024 安保理決議
Walking Worldwide NEWS
チャラチャチャチャチャラァ~、軽快な音楽でテレビ番組が始まる。
「スリーダブルエヌの時間です。本日の最初のニュースはこちらから」
大艦隊から砲弾が一斉に発射された映像が、画面に流れる。
「懸念されていた事態が起きてしまいました。先日、建国を宣言した西太平洋の小国“ 魔王国”に向かい、大艦隊を差し向けていた白華国ですが、到頭、一方的に攻撃を開始。白華国と魔王国が戦争状態に突入しました。政府関係者によると、白華国は、白華国語と英語で退去勧告をして、間を置かずに攻撃を始めたとのことなのですが……」
キャスターが論説員に話しを振る。
「ええ、実はその攻撃された時に、我が国の使節団が魔王国を訪れていたようなんです。
日本政府はそのことも含めて白華国に伝え攻撃はしないように申し入れをしたそうなのですが、白華国はそれを無視して攻撃に踏み切ったということなんですね。
そして、興味深い映像がウェブに流れています。すでに御存じの方も多いかと思いますが、動画共有サービスの“I CAN D”、一般的には、”キャンディ“と呼ばれているサイトに上げられている動画ですが、投稿されて、数時間で日間最大再生数を記録した映像がこちらです……」
映像が流れる。
艦船が展開する様子から始まり、退去勧告、砲撃シーン、仰け反って喚く政治将校の姿、砲弾を防ぐ魔王さまの姿、沈黙する艦隊、破壊される白京で終わる。
「……シープマスクという方による投稿で、映像をどうやって入手したのか気になる部分もあるのですが、政府関係者筋が独自に入手している映像と重なる部分が多く、信憑性が高いということなんですね」
「重なる部分というのは、その使節団が入手したものなんでしょうか」
「その他にも、未確認ですが、アメリア合州国が高高度偵察機によって、現地の状況を確認した内容と一致したという情報を政府関係者から得ています」
「うわっ、これは……」
『ぐわっはっは、殺せ、滅ぼせ。全世界よ、見よ。これが白華国の力なのだぁっ!』の台詞を吐く政治将校の姿にキャスターが嫌悪の眼差しを向ける。映像には丁寧に字幕まで付いている。
「……」
最後に破壊される白華国の首都=白京の映像を見て、さらにキャスターは絶句する。厳密には、破壊された範囲は、白華国の官邸的な意味を持つ白南海の周辺だけだが。その姿を気にすることなく、論説員が続ける。
「この破壊に使用された砲弾。唐突に空に現れて、雨のように降り注いだとのことなのですが、砲弾の破片から白華国製もしくは白華国の軍で採用している国のものらしいのですね。そこから、その砲弾は魔王国に撃ち込まれた砲弾そのものではないかという話しが、まことしやかに噂されているんですね」
自失の状態から回復したキャスターがカメラに視線を向ける。
「我が国にとっては、ともに隣国にあたる両国ではありますが、我が国への影響や今後の見通しなど……」
◆
国際連合安全保障理事会。
総会、経済社会理事会と同様に国連の主要機関であるが、実質的に最も大きな権限を持っており、事実上の最高意思決定機関である。主として国際平和の維持、国際紛争の解決を目的としている。場合に依っては、平和への脅威・破壊などに対し,武力行使をも含む強制措置の発動を決定する。
そして、今、緊急理事会が開催されていた。
もちろん、白華国の魔王国に対する戦闘行為についての非難決議である。
……常任理事国が拒否権を行使した。
白華国ではない。白華国は紛争当事国なので投票を棄権しなければならない。
拒否権を行使したのは、メトロポリテーヌ共和国とイングレス連合王国。
一部が欠けた円形の、馬蹄の形をした卓に座る非常任理事の各国から驚きの声が上がる。
安保理決議は常任・非常任理事国の合わせて15か国のうち計9か国以上の賛成により採択が行われるが、常任理事国が拒否権を行使した場合、決議そのものが行われない。
「マジかよ……」
非常任理事国として、出席していた厳波 外相から声が漏れる。
もし、拒否権を行使するならば、ルーシ連邦であると思っていたのだ。ルーシ連邦は棄権だ。
イングレス連合王国は、白華国を重視して経済的な結び付きを強くしている。
メトロポリテーヌ共和国は、白華国を重視して軍事的な結び付きを強くしている。
明らかな人道軽視の問題行動である。この場でそのような判断をするとは考えていなかった。他の非常任理事国から上がった声も同じように感じたのであろう。
しかし、例えば、テロリストの集団が孤島を占拠し、独立宣言を行ったとして、それを攻めることをどう考えるのかと見ることもできる。一方は結び付きの強い大国であり、一方は正式な手段を踏まずに国連に登壇するような連中である。
その結果を受けて、同じく常任理事国であるアメリア合州国は、大げさに肩をすくめてみせる。
ルーシ連邦は能面のような無表情である。態度を示さなかったこの国の真意を見誤ってはいけない。白華国が欲しいのは自国主導の新たな規則に基づく秩序だが、ルーシ連邦のツルテン大帝が望むのは規則のない混迷の世界秩序だ。戦禍はДобро пожаловать!なのだ。(welcomeの意)
パン、パン、パン……議場の一画に手拍子とともに現れた者がいた。
当然、議場に居た者はそちらに身体を傾ける。
肩のあたりで、手を叩きながら、馬蹄卓に近寄って来る者、先日の総会ホールにも現れたアガレスである。
「列席者の皆さん、お疲れ様でございます。会議の結果も疲れる結果のようで……」
右手を胸に当てて、大げさにお辞儀をしてみせる。
「……この場にもう一方の当事国の者が参加していないのも可笑しきことかと思い、推参しました次第でございます」
「貴様、何のつもりでこの場にいる。とっとと出て行け!」
白華国が、両手を机を叩きつけて立ち上がり、その指でアガレスを指し示す。
「彼にも椅子を、彼の言う事も尤もなことだよ」
アメリア合州国は、口角を上げながら、議場の職員に椅子の用意を求める。
「いえ、それには及びませぬ。すぐに退散いたしますので……」
手の平を見せて、それを制するアガレスは続ける。
「……特段、この決議に異議立てするために来たのではありません。
ただ、白華国の宣戦を受けて、我が国はそれに応じることを表明しに参ったのでございます。
我が国と白華国は戦争状態にあるとお考え下さいませ」
「何が国だっ!その言葉、後悔するな。あのような小島、消し飛ばしてくれるわっ!
