026 非公式会合
Walking Worldwide NEWS
チャラチャチャチャチャラァ~、軽快な音楽でテレビ番組が始まる。
「スリーダブルエヌの時間です。本日はアメリア合州国のニューヨーク州で起きたテロの情報からです」
大通りを煙の立ち込める場所から逃げ惑う人々の映像が画面に流れる。
「本日11時頃、人がにぎわうニューヨークの州都で爆発物によるテロ行為がありました。公的機関の発表によりますと、すでに死者が十数名、重軽傷者が百名以上に及ぶという惨事になっており、外務省は現地の邦人の安否確認を急いでいます。テロ行為の中心となったのは、州都にある宝石店で、店は全壊、テナントビルは現在立ち入れない状況になっているとのことです。州警察により、容疑者はすでに確保されており、発表によりますと白華国人の現地在住者であるとのことです」
論説者が情報を追加する。
「この宝石店ですが、魔王国関係者が経営者であるようです。州知事に被災者救援に使って欲しいと、2千万ドルの寄付を申し出たとのことです。州知事は卑劣なテロ行為に我々が屈することはないと、断固戦うとの意思を示しました」
キャスターにアシスタントから原稿が手渡される。
「ここで、それに付随するものなのでしょうか。黒羽根の炎についての一報が入ってまいりました。先程、メトロポリテーヌ共和国の首都の白華街で黒羽根の炎が立ち昇ったとのことです。被害程度はまだ分かりませんが、黒羽根の炎が立ち昇ったとのことです。現地の住民の方の安否が気づかわられます。これは白華国国外での初めての例になりますね。考えたくはありませんが、ニューヨーク州のテロに対する報復ということはあるのでしょうか」
「あ~、メトロポリテーヌ共和国には約80万人の白華国系の住民が住むと言われています。これは、日本にいる旅行者を含めた白華国人の人数よりも多い数字になります。最近では国連安保理の白華国に対する非難決議の際に拒否権を行使した、白華国に追随するような印象もありましたから、その危険性は憂慮されているところでした」
「日本にも白華街があります。黒羽根の炎に狙われる危険もあるということでしょうか……」
◆
都内某所。
人目を避けての極秘会談である。
日本国側は、いつもの閣僚5人組プラスワンの海上幕僚長。
魔王国側は、アガレスを筆頭に、アルフォンスとジェミニ・ンらである。
「まずは、お越しいただきありがとうございます」
閣議などでも進行役を務めることが多い関が会合の流れを作り始める。
日本国の閣僚の自己紹介と言う名の挨拶の後に、魔王国側も名乗りを上げる。
「私は、魔王国・総務府長官を務めます、アガレスと言います。こちらは宮内府の者たちです」
「侍従長のアルフォンスです」
「魔王さまのお世話をさせて頂いております、ジェミニ・ンです」
「同じく、ヴァルゴ・アです」
お互いに表情の読めない微妙な笑みを浮かべている。
「では、早速……」と関が言いかけたところで、厳波が手を挙げて制する。
「今日の会合は非公式なものなので、ウェブなどへの情報の流出は無いようにして欲しいのだがいいだろうか」
厳波がアルフォンスを見ながら提言する。羊面=シープマスク、誰でもその関連を思い浮かべるだろう。
「ええ、気を付けるように致しましょう」
アガレスが答えを返す。その答えを聞いて頷きつつも、ICレコーダーでの録音を欠かさない厳波である。
「本日は、あなた方から会談の場を持ちたいと言ってこられたので、先日の件について、良いお話が聞けると期待して、伺いました」
前に閣議室を魔王さまと訪れたうちの一人であるアルフォンスが目を細める。
それを見た射蔵が、前のことを思い出したのか、顔をしかめた。
「魔王国の要望については、前向きに検討したいと考えています。が、その前に、何点か確認させて頂きたい。白華国内を中心に起きている黒羽根の炎という現象はあなたたちが起こしているものなのだろうか」
前向きに検討……便利な定例句だ。それと、いつになく、久坂部が積極的だ。
「その通りだが、それがどうかしたのかね」
アガレスがゆったりと答えた。
「白華国外にも戦禍を及ぼすというのはどうなのだろうか。それと白華国と手打ちをする気はないだろうか。であれば、我が国がその仲介の労を執りたいと思うのだが」
アガレスがゆっくりと首を振る。
「そのようなつまらないことを言うために我々を呼び出したのかね。その件については、貴国には関係のないことだ。余計な口は挟まないほうが良いと警告をしておこうか」
「そうではないのです。
魔王国とどのような交渉をするにせよ、戦争をしているような国と外交交渉をするのは、やりにくいものがあるのです」
「そんなことはないでしょう。
過去にもアメリア合州国が戦争をしているときに、日本国がそれらの国との交渉を一度も持たなかったというのですか」
久坂部の言葉は、アルフォンスに疑問形で返される。ウェブの情報は粗いが、多様である。
「いづれにしても、白華国は滅ぼす。
安保理決議の場でも言ったが、我々が魔王さまのために造り捧げた物を身勝手に奪おうとした上に、魔王さまに対して暴言まで吐いた。
それが許されるとでも?
