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020 使節団-内見-

「さてと、夕食までは時間がありますが、どうしましょうか」

 厳波が音頭をとる。

 外交上、しつこく食い下がるのも有りではあるが、彼は自身がそれをやられるのは好きではないので好まない。


「自分は厨房を覗いて来たいですね」

 海上自衛官の司厨長が言う。

 厳波は最後飯には気が早いと苦笑いを浮かべたが、司厨長の意図は夜番の夜間食まで世話になるのはいかがなものかと慮ってのことだった。厳波は自分が思ってもいないほどに命の危険というものに神経質になっていると思い知り、別の意味で頭を掻きながら再び苦笑いを浮かべる。

 白華国の機動艦隊の到着可能時刻は明日の深夜、開戦の想定は翌早朝を見込んでいた。

 つまり、後一日半の余裕がある。


「無線がうまく入らないので、チヌーク(ヘリの機体愛称)の方で確認してきたいですね」

 ヘリの操縦士が言う。

 定時連絡用に、こちらにも無線を持ち込んだが、うまくつながらないようだ。電波妨害(ジャミング)をされている時と同じ感触がすると額を指で叩いている。


「俺はお城の見学をしたいですね」

 公営放送協会の撮影スタッフが言う。「立ち入り禁止区域に入るなよ」との厳波の注意に、「ヘイヘーイ」と手を振って答えた。


 俺たちは……と厳波は関と目を合わせると、先程の女性が総会ホールの時に魔王さんと一緒にいた人ではないかと思うと伝え、この国の重要人物ではないかとの想定を元に話を伺ってみたいと話す。関は、面識があるのはアクア・スさんという方だと伝え、彼女から話しを伺うのも有りではないかと伝える。

「では、二人で行ってみますか」

 外務省の二人は連絡係としてここに残ることとして、基本的に二人以上で行動するように伝え、各自が動き始める。



 厳波と関と司厨長は隣室のジェミニ・ンを訪れ要望を伝えたが、皆、今は準備に忙しく個別の対応は難しいとあっさりと拒絶される。お話があれば夕食時にでも伝えてくださいと続けられると食い下がるのは難しい。

 司厨長は一般宮女に厨房に案内されていった。


 あっけなく、厳波と関は部屋に逆戻りしてきた。

「あのメイドさんも日本語上手だったな」

「そう言えば、私が会ったアクア・スさんも初めから日本語でしたね」

 どうも、日本人は他国の人が流暢に日本語を操ると感心してしまい、それだけで内懐(うちふところ)に入れてしまう傾向にあるように思える。

 だが、厳波はそれ以外にも何か引っかかることがあるらしい。本人にもこれこれでという明確な感じのものではないようなのだが、そう思う原因について気になっている。


「2曹(2等陸曹、いわゆる軍曹)の言われた通り、あの人、目、つむったままでしたね。

 あ~後、ケモミミさんは他にもいるのかな。やっぱ、獣人さんはいいっすよね~」

 護衛として隣室に同行した若手の自衛官の呟きの音量が大きい。

 関が会ったという狼少女。

 とは言っても、頭頂部の三角お耳と臀部からふさふさ尻尾が生えていただけで、それ以外は普通?の人だった。

 それに羊(づら)に、銅像を飲み込んだ少女。

 射蔵がいうところの万国ビックリショーな訳だが……それを率いる者が名乗るのは、“魔王”という固有名詞だ。

 明らかに異質と言えるのであるが、それについての日本政府の態度は先送りと言う名の秘匿事項となっている。

 まずはこの戦争を乗り越えた後に考えましょうと言うことだ。

 もちろん、今回の使節団の面々はそのことを知らされているが、他国にも通知していないし、知っているのは御所を除けば、ほんの数人となっている。

 世界各国にそのことを通知すれば、戦争回避の道が生まれる可能性もあるが、別の争いが起こることも必定であると考察された。

「君っ!」

「あっ、わかってますよ。でも、そんな貴重な存在を滅ぼそうとするなんて、白華国の奴ら、許せないですよ」

 厳波の注意に、熱意に震える拳を硬く握りしめることで若手自衛官が答える。

全く、わかっていない。

 それに、異形を率いる魔王と言ったら、「世界の敵と相場が決まっているんだぜ」という言葉を厳波は飲み込んだ。

 苦笑いで彼を眺める。

 そして、ここに来てから、苦笑いの頻度が高いことに気付いて、頭を掻きながら苦笑い。


 関を誘って、内庭を臨める付属庭に出る。

「関さん、この島が出来て、一月(ひとつき)って、あり得ることなのでしょうか」

 外輪の峻嶮な斜面は岩肌のままのところがほとんどではあるが、底の平坦な内庭は整えられた緑の植生が豊かである。それに今、滞在しているこの城、ともに一か月でどうこうできるように思えない事象である。

