047 説明会場
「お疲れ様でした。
おめでとうと言う言葉は、この後おのおので感じることがあるだろうので、控えさせてもらう。
先ずは、入国推薦状を確認して欲しい。
各々の姓名等の記載が正しいか。そして、大きく捺印された数字は皆さんが許された連続した滞在日数を指している」
厳密には、掛ける24で時間単位で出入国管理をされるらしい。健康管理に起因するものなので、各自が肝に銘じるように言われた。
登壇している者が、自衛隊の制服を着ている人のためか、言い回しが厳めしく感じる。
結局、会場の半分ほどしか席は埋まらなかったが、皆、朝も早かっただろうに居眠りする者などはおらずに聞いている。太原も説明役の言葉を時折、書きとめていく。これが彼の勉強法だ。重要だと思う文言を書き留めて、自己流にまとめる。板書することなど無意味だ。
数字は、③~⑤日で、②に関しては予備推薦者として、今後、講習を経て認定資格を得た正規推薦者が同行した場合のみに入国許可が下りるとのことだ。もしもの場合は有資格者がその責任の一端を担わなければならない。受ける人はいるのだろうか。需要は有りそうだから、それを仕事にする人も出てくるかもしれない。
そう仕事だ。
一般的な入国審査と言えば、
1. 入国・滞在の目的
2. 滞在期間
3. 滞在場所
を聞かれるものだ。
在住者(=魔王国の国民)ということはないので、全員が旅行者の列に並ぶことになるだろう。滞在場所についても、外周2か所の関と拠点としての開拓村が一つあるだけだ。
ここに至るまで上記には一切触れられていない。
仕事ですとか、観光ですとか、の受け答えが発生していない。まあ、それらは何を言っても、嘘くさい事この上ないが……。
「皆さんには探索者として、害獣を一匹間引くことを条件に、日本国から一日につき7240円が支払われる。
これは自衛官の特殊勤務手当である国際緊急援助等手当4000円ならびに災害派遣等手当3240円に相当するものと考えられたい。
そして、間引いた害獣他……」
そう、集まった全員が“探索者”と言う括りになる。害獣と言っているが、ウェブではすでに“魔物”や“怪物”と称されているものを狩る仕事だ。
話を聞いている連中は、一攫千金を夢見て集まった「ひと狩り行こうぜ」の者どもなのだ。
害獣他、魔王領からは全ての物の持ち出しは禁じられている。探索で得た素材や、領内で使う金銭も関で換金することになる。
「安っ!」
「基本給みたいなもんだろ。稼ぎは自分の腕次第って事だ」
どこかの兄ちゃんの呟いた声に、池園がつまらなそうに被せる。社会ですでに汗している者は達観している。
「へー、一端の社会人っぽいよ」
太原が雑ぜ返す。
「ばかっ、あれはバイトだっつーの」
そんな単純な話でもなさそうに思うが、池園がそう返すのならそのままに受け取っておこう。それとしても、日給月給の鉄筋工なら、見習いでも提示額の倍以上はもらえると思っていたがそうでもないのか。
「税金はどうなっていますか」
説明役の自衛官が沈黙する。手を挙げてはいるのもの許可する前に発言し始めたことに叱責を飛ばすところだった。やはり、早期にビデオ講習に移行すべく働きかけようと心に留める。
「個々の質疑に関しては、南相馬海上防災基地(一夜島のこと)に臨時で開設される部署で確認して欲しい」
正式な機関は福島県田村市の特別区域に設置予定だとのことだ。それまでの経過措置との話だったが、復興を御旗に宮城県も特別区域の設定を求めて政府と綱引きをしているとの報道もあるので、どう転ぶかは不明だ。
「皆さんが気になっているであろう現地の状況についてお話しましょう」
そうだよ、先ずはそれだ。
「(攻略推奨)レベルは重要だからね」
太原がゴチる。
「ん?(水平測量の)レベルがなんだって?」
取っ散らかってる池園くんは放っておこう。
「まぁ、雑な仕事はダメだかんな」
独りで完結できたみたいだし。
