025 温度差
Walking Worldwide NEWS
チャラチャチャチャチャラァ~、軽快な音楽でテレビ番組が始まる。
「スリーダブルエヌの時間です。本日のニュースも戦争の話題からです」
燃え盛る街の映像が画面に流れる。
「本日も白華国の○○市で、数キロに渡って街が炎上している模様です。これらは魔王国の反撃であると考えて良いのでしょうか」
キャスターが、ヘルメットを被った現地レポーターに話しかける。
「え~、現地で難を逃れた方から話を伺えたのですが、黒い羽根が舞い散った後、バタバタと人が倒れて行くのが見えて、炎が立ち昇ったということなんです。その方は、その範囲からわずかに外れていたとのことで生き延びることができたと震える声で話されていました」
「○○さ~ん、ありがとうございます。現地は大変なことになっているようですが」
キャスターが論説員に話しを振る。
「被災地ですが、その範囲は、きれいな円状をしているようで、このことからも人為的な感じがします。どのような仕組みなのか解明されておりませんが、白華国では、魔王国の仕業であると断定しまして、弾道ミサイルの発射準備に取り掛かっているとの情報が入ってきています」
「戦禍の拡大が心配される訳ですが……」
◆
首相官邸。
「先日の白南海の破壊行為だがね。アメリア合州国は、映像を解析して、破壊行為に使われたのは白華国の兵器であると断定したそうだよ」
久坂部 総理が、御子神 防衛相を見ると彼が大きく頷く。
「つまり、あれですか。魔王国に向けて飛ばした爆弾は、全部、自分に向けて返って来ると」
「そういうことになりますな」
厳波 外相が苦笑いで求めた同意に、御子神が再び頷いた。
「安上りでいいことじゃねえか。うちにも、その軍備を導入できんもんかね」
射蔵 副総理兼財務相の相変わらずの発言である。確かに専守防衛にはうってつけかも知れない。何せ、攻撃されて始めて発動するのだから。
「あ~、間違っても、白華国の連中、“非”通常兵器なんて使わないですよね。風向き次第じゃあ、こっちに飛んできますよ」
厳波が頭を掻きながら、同意を求める。
非通常兵器には、核兵器はもちろんのこと、生物兵器や化学兵器なども含まれる。
「もしもの場合は、それを使って反撃しないように、魔王国に申し入れできないでしょうか」
皆が天を仰ぐなか、関 官房長官が考えを述べる。
皆の視線が机の上に集まる。この5名が集まっている部屋の机の真ん中に、幻島で魔王さまから渡された携帯電話らしきものがある。
二つ折りのそれを開くと、画面やボタン配置などは、丸切り、携帯のそれである。Maoh Z phoneとロゴらしきものまで刻まれている。ちなみに登録されている番号は一件のみである。
誰もそれに手を伸ばさないなか、思い出したように、関が別の話題を俎上に載せる。
「そう言えば、公安委員長(国家公安委員会委員長の略)が、気になることを言ってましたね」
関が久坂部を見ながら、言葉を発した。
「ああ、国内の各地で白華国人に対する差別というか、迫害というか」
「それですか、他の国では、すでに一部で白華国人に対する排斥運動は起きているようですね。キャンディ(動画共有サービス)に、また、安保理の映像が流出してましたからね」
どうやってんだかと、厳波が続けて呟く。あれは事実なのかとか、他にも魔王国の人間がいたのか等の質問に、やり方はわからないが事実だと答える。
「それも頭の痛いことだよ」
日本に中長期に滞在している白華国人は、約70万人いるとされる。この他にも、短期滞在や外交官が約10万人。彼らを保護するにしても、何するにしても、対処するには大変な人数である。だが、実際に何か問題が起きる前に手を打つ必要があるかも知れない。
「アメリアは、どうしますかね」
「ああ、彼(大統領)は人権擁護派だからね。だが……」
現大統領は、確かに平和主義というか事なかれ主義だから大きな動きはなさそうだが、打つ手を間違えると政権が転覆する可能性もある。
次の大統領と言われている共和党の候補であれば、「白華国人は、全員、国外退去とか言い出しかねない」が……。
久坂部の言葉に皆が生温い笑いを浮かべる。
政権うんぬんについては、他国のことを言っている場合ではない。
「となると、やはり」
皆の視線が机の上の携帯に集まり、そのまま、それは久坂部に向けられる。
「ここは、他国に先んじて」
「俺がひとつ言ってやるか」
「我が国がリーダーシップを発揮する良い機会では」
「彼らの考えは知っておくべきです」
厳波、射蔵、関、御子神が久坂部に言い募る。
射蔵の手が伸びたところで、流石に彼には渡せないとばかりに久坂部が携帯を手に取った。
……2コール、3コール。
「はい、宮内府侍従室でございます」
普通に繋がった。
「日本国、内閣総理大臣、久坂部です。一度、魔王国の幹部の方々と会談の場を設けたいのだが……」
◆
その頃、魔王さまは……。
ここだなと、スマホで店名等を確認した魔王さま一行は、暖簾を潜る。
「たのもー」
「たのもぉ~」
「3名です」
「3名様ですね。テーブル席のほうへ、どうぞ」
席についた魔王さまとテケリ・リは、店内の壁に貼られたポスターを見て頷く。
「この子にあれを、我にはウーロン茶を、彼女にもウーロン茶で」
ジェミニ・ンが頷くのを見て、魔王さまが店員に注文する。
「あれは、お子様用のサイズはないのですが、それでもよろしいのでしょうか」
店員が親切心を前面に出して、注文を聞きなおす。
「うむ、問題ない」「食べる!」
壁面のポスターには、“8玉ラーメン、チャーシューマシマシ(制限時間30分)完食時、無料”とある。
そう、日本各地に点在する、大食いチャレンジメニューである。
既に、今日の戦績は……
2.5kgのMega盛カレー、唐揚げ付き(制限時間20分)完食時、無料……撃破!