「ですが、今まで、この島が未知であったのは確かなことで、一月前の津波の時に生まれたと考えると辻褄が合います。

その現象が可能かどうかということについては、埒外のことになりますが」

 皆さんの記憶に新しいであろう西之島も、噴火(2017年)して、溶岩流の流出が止まり、島の形を成すまで4か月を要している。しかも、この島は西之島の面積の3~4倍はあると思われた。

「アトランティスとか、ムー大陸とかと同じく、超自然(オカルト)的なことなのですかね」

 それに対しては、関は無言で答えた。

 その後は、魔王国とどのように話していくかについての打合せの様相を帯びていく。




 二人で話しをしていたところ、建物内で起きた大きな物音に驚いて、窓から視線を向けると、誰かが応接セットの上に放り出されていた。二人して慌てて室内に戻る。

「なんです。どうしました?」

 関が、その状況を理解しようと応接机とその投げた本人であろうジェミニ・ンとの間で視線を行き来させる。尚、投げられたのは、公営放送協会の撮影スタッフだった。

「この者が従者に絡んだり、立ち入り禁止区域に入りこもうとしたり、その行動が容認できないので連れて来たまでです」

「俺は、この城の様子や住人の意見を取材していただけで、その区域も慣れない場所で迷っただけですよ。それをこんな風に酷いじゃないですか」

 その撮影スタッフは、頭を打ったのか、額に当てた手を見つめて、顔をしかめる。

「そうですか。では、カメラを渡しなさい」

 ジェミニ・ンは素直に差し出されたカメラを受け取ったと思いきや、反対のポケットに突っ込まれようとしていた手を捩じり上げる。その手からメモリーカードが零れ落ちた。

 手慣れた感じでメモリーカードを挿入すると、記録されていた映像をその場の皆に見えるように掲げる。

 写っていたのは、いかにも隠し撮り視点(アングル)の従者の姿だった。その中には、頭頂部の三角お耳のアップ映像などもある。

 目を瞑っているのに、見えるのですかとは、誰もメイドに突っ込まない。

「これが、あなたの言う取材ですか」

 撮影スタッフが軽く舌打ちして、顔をそむける。

「何をしているのですか、あなたは」

 関が目を怒らせている。

「歴史の目撃者となった後に帰って頂くように、とのお言葉でしたが、些細な規則も守れないようでしたら叩き出せ、とも言われておいでです。

 ですので……自主的に帰国しなさい。追い出されないうちに」

 ジェミニ・ンは、メモリーカードを粉々に握りつぶし、言葉を投げつけて部屋から出て行ってしまった。

「ちょっと、待ってください」

 厳波がその後を追いかける。


 関が政府広報室の者に一緒だったのではないかと尋ねると、途中でトイレに行くと言って離れた後、行方が分からなくなったので自分は部屋に先に戻ってきたとのこと。一緒にいた間に不審な行動はなかったのですが、と後悔しきりの表情である。

「自分が何をしたのか、わかっているのですか」

「なんだよ。小さいことで責めるんじゃねえよ。

 俺はフリーの戦場カメラマンじゃねえ。なのに、命かけて、こんなとこにいるんだ。

 少しくらい、特ダネを得ようとして悪いかよ。

 だいたい、写真、撮られても死ぬ訳じゃねえだろが」


「参ったな。かなり、怒ってる」

 厳波が部屋に戻ってきた。

「撤退ですか」

「こんなつまらないことで全てをご破算にできる訳がないだろう。冗談にしてもきつすぎるよ」

 行動確認をしてきた自衛官の隊長に、厳波がため息と一緒に言葉を返す。

「こいつだけ、退去させられればいいのですが」

 ヘリのパイロットである2曹が申し訳なさそうに呟いた。


筆者注)陸自のパイロット資格は3曹を1年以上の経験者に与えられる

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