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016 建国宣言の波及

 さて、これから世界はどのように動いていくのか……。


      ◆


 アメリア合州国、中央情報局。

「で、どうだったんだ。結果は」

「はい。情報通りの座標に、島影を確認しました」

 例の空白(ヌル)だった海域である。

 リモートセンシング衛星、いわゆる偵察(スパイ)衛星の軌道を修正して、目的の座標の映像を捉えることに成功していた。

「いつの間にこんな島が出来たんだ。いや、それはあとだ。それよりも早く大統領に報告だ」

 焦りの表情が顔に浮かんでいた。


      ◆


 日本、官邸。

「くそっ、やられた。それでは、前から我が国と彼らとの間に接触があったかのような言い様じゃないかっ」

 それは事実だが、そう言うことを言いたい訳ではない。

 珍しく、久坂部(くさかべ) 総理が口汚い言葉を吐き、机の天板を叩く。

「しかし、何故、アメリア合州国とも。大統領との電話会談では、どうだったのですか」

 関 官房長官が首を傾げる。

「くそっ、知るか、そんなこと。例え、やっていたとしても、あの国がそう易々と言うものかっ」

 久坂部の興奮が収まるのは少し先のようだ。大統領から皮肉の一つもあったのかも知れない。

「ふん。やつら、アメリアにもその施設とやらを造るつもりなんじゃねえかぁ~」

 射蔵(いくら) 副総理が鼻を鳴らす。

「さてと、どうしますか。彼らからの連絡待ちになりますか」

「それほど、焦るような事態なのでしょうか。まだ、何があった訳でも無し……」

 関の言葉の後に、その場の雰囲気に厳波(げんば) 外相が疑問を呈する。

 少し冷静になりましょうとの意を言外に含んだ言葉にその場の空気は鎮まった。

 だが、それは、一人言葉を発せず、腕組みをしながら、机の上の地図をにらむ御子神(みこがみ) 防衛相に自然と視線が集めることにもなった。

「どうかしましたか、御子神さん?」

 関の言葉に、御子神が地図に描かれた×印を指で数回叩く。魔王の島=幻島の座標を示した場所だ。

「これは、大事(おおごと)になるかも知れません」

 真剣な表情で久坂部 総理の顔を正視した。


      ◆


 幻島、魔王城。

 アガレスは、目が合ったレヴィアに頷きを返し、魔王さまの労苦をねぎらう。

「お疲れ様でございました。完璧な取り扱いであったかに思われます」

「あの程度のもので良かったのか。もう少し、大仰に振舞うこともいとわなかったのだが……」

 その言葉の裏には、もっと、「くくくっ、ふはは、はーはぁっはっはっ!」的なことをやりたかったんだぞという意味が含まれている。

 演台を消し去った上で、高座の椅子に腰をかけ脚を組む。まるで、そのまま魔王城の謁見室のような状況を作り出し、臣下に申し渡すかのような物言い以上の演出とは一体どのようなものなのかと興味と怖気を感じつつも、アガレスは褒め上げる。

「何を申されます。このアガレス、あの光景(シーン)は思い出すだけで感激の震えに満たされまする」

 そこで、きちんと両腕で自分の身体を抱きしめる演出は忘れない。

「う、うむ、そうか。それならば良いのだが……」

「はい。これで、日本も交渉の(テーブル)に付き、魔王さまの要望を受け入れざるを得ないでしょう」

 先日、日本に同行したアルフォンスが頷く。


「では、早速、交渉の席を……」

「お待ちください、魔王さま。我々の建国を快く思わない者どもがおるやも知れません」

 椅子から腰を上げかけた魔王さまをアガレスが制した。

「魔王さまのご意志に反対する輩がいるというのですか。

 そんな者どもは叩き潰さなければなりません。

 自らの愚かさを知らしめなければ!」

 レヴィアが激高する。それは頭頂部の長耳を頭につくほど後ろに引き絞っていることからもわかる。まさに聞く耳を持たない状態だ。

「ええ、人種である彼らに何かを教えるときは、力を示してあげれば、より理解が進むと言うものです。

 交渉もその後のほうが効率よく進むのではないかと愚考します」

 アガレスが微笑む。

(魔王さまの指示で、近場の海上に拠点を設けよと言われた時は、日本に直に設けた方が効率的ではないかと思いもしたが……。

 ふふふ、これほど、効率的であったとは……さすがは魔王さまと言うべきか。その深謀は私などでは計り知ることができぬ)

 アガレスが幻島の位置をあの場所に定めたのは、日本に近い場所で島を造るのに、海底の状態から一番そこが効率的であったからである。

 しかし、その場所は海洋進出を目論む、かの国が喉から手が出るほどに欲しがる場所にあった。


      ◆


 日本の久坂部 総理にアメリア合州国から一つの連絡が入る。

「白華公民共和国の機動艦隊に軍事行動の兆し有り」

 広東省湛江(たんこう)の港に係留中だった航空母艦を始め駆逐艦、小型駆逐(フリゲート)艦に、給油や弾薬等の搬入を含め、作戦行動と思われる兆候が認められると言う。

 アジアの大国が動きだした。


      ◆◆◆


「で、幕僚長の見解は?」

 官邸に急ぎ呼ばれた街野(まちの) 鷹揚(おうよう) 海将に御子神 防衛相が問い掛ける。

「南の海での白華国と東南アジア諸国とのいざこざはまだ収まっていません。

 ですので、あるいはそこに派遣も考えられますが、

 先刻からのお話を伺う限り、まず、間違いなく、この島の奪取を目的とした作戦行動かと思われます」

 想定通りの答えが返ってきたのだが、それを聞いて久坂部 総理は顔をしかめてしまう。

「で、どのくらいで着くかな?」

「艦隊の規模にも因りますが、それなりの規模になるかと思われますので、一週間から10日程度かと」

「それなり?」

「島の占拠にはさほどの規模は必要ないでしょうが、アメリア合州国へのけん制がありますので……」

「成功するかな?」

「アメリア合州国が白華国との軍事衝突を選択しない限り……恐らくは容易く……」

 あの島が白華国領になることは、アメリア合州国にとっても、同盟国である日本の国力が低下するだけでなく、自国のアジア戦略も頓挫することになるので避けたい事態であることは相違ない。

