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SS 042_R 世界が変わる日(後)

 Walking Worldwide NEWS

 突如、画面が視聴者には見馴れた報道の舞台(セット)に切り替わる。

 いつもの軽快な音楽は無しだ。メインキャスターの普段に見せるのほほんとした雰囲気もなく、全身で緊張しているのが伺える。

「番組の途中ですが、緊急報道番組をお送りします。

 内閣より非常事態宣言が発令されています。J-ALERTなどで通知が為されていますが、非常事態宣言が発令されています。

 ミサイルが13時15分頃、福島県周辺に落下するものと見られます。繰り返します、後数十分ほどでミサイルが福島県周辺に落下する可能性があります。

 対象地域は福島県、宮城県南部、茨城県北部です。

 付近にお住まいの方は直ちになるべく丈夫な建物の中や地下に避難して下さい。

 少しでも安全な場所へ、皆さん一人一人が命を守る行動を取って下さい。

 今現在、緊急安全確保が発令されていない場所でも、今後、急激に状況が悪化するおそれもあります。誤った情報に惑わされず、また、正確性が判断できない場合には安易に情報を投稿・拡散しないようにして下さい。

 今後、……」

 魔王領での12:00開演の報道発表に合わせて、11:00から始まった特別番組だったが、闘里男(トゥーリオ)たちの実演が終わって興奮や混乱が収まらないうちに報道番組に切り替わった。


 そんなスク東に“呟き(ツイート)”もかまびすしい。

『どんな時でも我が道を行っていたスクリーン東京も、この事態はしょうがないwww』

『悲報!安定、不動の、スク東はどこに行ってしまったんだ……』

『いや、生放送(ライブ)だろ?他局が関 官房長官の官邸での記者会見室での発表を繰り返して、良く分からん専門家(笑)の解説を聞かされるよりはマシじゃね』

『みんな、安心しろ。13:45にはいつも通りに“午後ショー”を放送するからwww』

 そんなことで賑わっている状況ではないはずだが、どこか他人事と言うか、何かがマヒしてしまっているかのような反応に怒りを返す“呟き”もあり、まともに把握している者がいない状況は、一言でまとめれば乱衆(パニック)と言えた。


      ◆


 避難指示が出されている魔王領の南北の地域での反応は割れた。

 震災で原発による被害はなく、風評被害を受けた南部地域では、再びの利益を甘受しているにも関わらず、それを失う可能性に不平不満を言い立てた。今現在で魔王領が出来たことによる受益者は、土木建設業と文字通りに潮目が変わった漁業関係者だ。

 あの震災では実際に避難指示を出された区域もあった北部地域では、絶対に政治には関わらないと見られていた元芸人の知事と副知事がその情報発信力を生かして、遮蔽性の大きい場所(地下や密度の高い鉄筋コンクリート造の建物など)を持つ地主や建築主に一時的に場所を解放して地域の住民を受け入れるように通達するなど、わずかな時間にできることを必死に続けた。


      ◆


 そんな騒動の中心地というか、ミサイルの目標とされた場所には、ひと呼吸遅れて情報が伝わった。

 電波等が遮断されているため、携帯機器が鳴り響くこともなく、スク東本社からの社員への避難指示が最初の一報となった。

「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。

 本社から連絡があり、現在、この場所に向かって弾道ミサイルが飛来中とのことです。

 日本政府は緊急事態宣言を発令したそうです」

 この企画の総合司会をしていた春先アナが原稿を読むように冷静に伝える。一児の母親になって子供の元に帰らなければならないと言う気持ちがそうさせるのか、この非常事態にうろたえることもなく、目や言葉に力強さが見られる。


「弾道ミサイルって、核かよ。

 ここにいたらダメだ!地下だ、イヤ、来る時に通ったあの隧道(トンネル)がいいんじゃないか?」

 そう言いながら、目に映る範囲に非常口を探す。あの扉から走り去る緑の人の図記号(ピクトグラム)だ。見当たらない。そして、大半の者が会場から逃げ始めた。

 会場は最上階の展望デッキで行われている。見晴らしも良く、解放感のある空間だ。ガラスなどは爆風で飛散して凶器と化すだろう(そもそもガラスではないが、)。遮る物の少ない場所は状況的に問題があるのは間違いない。時間が限られているなかで、即座に行動に移れるのも一般的には評価するべきだろう。

 しかし、付加情報も確認せずに行動を始めるのは、情報を扱う本職(プロ)としての自覚を疑う。


「Hey、お嬢さん。屋上はどっち?もっと高い場所が、Bestね」

 片言の日本語で会場スタッフに声掛けするのは海外の報道記者だ。

 核が落ちてくる瞬間を捉えようとでも言うのだろうか。軽い口調でサングラスの奥に目をギラつかせながら、紛争の最前線を歩き回る連中は感覚が少し違うらしい。


「急いで喋っても、焦って動いても、視聴者に真意は伝わらなくなります。それじゃ、情けないですよね?

 感情全開でダァーと突き進んで、その時のことを覚えていない。

 伝える仕事の我々が、後世に今の状況を何も残せないなんて、かっこ悪いことはしたくないじゃないですか!」

 実況中継の大役を終えて、裏で一休みしていた大御所の新橋が姿を見せる。

 その言葉で三分の一ほどに減った会場の人々は、今までとは真逆に情報を求め始めた。

 だが、得られる情報源は放送に使っている本社との回線(ライン)のみである。そんな状況の中、頼みの綱であるレヴィアの姿が少し前から消えていた。

「あたしが聞きたいくらいよ。こんな時にレヴィちゃんはどこに行ったのよ」

 まさか、逃げたの?