出ていきました。激戦区でした。何も分からないうちに死にましたじゃお話にならない、と言うか流石にそんなとこには興味本位では行けない。
太原も外務省から渡航制限が出ている区域ではないことはwebで確認してからここには来ているが、安全が確認されたアトラクションでないことも理解している。
「現在の魔王領への連絡経路は、南相馬海上防災基地を通じた“一つ目”関の一つだけで、領内にもアルベリックと言う開拓村が一つ存在するだけだ。そこを人類の拠点として、我々、陸上自衛隊の一隊が宮内庁の掌典の協力を得つつ、領内を探索している……と言うのが現況だ」
政府は紀伊は熊野の霊域とされる山中において星の声を聴ける盲聾の祭祀との接触に成功していた。いくつかの五感を失った能力者でないと聞けないほどに星の声は小さくなっていた。そして、理を同じくする同胞から、羊面が語ったことの裏付けが取れて、心の底から震撼した。
自衛隊の出動の法的規制など議論している場合じゃなかった。
どのように対処するのか。その前に状況の制御は可能なのか。
国際的にその情報を公開するのか。
「そんな場所は焼き尽くすしかない」
最も身近な同盟国の言うことが想像できて逆に笑えた。
対策を考えるために、少しでも時間と情報を欲した。
しかし、ただでさえ不足している自衛官だけを注ぎ込む訳にはいかない。いかにも何かを隠蔽しているように見えるし、いつかは民間の協力が必要になる。それは一般市民に犠牲が出る可能性にも目をつむることと同義だが、マスコミに対する良い目くらましにもなってくれるだろう。
完全な情報統制を敷くよりも、場合によっては民間から自然と情報が漏れ出すことを想う無責任な閣僚にとっても望む方向性だった。
「皆さんには開拓村周囲の探索と害獣駆除をお願いできれば有難い。
該当地区には狗猧に類する害獣しか遭遇記録はない。皆さんにも駆除は可能だと判断している。但し、軽挙妄動はつつしみ、十分に安全に配慮していただきたい」
なるほど、“えのこ”ね。犬子、蛆(蠅の子)と書くのかな。類すると言うことは、いろいろな種類がいるということか……イイネ!一夜島の新設部署でも調べられるだろうか?太原が素早くメモに書きとっていく。話を聞きながら、今後の行動予定も立てていくのが彼らしい。
「魔王領に関する持ち込みだが、電子機器の持ち込みは不可だ。というよりも、関を通る際に電源の開閉に関わらず、データが破壊される現象を確認している。防災基地にもコインロッカーを配置しているが、数に限りがあるので各自注意されたい」
マジかー。噂では流れていたけど、スマホが使えないのか。
「ホテルに預けて、帰りに回収すればいいだろ」
「それって、チェックアウトしても大丈夫ってこと?」
「場所によるけど、な」
「池園くん、マジ大人!」
「よせやいって」
大人に混じって仕事をするって、そういうことも知れるのか。
ここから魔王領までは、送迎バスで2時間かかる。(後に陸自の霞目飛行場から専用便が有料で発着することになるが、今はまだない。ちなみに一夜島に一般人向けの宿泊設備はない)
太原の最初の予定では許可が下りたその足で魔王領に突撃して、現地の拠点で夜の時間を聞き込みに当てようと思っていた。RPGでも最初の場所で村人に話しかけまくるのは基本だよね。信用できる攻略サイトがあれば、それを閲覧するのも有りだけど、まだ無いしね。が、池園と出会って、今日は国内で宿泊して万全な体調で臨むことに変更されていた。
「それと“特殊器具”として、銃器の持ち込みも禁止されている。“日本国の法律の外なのだから銃が使える”とは思わないで欲しい……という事もあるが。
害獣は学習機能があるらしい。繰り返せば、いづれ同じ攻撃がこちらに降りかかるということだ。どの道、行為の害獣には銃器は通用しないとの報告も受けている」
説明はまだ続いている。聞き逃す訳にはいかない。




