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018 守る、守られる?

 Walking Worldwide NEWS

 チャラチャチャチャチャラァ~、軽快な音楽でテレビ番組が始まる。

「スリーダブルエヌの時間です。まずは、つい先程行われました、久坂部 総理の会見からです」

 画面が、記者会見の映像に切り替わる。


「内閣総理大臣の久坂部です。本日は国民の皆さんに重大なお知らせがあります。

 先日、国連総会中に、とある地域が建国宣言を行いました。

 その地域とは、太平洋西部の、日本の東方約千kmの海上に新たに生まれた小さな島の上に新たに興した世界最小の島国です。

 その国、 魔王国(マジックキングダム)は我が国と友好的な関係を、と望んでいます。

 但し、現在、白華公民共和国は武力にてその島国を制圧し、その島を占有するための作戦行動と思われる艦隊をその島に向けて進攻中です。

 我が国としては、そのような非人道的な行為は慎むように要請しましたが、あの島は古来より自らの領土であり、我が国の要請は、かの国の主権に対する侵害であるとして拒否されました。本来、そのような暴論はあってはならないことです。

 我が国としては、魔王国の国民の皆さまの退避先の一つとして、避難民の方の受け入れを考えています。

 また、軍事行動と言うのは、攻撃をすれば反撃もあります。この情勢が沈静化するまで、日本国としましては、白華公民共和国及び魔王国に対して、渡航制限のレベルを4に引き上げます。直ちに両国から安全な地域への退避をお願いします」


 テレビ局のフロアの映像に戻り、身を乗り出していたキャスターが姿勢を正し、真剣な面持ちで発言し始める。

「日本の近くで、新たに島が生まれて、そこに既に人が住んでいるという時点で、私には驚きなのですが……。さらに戦争が起ころうとしているとか」

 その発言を論説者が受ける。

「渡航制限のレベルと言うのは、外務省が発表しているものでして、海外のそれぞれの地域の治安情勢や公衆保健上の理由(PHEIC)などからその地域の安全性を考慮したものでして、レベル4と言うのは、最悪のランクで、その地域には渡航しない。また、その地域に滞在している方々には退避を勧告すると言うものです」

「私たちとしては、今後どのような……」


     ◆◆◆


 言動はそのように見えないが、結局のところは我が国のことを頼ってきたのではないかと思える魔王国の行く末と、そして、自分たちの国の行く末そのものも憂慮して、それを避けるすべはないものかと日本政府が苦慮していた頃……。