春先(きっ)ちょん、呼んだ?」

「責任者が、どこに行ってたのよ。こんな大事な時に!」

 都合よく現れたレヴィアに、春先が目を吊り上げる。

「ちょっと待ってね」

 詰め寄る春先を手で制し、先程まで闘里男(トゥーリオ)の演武を映していたワイドビジョンの映像を切り替える。

 そこに映されたのは、戦闘機に貼り付く魔王さまの姿だ。いきなりのゲキ熱=最高潮場面(クライマックスシーン)である。

「で、何かしら?」

 状況に反して、レヴィアの機嫌が良いのがひと目で判る。

 レヴィアにとって大事なのは魔王さまのことだけである。それ以外のことはすべて些事にすぎない。

 演武の結果を報告し(ほめてもらうため)に魔王さまの元に伺い、次いで送り出す手伝いをしていたのである。魔王さまと触れ合う機会を逃す彼女ではない。本当は領主ではなく、専属宮女になりたいレヴィアだが、戦闘系ではない彼女には護衛力が足りなかった。

「何をしてるの?」

 何をしてたの?じゃない。春先のその手は画面を指している。

 見切れては画面が変わり、を繰り返している。二匹のイヴィルアイが撮影に対応(サポート)しているが、戦闘機に追いつけない。次元移動を使う際にどうしても画面に黒が差し込まれる。

マジかよ(クレイジー)。イーサンも真っ青のスタントだぜ」

 墜ちかけたサングラスを直して、HAHAHAと記者が笑う。

 国家において、最上の地位にいる者が、最も危険な作戦に従事する姿勢に春先たちは何も言えなくなった。

 指示を出すべき立場の者がその責務を果たせないような環境に身を置くことは蛮勇のそしりを受けよう。しかし、事故現場にある者たちの手を止めさせて、査察を行うのとは全く異なる行動であることも理解できたのだろう。

「Really, would be tough. Kamikaze attack ?」(ちょっと、厳しいだろう。特攻狙いか?)

 戦闘機が急上昇をしている姿から作戦行動中であることが分かる。つまり、ミサイルでの迎撃に失敗したことを示唆している。アレが最終防衛線なのだろう。

 そして、大気圏(高度400~500km)から落ちてくる弾道ミサイルの落下速度は地上に近づくほどに加速し、戦闘機の接敵可能時(最高飛行高度15km)にはM(マッハ)20を超える。

 一方、F-2戦闘機の最高速度はマッハ1.7で、搭載武装であるAAM-4(99式空対空誘導弾)の最大速度はM4.5である。

 数字がお分かりだろうか。つまり、側面から接敵および攻撃しても追いつかないと言うことだ。

 迎撃するためには、弾道ミサイルの落下の軸線に反対方向から正面衝突の軌道をとる以外に方法はない。


 二機編隊が急上昇を翔ける。

 相手(ミサイル)()けることはない。管制からのデータリンクを受け、搭載された各種電子機器に誘導されても、瞬時に落ちてくる相手の軸線にのることは難しい。

 先頭を行く隊長機が軸を外れた。

 それを加味して後続機が軸線には入ったが、時が遅すぎた。

 既に迎撃の安全距離は過ぎている。衝突コースだ。AAM-4を撃って、仮に弾道ミサイルを破壊できても、破片が自機を貫くだろう。

 それでも、ミサイルの発射ボタンを押す。が、発射されない。

 M61A2 20mmバルカン砲が乱射される。

 両者の間に金色の(とばり)が降ろされた。

 操縦者には自機を包む衝突の爆炎に見えたことだろう。目が(くら)む。が、覚悟を決めた突進は彼の心を高揚感で満たしていた。

 だが、その先に見えた蒼穹に、彼の心は自身の行動に一瞬で恐怖に落ちた。

 そして、そこには弾道ミサイルも、魔王さまの姿もなかった。


      ◆


 数刻後、人知れず魔王さまが姿を見せたのは、白華公民共和国の福州だ。

 白華国を5つの大軍に分けたうちの一つである東部戦区の司令部は南京だが、陸軍機関は福州にあり、そこで主席は作戦の成否の報を待ち受けていた。

 魔王さまは、影から何やらを受け取ると、すぐに宙にとって返した。その姿を確認できた者はいないだろう。

 そして、再び、宙の人となった魔王さまは鹵獲した弾道ミサイルを黒い裂け目から取り出す。

 戦闘の結果、敵から押収もしくは抑留した物・者は交戦国に所有権が認められる(私有物は除く)。これは異世界であっても、この世界であっても変わらない。つまりは、道理として弾道ミサイルは魔王さまの物ということになるが、以前の件もあり、それを返却しに来たのだ。

 魔王さま自身による配達(デリバリー)である。

 それを宙に浮かべると、地上で受け取った何やらを媒介に摩方陣を展開する。その光でようやく地上でも何かが宙にあることに気付く者が現れた。

「感謝するが良い」

 皮肉な笑みを浮かべた魔王さまが誰に向けたものか、一言呟くと次元移動を使ってその場から立ち去った。


 残ったのは、宙に浮かぶ光の帯をまとった弾道ミサイルである。

 くるくると文字列が帯状に回転していた。それは結界でもある。

 “Catch Me If You Can/如果可以的话,抓住我”(私を捕まえて御覧なさい)

 それは主席の行く先々について回ったという。



 そして、白華公民共和国は三か国に割れた。


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