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042 柿落―想定内―

 魔王国の活動資金の調達と国際的な下工作(ねまわし)のためにアメリア合州国で活動しているアガレスは、幻島の侍従室(アルフォンス)にその官邸で得たミサイル情報を対応策とともに伝えた。

 人知れずの行動かつ内容のために、弱みを握られた味方と潜在的な敵を増やしながら、アガレスは次席補佐官の立場を大統領から与えられていた。次席と言っても2番目と言う意味ではなく、数いるうちの一人である。補佐官は議員である必要もなく、任命に議会の同意を得る必要もない。要は大統領の側に自由に出入りできる肩書を得ていた。


      ◆


「わざわざ対応する必要も無いようですが、寸時とは言え、庭先を荒らされるのもアガレスさまの言われる通りに不快ですね」

 アガレスから連絡を受けた侍従長のアルフォンスの談である。勿論、その内容は魔王領にも伝達した。

 弾道ミサイルは宙空に弾着する。その衝撃波は結界を波立たせるかも知れないが、突破することは能わない。ばらまかれた汚染物も海流にのって拡散していくだろう。

 その報は、ぬぼっーと釣り糸を垂れていた幻島の警備責任者のフォルニョート将軍に伝達された。

 先程から、竿先が振れているようだが、彼が気にする様子はない。本質が漁民である彼は、釣りの雰囲気そのものを楽しんでいるのだ。

 それを邪魔するかのような報に、彼は肩を震わせる。

「し、仕事だ!仕事が来た」

 彼にも軍人としての自覚がある。

 竿を収めると、そのまま岸壁から身を躍らせた。3mの身の丈を誇る巨人族とは言え、それに数倍する崖からの投身は彼以外には自殺案件だろう。

 海中を笑顔で突き進み、ある程度、島から離れたところで、海面に立ち上がる。

 宙空の一点を見据えると、手を水に潜らせ、海水を掴んだ。

 掴んだ水は形を整え、三叉の矛に姿を変える。柄の表面にはウーツ鋼のような縞模様が絶えず動き、それに陽光が反射し、光を封じ込めたかのように見えた。素材となった水が、矛の姿になっても流れているのだ。

 海の巨人フォルニョートは伸ばした左手で宙の一点を指し示し、胸を張り、その槍を空に投擲した。

 通常、意志の届く距離は30mほどとされるが、それはそのまま摩法の有効射程ともなる。

 しかし、三叉の矛はその常識を超えてぐんぐんと上昇し、飛来してきた弾道ミサイルを捉えて破壊した。

 当の本人はその行く先を見治めることなく、いつの間にか身の丈ほどの巨魚を抱えて帰還中である。それはひと仕事終えた自分へのご褒美だ。

 海においては、彼の意志に限りがみられない。彼が半神巨人(ネフィリム)と呼ばれる所以である。


      ◆


「やってくれたな、星の意志(シェーナ・ユード)よ」

 魔王さまは演武を観戦していた部屋を離れて、今はラックランドを見下ろしつつ海側方向に上昇中である。

 しかし、口を突いて出たのは、今からの事についてではなく、先程の予期せぬ摩法陣についての愚痴だ。

 魔王さまへ意想外の介入をしてきたのは、他でもない地球の意志以外に考えられない。

 摩素のほとんどない世界で、摩方陣という摩法の精緻を要する技術を持った存在がいる可能性は低い。

 対して星は異世界の者を勇者として召喚する力を持った存在だ。自惑星上の“死んでその意志を失った生物の遺体”を回収するなど造作もないことだろう。

 だが、それをやるか否かは別の問題だ。実際に魔王さまはそれを想定していなかった。そんなことに星が手を出すとはまったく考えもしないことだったのである。

「せっかく、こちらに合わせて、通称(なのり)も与えたと言うのに……」

 尚、考えたのはアガレスである。こちらの鬼という存在に寄せて、業悔卑(ゴブリン)と呼ばせようとした。裏を知れば、通称というよりも痛仕様と言えなくもないが。

 遺体を回収した目的は、それを新支配者の一助とするためだろう。ゴブリンが高度な文明を築けるまで進化することは難しいだろうから、支配者たり得ないと考える。個体としても人種が対応できないことはないと思うが、迅速性、集団性および繁殖力の強さは、侵略の先兵には適している。