 しかし、ここで軍事衝突を選択するかどうかと問われるとそれについては甚だ疑わしい。

 幕僚長と防衛相の問答を聞いて、久坂部は頭を抱える。

 それは、ある意味、日本が白華国に攻められた想定と重なる部分があることに気付いている。

「じゃあ、どうにもならねえってことか。指をくわえて見てろってか」

 射蔵 副総理が、幕僚長をぎろりとにらむ。

「後はその魔王国の自助努力に期待するしかないかと」

 政府も自衛隊に白華国の暴挙を防げなどという無茶は言わないし、言えないのを分かっている幕僚長の答えも当然そうなる。


「実際のところはどうなんでしょう……え~、その魔王国の実力みたいなものは」

 会話が途切れる中、防衛大臣の御子神が首を傾げる。

「衛星写真を見る限り、城みたいな建物が一つしかないような島です。何を期待すれば良いのか」

 港もなければ、空港もない。ああ、こんな島、やだぁ~♪てなもんである。

 期間を考えれば、城一つでもあることが異常だと言う事には気付けない。

 街野 海将の応えに、関が俯く。

「後は、突然、現れたり消えたり、机を消したり、銅像を飲んだり……ですか、はっはっ、まるで手品師ですね。今風に言えば、イリュージョニスト(奇術師)ですか」

 厳波(げんば) 外相が、天井を見ながら、指を折る。

 後半は沈んだ場の雰囲気を少しは明るくと思っての発言だったが、苦虫を嚙み潰したかのような表情を周りから向けられたのみで終わる。

 威圧はその場にいた者にしか、わからない。ところで個人による威圧は武力に入りますか?


「しかし、いつの間にこんな島が出来ていたのか。少し信じられませんな」

「そうですよね。海保(海上保安庁)の巡視(パトロール)もあれば、漁船だって行き交う海域でしょうに」

 地図を見ながら呟いた幕僚長(まちの)の疑問に防衛相(みこがみ)が追随する。

「一月くらい前に、我が国の東海岸を津波が襲ったのは覚えていますか。

 あれの調査を日ア合同で行っていたのですが、データの収拾が出来なかった海域がありまして……それがこの海域なのです」

 関 官房長官がそれに答える。

「まさしく、イリュージョニストですな」

 懲りない厳波。笑顔を付け加えることも忘れない。


「しようがない。魔王さんに連絡をとって、我々にできることを考えよう」

 ここで、久坂部が発言する。

「魔王さぁ~んに連絡って、どうすれば……」

 魔王さんって言葉に、どこか言いづらさを感じながら、関が疑問を呈する。

「それは電話でもメールでも……」

 久坂部が自分で言って見て、そのおかしさに気付き、関と顔を見合わせる。

 お互いのこめかみから汗が流れる。

 連絡先を知らない。そもそも、電話などは通じているのか。

「直接、行けばいいだろう!」

「総理、空港がありません」

「ヘリ(コプター)で」

「1000kmはあります。航続距離が可能な機体がありません」

 久坂部の意見を御子神が撃ち落す。

「どうやって来たんだ……」

 久坂部が唖然とする。

「総理、アメリア軍のティルトローター機なら空中給油も可能なので、かの島にも上陸できます」

 ティルトローター機とは、翼に付いた回転翼(ローター)を機体に対して傾ける(ティルト)ことで垂直離着陸を可能とした機体である。

「おお、それだ!」

「総理、国交のない国の機体を素直に着陸させてくれますかね。

 そもそも、それが我らだとどうやって……」

 幕僚長の助け船に飛びのった総理であったが、御子神に沈められる。


 何も出来ないのか……。皆が項垂れるなか、何かを思いついた関が顔をあげる。

「御所!千歳御所はどうです!」

 そう言えば、彼らは閣議室を訪れる前に殿上の長を訪れている。もしかしたら、連絡手段の手掛かりが有るかも知れない。

「そうだな。良し、行って見よう!」

「いや、久坂部さんはここで。私が行ってきます」

 総理がいきなり千歳御所に出向けば、マスコミが騒がしくなりかねない。

 ちなみにマスコミ各社で先日の国連での出来事に注視している社は一社もなかった。ネット民の話題に少し上がった程度だ。

 日本の大手マスコミは、日本の代表が国連などで演説をしたとしても非常に軽い扱いしかしない。大臣しか出席していない議場に不審者が現れたからと言ってニュースにするようなことはなかった。


「しかし、魔王さま……ですか、そう言ったのが得意そうな岩破(いわさく)さんなら、どんな意見(アイデア)を出しますかね」

 軍事に強いことで知られる岩破であるが、アニメやアイドルとか言うものにも理解があることでも認知されている。

 その言葉を発した御子神にきつい目を向ける久坂部であった。


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