それに戦争であるというならば、捕虜を解放しろ。艦船を返せ」
顔を赤く染めて、唾をまき散らす白華国は、理解できない持論を展開する。
「おお、これは失礼しました。あれらは我らにとって必要のないもの、即座にお返ししましょう」
ヴァルゴ・アに眠らされた艦隊は、その後、幻島の周りを制御された海流に乗ってゆっくりと旋回していたのである。
アガレスは携帯電話を取り出し、短い通話を終えた。
売り言葉に買い言葉のような白華国と魔王国の舌戦にほうけていた他国が議論に参加する。
「少し、待ちなさい。ここは、戦禍を拡げないために設けられている場なのだ。勝手なことをされては困る」
北欧の非常任理事国がまっとうな発言をする。それに頷く国が少々。
そこに白華国の代表の後ろに控える者たちが慌ただしく動く。そのうちの一人が代表に耳打ちする。
「バカな……」
白華国の代表が、椅子にずり落ちる。
魔王国の虜となっていた白南海艦隊が、“空から”帰港を果たしたのである。数的に3分割されて、三か所の港湾に落ちたのである。当然、各港は大炎上である。
「我が国は言ったことは必ず成し遂げます。
そして、我が君に対して暴言を吐いた者たちが辿る道は滅亡でございます。
魔王さまの配下である我々は、白華国が存在するかぎり、白華国の民がどこに居ようとも、どこに逃げようとも殲滅いたします。
ここに御列席の皆さまはその意味を思議し、対応されることをお勧めいたします。では、私はこれにて失礼いたします」
再び、丁寧に腰を折った挨拶をしたアガレスが、議場の暗がりの方に歩みを進める。次第にその影が薄くなり……。
「あっ、そうでした。拒否権を行使した二国の方、魔王さまにはあなたがたが敵対的であるとお伝えしておきます。では、ごきげんよう」
……と言い残して、扉を開けて廊下に姿を消した。が、廊下には誰の姿も現れなかった。
何故か、今の映像もシープマスクの手に依って、ウェブに流出した。
◆
幻島、魔王城。
黒い羽根をたたんで、乱れた髪型を気にしながら、パイモンが愚痴をこぼす。
「アガレスくんも(堕)天使使い荒いよね~。転移ポイントの構築はすでに済んでいたから、今回の手間は少なかったけどさ。わざわざ、三か所に分けなくてもよくな~い」
「いえいえ、アガレスさまも忙しく立ち回っておられるのです。その中でのご依頼ですから、彼にも深い考えがあるのかと思います」
腕まくりをしながら、パソコンのキーボードを叩いていた羊面のアルフォンスが手を止めて、椅子ごとくるりとパイモンの方に向き直り、机に片肘をのせる。どこのオフィスワーカーだと、つっこみを入れたくなるほどの自然な動きである。
そこに一般宮女がコーヒーを運んできた。
「このコーヒーというのも、最初は苦いばかりだったけど、飲みなれると癖になるっぽいよ」
左手に 魔導書 (the sun don't lie)を抱え、右手でカップを傾けるパイモン。腰は机に軽く寄りかかっている。こちらも書類を抱えて雑談中な雰囲気である。
「ですね。モニターに疲れた目もすっきりします」
アルフォンスは、横長の瞳孔の眼を細める。Webに情報を流すには、この世界のPCを使ったほうが扱いやすい。侍従長である彼は、様々な城内管理がしやすくなったと、パソコンを愛用していた。彼の薦めで、竜人族のブネが率いる財務府でもパソコンの導入が検討されている。これは個々の状況を考えずに、一律に情報を処理するには優れている。
そこに、アガレスが戻ってきた。一般宮女に私にもコーヒーを頼むと伝えている。
「パイモン、手間をかけた。アルフォンス、イヴィルアイから動画は受け取れたかね」
イヴィルアイは、黒い綿毛に蝙蝠の羽根のついた下位魔であり、アガレスのペットたちである。早速、アガレスの頭の周りでパタパタと舞っている。
「ええ、すでにアップしてあります」
「パイモン、魂の回収の方は問題ないかね」
「おけまる~」
と言いつつ、パイモンは人差し指と親指で丸を作って見せる。
「ん?問題ないのならば良いが……」
魔王さまの計画には魂があったほうがよりリアルで良いだろう。“フェイクライフ/偽りの命”でも対応は出来るであろうが……。あごをさすり、考察する。
「……後は、もう少ししたら、魔王さまの計画に着手しよう。あまり、お待たせするのも申し訳ないが、恐怖を感じた人種族のほうが行動が分かりやすいからな」