「まあ、良いか。星が課す試練だ。その住民は受けいれるしかあるまい」

 魔王さまは気持ちを切り替えた。

 その惑星に住まう全ての生命体の母とも言える存在がなす行為だ。その子たちは甘んじて受け入れるより他はない。

 きっかけを作ったのは貴様だろうと言う(ツッコミ)に魔王さまが耳を貸すことは無い。

 椅子に座った姿勢で上昇していた魔王さまが顔を上げれば、当該空域を警戒飛行中だった戦闘機が目についた。

 つまりは、この高度が迎撃の最終ラインということだろう。

 懐の携帯が軽快な音を奏でる。

「我だ。どうした?」

 幻島の侍従室(アルフォンス)を通して、アガレスの報告を受けて、飛び立った魔王さまである。再びのアルフォンスからの連絡に眉をひそめた。

「日本国 総理から連絡がありました。

 ミサイルの迎撃に失敗したので、なんとかできないか。

 そして、鹵獲してもそれを白華国の領域で爆発させてくれるなとの要請です」

「面倒なことを……」

 (おや)(おや)ならば、()()だな。勝手なことばかり言いよる。

 魔王さまの機嫌がさらに下降した。

「はい、勝手を申しているのは重々承知しているが、そこを推してのお願いだとか。どうやら、被害が日本国に及ぶのを恐れているようでした」

「考えてみよう」

 通話を切った。意想外だった先の件について、多少の(うしろめた)さはあるらしい。


 魔王さまは再び視線をさまよわせて、2機編隊の戦闘機に狙いを定めた。


      ◇


 宮城県の松島基地を緊急発進(スクランブル)した戦闘機の候補生(パイロット)は、探知機(レーダー)に目を凝らしていた。

 大気圏を抜けてくる軌道のミサイルと遭遇できる時間(とき)は一瞬だ。そのわずかの間に、破壊するしかない。

 基地管制により運行統制がなされ、この空域に存在するのは自分らと侵入してくるミサイルだけだ。

 ミサイル(SM-3 ABM)での迎撃に失敗したとの一報は受けた。我々が国民を守る最後の砦(ラストライン)だ。

 手に汗を握る。

 バンッ、バンッ。バンッ、バンッ!

 自身の心音がうるさい。

 同じ姿勢に固まっていたためか、無意識に血流が滞るのを避けるために、探知機から視線を外し首をいち回転させる。

 ん!

 人と目が合った。

 蒼穹(そうきゅう)が拡がるはずの場所に人影がある。視線を上げたのは、陰ったことに対する条件反射だったのかもしれない。

 バンッ、バンッ。バンッ、バンッ!

 その人物が操縦席を覆う透明な円蓋(キャノピー)を叩いている。

 顔は青く、頭の中は白くなった。

「メイ・デイ、メイ・デイ。只今、我が機は未確認の人?により攻撃を受けている。教官、助けてください」

松本(サク)候補生、落ち着け。今、目視にて確認、管制に通知した」

 航空自衛隊の松島基地と言えば、ブルーインパルスが有名だろう。

 以前は領空侵犯に備えた実戦部隊が配備された航空団だったが、現在では“戦闘機操縦基礎課程”を修了した候補生に対して、教育訓練を行っている部隊しかいない。出撃したのも複座型のF-2戦闘機だ。

「ど、ど、どうしたらいいですかー。人に出来ることじゃないですー」

 完全にパニックだ。バードストライクの経験はあっても、空中で人と衝突する事案は空自史上でもないに違いない。

「管制から返答があった。対象は恐らく魔王さまだとのことだ。意志の疎通を図れ」

 教導官はそう言いつつも、探知機に進入してくるであろう光点に注視することを忘れない。

「意志の疎通って、乗せろってことですか。こんなところで円蓋(キャノピー)を開けたら落ちちゃいますー」

 VTOL(垂直離着陸機)でもない限り、そんなことは出来ない。失速してしまう。

「当たり前だ!

 見振り手振りでも、モールス(符号)でも出来ることをしてみろ。やれば出来る」

 英語以外にもいろいろな語学を使って海外の人たちとのコミュニケーションを取る必要がある自衛隊だが、これも想定内か。

「そんな無茶な」

「魔王さまは日本語もいけるそうだ」

「あっ、えっ、……ミサイルに向かって飛べって指示されました」

 円蓋(キャノピー)に押し付けた紙に、「ミサイルに最接近せよ、処理は我がする」と日本語で書いてあった。

 そんな最中に、探査機に光点がいきなり出現した。高高度からの進入だ。弾道ミサイルは航空機のように外縁部からと言う形をとらない。

「行くぞ。ついて来い!」

 魔王さま、落ちてくれるなよ。

 隊長機が急上昇を翔ける。


応援の感想と評価をいただけると幸いです。

筆者注)余談だが、アメリア合州国の戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)に積まれている弾道ミサイルは“三叉の(トライデント)”と命名されている。

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