当たり660円だった。

 それはどうでも良いが、席に着いているのは未だ数人だ。さすがに合格者がこれだけと言う事はないだろう。

 ホワイトボードには、以下のように書かれていた。

『席は自由。但し、時間前でも満席になり次第に開始します。

 講習時の飲み物は自由。トイレ休憩はなし。携帯電話はオフまたはマナーモードに』

 説明会の開始までにはまだ間がある。皆、どこかで時間を潰しているのか。満席には程遠いが、自衛隊駐屯地(ばしょがばしょ)だけにうろちょろしづらいよな。


 音声に気付いて廊下に出れば、隣奥の第二説明会場の廊下に薄型画面(モニター)が掛けられている。

 この入国審査の会場となった駐屯地のある宮城県知事の伊達(いだて)と富塚による探索者に向けての動画(メッセージ)が流されていた。

 彼らはお笑いコンビ“三度(さんど)()”の肩書の方が知られているだろう。知事に転身したと聞いた時は意外だったが、陸奥の国の領主と宿老の家系だと知って、何故か納得がいった。あの震災の復興にも熱心に取り組んでいたが、その行動を推し進めた結果にそこに行きついたのだろう。

「どうもよろしくお願いします。まあ、おかげさまでね、毎日ばたばたとやらせて頂いてます。征服知事の伊達です。複製(かげむしゃ)知事の富塚です」

 ちょっとなに言ってるのかわからないが、知事に出馬・当選したのは伊達で、富塚は副知事に任命された形だ。正・副を正逆使いして、お互いの立場に差はない、コンビで施政に当たっていくと言う姿勢を示したと言う事らしい。そこにおふざけが加わるのはコメディアンの血ゆえのことだろう。

 それはどうでも良いが、大事なのは内容だ。

 動画でも(うた)っているが、薄型画面(モニター)下の長机の上には要約の紙片(レジュメ)といくつかのパンフレットが積んである。

 “宮城県交流人口活性化戦略”と銘打たれ、県内人口の増加と県外からの旅行者に対して滞在時間の増加を成果指標としてあげている。

 仙台市の政策に乗っかった形だが、福島県の南相馬市を巻き込んで、魔王国との連携が組み込まれたようだ。事業移転や移住者への特典、宿泊設備や服飾品の購入など探索者に対する支援の充実などが書かれている。

 相談も無しに国に県土を奪われた思いの強い福島県では県民感情の憤りが激しい。しかも、その対応を巡って、北と南で対立感情が生まれている。それ故に、活発な施策が打ち出しづらい状勢にあった。


 太原が要約に描かれたQRコードを携帯に読み込んで、詳細情報を確認していると後ろから声が掛けられた。

「太原、お前、こんなとこで何してんだ?」

「ん?池園くんこそ、久しぶり?」

 声を掛け合った後に固まる二人だが、どちらもこんなところで会うとも思っていなかった。

「いや、ちょっと前に会ったばかりだろ」

「まあ、そうなんだけどね。なかったことにした方がいいかな?って」

「この前も今も、誰もいねぇって。てか、いるほうがおかしいか()な」

「ははは。そうかもね」

 太原が遭遇したのは同級生の池園だ。学校を早退したあの日に街中の建設現場で遭遇した(ケンイチ)である。

 今日もあの日と同じ作業着を着ている。手に持った銀色の水筒が妙に似合っていた。

「飲むか?麦茶だけど」

 視線を感じたのだろう。

「ぜひ、もらいたいね」

 緊張や驚きで喉が渇いたのではない。ただ単に先程の苦味が口に残っているのだ。


 そして、お互いの姿を見て、半笑いを浮かべる。

「その恰好は、明日には現地に乗り込むつもりなんだよな。しかし、合ってねぇな」

「それはお互いさまだよ。フルフェイスじゃないことを評価して欲しいね」

 ここで会ってないことにしようということではない。

 お互いの服装を冷静に見ての品評である。

 片や、ライディングジャケットに白ツバ半キャップ(赤ヘル、SGマーク適合品、125cc以下)をバイクバックにぶら下げている。

 片や、現場作業着に腰袋、バックパックに安全帽をぶら下げて、手には銀色の水筒である。筒には『喉が渇く前に飲む』とラベルが張ってある。

「フルフェイスなら、職質まったなしだろ」

 確かにバイクに乗らずに街中をこの姿で歩いていたら怪しい事この上ない。池園は自分の姿を棚に上げて、にやにやと相手を評価する。

「そっちこそ、休憩中にここまで来ていいのかい?」

 こちらは作った顔で対抗する。

「ばかやろ、これは借りてるだけだ。それに昨今の現場は祝休日は休みだっつーの」

 水筒がいかにも現場の支給品です的な拵えである。

二人ともせっかく訪れた仙台なのに観光する気がまるで感じられない服装(みごしらえ)である。


 片や、秀才だが自分が愚か者と評する者には明らかな一線を引く、取っ付きにくい男である。

 片や、余り登校もせず何をしているのか分からず不良と扱われても動じない、親しみを持たれない男である。

 よく言えば、二人とも自分の意思が強くしっかりとしているということなのだが、周囲に迎合しない姿勢は今の時勢には浮いた存在となりやすい。

 だが、お互いに人嫌いという訳でもない。

 それに今は魔王国という共通の話題もある。

 そんな二人が行動をともにするのは、自然な流れだった。


筆者注)様子見中です

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