熱々鉄鍋餃子100個、大きめ(制限時間60分)完食時、無料……撃破!
3.0kgハンバーグライス(制限時間30分)完食時、無料+3000円分食事券付……撃破!
(注)テケリ・リのみの挑戦
と店舗を廻り、本日の〆として、この都内のラーメン屋を訪れたのである。
そして、楽しみ~と料理の到着を待つテケリ・リに衝撃の事実が告げられる。
「リリーよ、あのポスターの隣を見よ。スマホにも載っていない、もう一つのチャレンジメニューがあるぞ」
“2.5kgチャーハン、スープ付き(制限時間30分)完食時、無料”
「ふおぉぉxxお~、無限にいける!」
テケリ・リが、ここはパラダイスと興奮の色をみせる。
「お待ちどおさまです。無理をせず、きちんと噛んで。さあ行きますよ、召し上がれ!」
底の浅い壺のような容器に入ったラーメンの上にメンマとモヤシ、さらにネギが山盛りにされ、その周りにチャーシューが貼りついている。
割り箸を持って、「頂きます」をしたテケリ・リが、目を輝かして、先ず、容器の端にレンゲを差し入れて、スープの味を確かめる。にまあ~と笑顔を拡げたテケリ・リが次いで、二つに割った箸を麺に深く差し込み持ち上げた。
ボキッ……当然、予想される事態が生じた。
「罠が、罠が……」
とわなわなしている。
「落ち着け、リリー。まだ、戦える!」
魔王さまが声援を送る。
「がんばる」
折れた割り箸を卓において、再び、割り箸を2膳、手に取った。2膳を1組の箸として、巨大なる頂に挑む。彼女には、少量ずつほぐして口に運ぶという選択肢はない。大きく掴み、口一杯に頬張り、舌だけではなく口内の全てで味わい尽くすのだ。
場面に依っては、箸とレンゲの二刀使いとなり、レンゲに載せたモヤシを箸で押さえつけるようにして、口に運ぶ。
大きく持ち上がった麺の塊に喫驚の眼を拡げ、それを頬張り口内で味わうとともに、鼻から抜ける香味を感じ、嚥下した後の快楽に吐く息に喜びが溢れる。子供が挑戦したことに興味を覚え応援していた客たちが、その表情の豊かさに魅入られる。
しかし、そのテケリ・リ劇場もわずかに5分で終幕を迎える。
んぐんぐんぐ、ふはぁ~。おおきな容器を両手で抱え、スープまで飲み干した。
「至福!」
おお~っ、店内に歓声と拍手が鳴り響いた。
そんななか、テケリ・リは対面のジェミニ・ンからハンカチで口の周りを拭いてもらっている。
「次、あれ、いく」
テケリ・リが指さすのは、もちろんチャーハンのチャレンジメニューである。その後、ラーメンのお代わりと言葉を続けた。
店員が厨房内の店主を見ると、すでに山のような米を中華鍋に躍らせていた。
「ハイ、喜んで~ぇぃx」
ちょっと、語尾が上がっていたが、その注文は厨房に伝えられる。
そして、結果は5分で完食。
ラーメンお代わりの言葉は打ち消された。いつの間に書いたのか、ポスターの隅に、一日に2重取り消し線が引かれた隣に「挑戦は、お一人様一日(に二重線で修正)一月に一回限定」と書き加えられていた。
「ありがっとごっざいましたぁ~」
店員の声に送り出された魔王さま一行。
至福の笑みを浮かべていたテケリ・リが、悲し気な表情になり、魔王さまを上目遣いでみる。
「ん、どした」
「リリー、武器が欲しい」
テケリ・リは、エルダー・スライム。今まで、武器などは使用してこなかった。言わば、全身が凶器だからである。
しかし、魔王さまはその言葉の意図に気付いた。
「良し、アダマンタイト製のマイ箸を買ってやろう」
その言葉に、今日一番の笑顔を見せるテケリ・リであった。
今日の戦績に下記が加わった。
8玉ラーメン、チャーシューマシマシ(制限時間30分)完食時、無料……撃破!
2.5kgチャーハン、スープ付き(制限時間30分)完食時、無料……撃破!
「リリー、アメリア合州国にはステーキとかのチャレンジがあるらしいぞ」
スマホを覗いていた魔王さまが告げる。どうやら、店舗荒らしは世界を股にかけることになるようだ。
店内にいた千葉が弾けるように、彼らの後を追った。
彼は、関東圏を対象とした、とある放送局のプロデューサーをしている。