我々は言ったことは必ず成し遂げる。我々から折れることはない。
とは言え、我々も鬼ではない(軽く笑い。魔王国ジョーク)。一応、逃げ道は残してあるのだよ」
アガレスがあの場で残した言葉は、「魔王さまの配下である我々は、白華国が存在するかぎり、白華国の民がどこに居ようとも、どこに逃げようとも殲滅いたします」である。
「それでは戦禍が広がるばかりだ。白華国が核を使わないとも限らない」
「丁重に送り返して差し上げよう」
厳波の言葉にアガレスが笑う。
「そんなことをされたら、我が国が困る。地理的な条件で、我が国にも被害が及ぶかも知れないじゃないか!」
厳波が熱い。射蔵が静かだ。
「いい加減にしたまえ。我々に指図でもするつもりかね……」
アガレスが低い声を出す。
「……我々はここに領土の割譲についての返答を聞きに来たといったであろう。その他の下らぬことを聞きに来た訳ではない」
「勝手なことを言うんじゃねえよ。国土を下さいと言われて、はいそうですかと差し出す馬鹿がどこにいるっていうんだ、あぁ!」
射蔵、発信します。
「君たちは本当に何もわかっていないのだな」
アガレスが呆れたように頭を振る。
「我々があの土地を是非にと欲していると考えているのですか?
現在の状況から、いずれ、白華国の土地を我々が手にするとは思わないのですか。
でないにしても、我々はあの程度の土地は幻島を造るのと同じように海上に造りあげることも可能なのです。
つまり、あなた方が持て余しているあの土地をなんとかしてあげようと魔王さまが手を差し伸ばしてあげているのがわからないのですか」
閣僚5人組が息をのむ。
アルフォンスが事象をありのままに解説する。いつも通りの展開である。
「その温情も分からずに、さらに要求までしてくるとは、本当に源人というのは度し難い生き物です。
いいでしょう、この話はなかったことにしましょう。そして、あなた方は魔王さまの手を打ち払ったのです。
それ相応の覚悟をしておきなさい。
では、帰りますよ、ジェミニ・ン」
アガレスの言葉に、ジェミニ・ンがそれまで閉じていた目を開けて、日本国側の面々を確認して踵を返す。
「ちょ、ちょっと待ってください」
関が慌てて引き留める。
この会合が始まる前に海上幕僚長に確認をしていた。
魔王国の攻撃を防ぐ手段はあるのかと。争いになった時に彼らに対抗できるのかと。
それに対し、幕僚長は首を振り、「善処します」と答えた。
このような形での決裂だけは避けなければならない。
現時点で国土を武力で奪いに来るという雰囲気ではなさそうだ。
だが、黒羽根の炎が、日本の地で立ち昇る可能性はかなり高くなる。
「条約を結びたい。我が国と魔王国との間で!」
意を決した表情で久坂部 総理が言い切った。
本当に源人族はわかりやすい。
特に恐怖にかられた者どもの行動を推し量るのは、果実をもぐかのように容易い。
アガレスは苦々しい表情の裏でニヤリと笑みをこぼした。