『ハッハッハ、地球は我ら蛇蛇団が支配するのだぁ~』

『そんなことは、ドラゴンの血を引く俺、竜戦士が許さない!』

 魔王さまの菓子を口に運ぶ手が止まる。テケリ・リの手は、まるで自動人形(オートマタ)のように、自然と菓子を口に運ぶ。

『《セット、シャキーン、火竜チェ~ンジ!》、喰らえ、正義の炎、ファイヤーボンバー!』

『バン。ぐわぁ、や・ら・れ・たぁ。……チュドォ~ン』

 画面の中の怪人が倒された。

「「おおっ~ぉ」」

 テケリ・リは、すたんと立ち上がると、小瓶から火の魔結石を取り出し、腰のベルトの窪みにそれをはめ込んだ。

《セット、シャキーン、火摩チェ~ンジ!》

 超昆虫(メタ・インセクト)特有の、この抑揚のない硬質な声は、ゼパールのものだろうか。

 摩法陣が浮き上がり赤色の水煙が立ち込め、ベルトから放射状に光が広がる。

 現れた姿はマスクドヒーローそのものである。テケリ・リの種族はエルダー・スライム、体表面を似たように変化させることなど造作もない。

「ふぁいやーぼんばー!」

 手の平から、酸弾を放った。パリィン……室内の壁際にあった調度品が砕け、酸に溶けた壁から煙があがる。


 魔王さまは思う。勇者の産地というのは、なかなかのものであると。彼らを鍛えれば、いかほどの者に育つのであろうか。


「ん!」

 いつの間にか、従者の控えの間の入口にループス・カが立っていた。

「ふふん♪守った」

 変身を解いて、勝ち誇った顔のテケリ・リ。そこで、ループス・カと目が合う。

 今度は、小瓶から地の魔結石を取り出し、これ見よがしに腰のベルトの窪みにそれをはめ込む。

《セット、シャキーン、地摩チェ~ンジ!》

 橙色の水煙が立ち込め、ベルトから放射状に光が広がる。意匠は同じだが、色違いのマスクドヒーローの誕生である。

「がいあそぉーど!」

 右手から伸びた剣状(これもテケリ・リの自前)のものを壁際の調度品に叩きつける。パリィン……当然、砕け散った。

「ん!かっこいい……リリーばっかり、ずるい。ルーも欲しい」

 支獣の阿と吽と遊んでいる間に、こんな楽しそうなことをしているなんて……。

「無理。これは、選ばれし者だけが付けられる」

 少女によるベルトの取り合いっこが始まる。

 しかし、そこに遅れて、アクア・スが現れた。

「な、なんなんですか、これは……」

 見る影もない部屋の惨状に唖然とした口ぶりである。

 どうやら、魔王さまとテケリ・リは、一話だけでなく、ビデオを何話も続けて見ていたらしい。

 部屋のあちらこちらに酸弾で溶けた穴や、剣で切り裂かれた絵画に、床に散らばる調度品の残骸が拡がる。

「何を、し・て・い・る・の・で・す」

 アクア・スの周囲を黒い霧が覆った。

 恐怖の女官長の降臨である。

「ひっぃぃ~」「ひゃっ!」「ん!」

 魔王さまがテケリ・リの肩を押す。

 この大人は、こんな時にこそ、変身して戦えと言っているのだろうか。

 最低である。

 それをふるふると首を左右に振って拒絶する少女。何故か、一緒に硬直しているループス・カ。

「何をしていると聞いているのです」

 少女が黒き擬人の手に捕まる。

 少女の頭にアイアンクローが決まった。

 テケリ・リはエルダー・スライムである。本来なら、このような物理攻撃は効かない。

 しかし、アクア・スはエルダー・リッチ。人の精神を、その手で直接つかむことができる。

 涙目のテケリ・リは、「ひゃっ!ひゃっ!」と入っているとばかりに左手でアクア・スの手をタップすると同時に、右手を魔王さまに助けてと伸ばす。

 魔王さまは、長椅子の裏に隠れて、頭を半分だけ覗かせて、口で援護射撃を行う。

「アクア・ス、落ち着け。これは勇者研究の一環なのだ。必要なことだったのだ」

 楽しかったとは言え、周りを見渡せば確かに酷い状況である。

「反省をしておる。許せ!な、この通りだ」

 手の平を額の前で合わせ、拝み倒す。

 アクア・スの周りから、黒い霧が引いていく。

「ふぅぅxx~。では、この部屋を元通りに、掃除すること。それが終わるまで、これは没収です」

 テケリ・リの腰から、ベルトが奪われる。

「わ、わかった。する。掃除する」

 魔王さまの言葉に同調して、こくこくと頷く少女ふたり。ループス・カは関係ないのに……。


      ◆◆◆


 尚、ループス・カは、ベルトを着けても変身できなかった。

「ふふん♪」と勝ち誇るテケリ・リに対して、なで肩をさらに落としたループス・カであったが、それは当然である。エルダー・スライムであるテケリ・リと違って、人狼族であるループス・カに変身能力はない。

 しかし、日本の特撮ヒーローは、竜戦士(マスクドヒーロー)だけではなかった。

 優れた身体能力を持つ人狼族のなかでも、さらに特筆すべき能力の持ち主であるループス・カに適するヒーローはいるのか。


 眼にも止まらぬ速さで地を駆け抜け、布一枚で空を飛び、水面を走り、煙と共に姿をくらませる……その正体とは!


 ループス・カは柿色の装束に身をまとい、額には鉢金をつけた長い鉢巻きを結び背中に垂らした姿で、幻島の内庭に現れた。

 そう外国人も大好き、忍者ヒーローの誕生である。

 対峙するのは、もちろん、ベルトを腰に巻いたテケリ・リである。

「魔王しゃまを守るヒーローは二人もいらない」

「今こそ、決着のとき」

「二人とも、頑張れ~」

 魔王さまは、見物である。

 ループス・カがテケリ・リを中心に廻りだした。鉢巻きが水平に尾を引く。テケリ・リは、小瓶から魔結石を取り出し、ベルトにはめ込んだ。

《セット、シャキーン、火摩チェ~ンジ!》

 摩法陣が浮き上がり赤色の水煙が立ち込め、ベルトから放射状に光が広がる。

 ループス・カは腰につけた道具袋から苦無を取り出し、その水煙の中に投げ込んだ。

 しかし、反撃とばかりに、水煙のなかから酸弾が打ち返されてきた。

 酸弾は、走るループス・カの後を追うかのように、次々と地面に着弾する。

 ループス・カは、走る勢いをそのままに、急峻な壁面を駆けのぼる。

後を追う酸弾。

 命中したかに見えた瞬間、ループス・カは煙を発し、服を着た木の幹と入れ替わる。

 木の幹に命中する酸弾。

 次元収納となっている腰の道具袋から身代わりの木の幹を取り出したのだ。

 ループス・カの姿を見失ったテケリ・リ。透かさず、魔結石を火から土に入れ替え、モードチェンジする。

《セット、シャキーン、土摩チェ~ンジ!》

「がいあそぉーど!」

 そんなことをしなくても、手から剣を出せるが、そこは言わぬが花である。

 ループス・カが、直近に出現し、反りのない一尺の刀身の直刀を振りかざす。

 剣と刀が交差する。

 お互いににやりと笑みをかわす両雄。

 パン!とお互いに距離をとると、ループス・カが手で印を結んだ。

「火遁の術!」

 使ったのは、摩道具による“フレイムケージ/炎の檻”の摩法である。

 4本の火柱が正方形の頂点に燃え盛る。

 さらに、そこから、渦を巻くように4本が重なり合い、火の蛇のようになり、テケリ・リに襲い掛かった。




 二人の少女が、ヒーローごっこを楽しんでいる。

 しかし、そこに日本の植生を視察に行っていたエレメンタル四姉妹が帰ってきた。

 目の前に広がるのは、整えられた庭が穴だらけになり、樹の枝が折られ、樹の幹が苦無で削られ、そこらじゅうに焼き焦げと水浸しの後を残した光景である。

「「「「お前たち、何をしている!」」」」

 さすがは、四姉妹、きれいに揃ったハルモニ―(独語)である。

 精霊であるエレメンタル四姉妹の激怒は、自然災害と同義となる。

 予測のつかない方向から激風が襲い、逃げた方向に土壁がせり上がり、土砂となり倒れてくる。拳大の(ひょう)が降り注ぎ、火の渦に巻かれる。

 その後、小一時間に渡り、魔王さまと少女ふたりの悲鳴が響き渡ったという。


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