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008 幻島

 Walking Worldwide NEWS

チャラチャチャチャチャラァ~、軽快な音楽でテレビ番組が始まる。

「スリーダブルエヌの時間です。本日の最初のニュースは、津波の続報からです。本日、未明、我が国の東海岸を襲った津波は以下の通りです」

 テレビ画面に海岸線が色分けされた日本地図が写し出された。


「東日本の太平洋沿岸に10~30cm、近畿及び四国の太平洋沿岸に5~10cmの津波に見舞われた訳ですが、気象庁はその原因を不明としている訳ですよね」

「発表によれば、日本海溝沿いに設置された海底地殻変動観測による基準点に差異が生じたと言う事と、南鳥島の東南東約1400kmに位置するウェーク島の津波被害の報告が一報としてあったということです。その後、太平洋沿岸の各地に届いた津波などの状況から、東京とミッドウェー島の中間地点のあたりでなんらかの地殻変動があったのではないかと推測しているということでした」

 キャスターと論説員との間で話しがやり取りされる。


「地震などがあったと言うことですか」

 キャスターがどこぞの主任研究員とか言う専門家に話しを振る。

「そうですね。火山性地震による海底変動であるとの見方が強いですが、ただですね~ハワイ諸島から連なる海底山列がその西側に伸びているのは良く知られたことなのですが、その先は今回の地域に繋がっているのではなくて、途中で北上してアリューシャン海溝のほうに伸びている訳です」

 そもそも、現在のハワイ諸島を形作っている地殻活動はその東側のホットスポットと呼ばれる地点で起こってきた。今までになかった事象に専門家は首を傾げる。

それと日本海溝の東側の太平洋プレートで起こった地殻変動に対して、プレート違いの北米プレート上の基準点で差異を検出したことの意義とその大きさの危険性を訴えた。


      ◆◆◆


  幻島(ファントムアイランド)……北緯33度51分東経157度23分(東京とミッドウェー諸島の中間点付近)、タイムゾーンUTC + 11。温帯寄りだが、北赤道海流の影響もあってか比較的気温は高い。


 魔王さまの御座(ぎょざ)がある場所は城でなくてはならない。そして、その城の名は常に魔王城である。

 先日、アガレスが力の程を示して出来た新島“幻島”は、その形をアルファベットのAの文字に似せて落ち着いたようである。

 島の外周部は波が洗う高さ辺りから人工の擁壁が立ち上がっている。まあ、人工と言えば、島そのものが人(ならざる者)の力によるものである。

 もともと、船が接舷できないような外周であったので、この擁壁は海岸堡を築けないようにするためのものではないだろう。

 その内側は現在は何もないが、平坦に均されている。

 ただ一か所、峻嶮な元の地形そのままに残された文字Aの頂点部に城が築かれていた。

 高さの異なった方形が組み合わさったその外観は、島を構成している石材をそのまま構造材として転用したかのようで荒々しさが残っている。

 城の正面からは峰沿いに空中を渡るかのような回廊が渡され、途中に設けられた門の先は直径20mほどの天盤に繋がっている。それは天から来る何かを迎えるような造形に見える。この天盤には下の平坦部に繋がる階段がつづら折りのように設けられている。


      ◆


 床と天井に描かれた摩法陣の間をアークの光が行き交う。

 摩法陣に残る(かす)かな光によって、薄煙の中に影絵(シルエット)が映し出される。薄煙が集まり黒い羽根となり、床に落ちて淡雪のように消え去って、姿を現したのは魔王さま一行である。

「うむ、素晴らしいぞ、パイモン」

 まず、魔王さまは褒めた。部下の頑張った仕事に正当な評価を下す。

「冥界を経由しているのですよね。こちらに直通であるかのように感じました」

 侍従長であり、近衛の羊頭の魔人アルフォンスが、感想をはさむ。

「時間感覚のずれや体内摩素の乱れ、不快感なども感じないとは……」

 300cmの巨体で魂が震えたと言うばかりの感動を表したのは、巨人族のフォルニョートである。

「特に最後の羽根が良い!」

 これもまた魔王さまの一面である。

「サンキュ。技量(スキル)だけじゃなくて、効果(みため)も大切なのさ♪」

 その一言が軽い。

 切れ長の目に縁取りのアイシャドウ、ドレスシャツにファーのマフラー。

 カラスのような黒い羽毛の羽根を背中でばさりと音をたてて、魔王さまの賛美に少し巻き舌で答えたのは、掌典職を務めるダークエンジェルのパイモンだ。見た目と雰囲気はビジュアル系アイドルである。

 しかし、その軽そうな見た目に反して、あらゆる知識を網羅したその頭脳の前に、秘密は存在し得ないとまで言われるほどの才子である。

 ちなみに彼は 魔導書 (the sun don't lie)か六絃琴(suddenly)のどちらかを常に手にしているが、今日は魔術書を(かいな)に抱いている。


 魔王さま以下数人は辺りを見廻す。周囲の岩室のような壁にあるのは、その枠にまで文字と細やかな造形が刻まれた扉が一つだけである。“地獄門(ゲヘナゲート)”を通じて、地球に降り立った魔王さま一行ではあるが、むしろ、目の前の禍々しい扉こそがその名に相応しいかに思える。

 尚、地獄門は魔王城と魔王城を繋ぐのみの一本道である。また、どちらか一方の門内に使用者が入り込んでいる場合は、もう一方の扉は(ロック)が下ろされる。


 門があった地下の最下層から、地階層を抜けると、窓から差し込む陽光の眩しい建物の一階にたどり着く。

「少し肌寒く感じるな」

 地下ならいざ知らず地表に出ても感じる体感に魔王さまが疑問を呈する。現在の室温は20度近い。

「恐らくは、摩素が薄いためにそのようにお感じになられるのではないでしょうか」

 アガレスらが魔王さま一行を出迎える。

「結界内をある程度の濃度まで摩素を満たすし、すぐにそんなことは感じなくなるのよ」

 ふよふよと浮かぶ“堅白のカラス”は、この城の工事監理者であり、土の精(エレメンタル・ノーム)のマルファスである。

 大海原に拠点を設定したのは大正解であったとマルファスが続ける。摩素は全く無い訳ではないらしい。実用に叶うような濃度には全く足りないが、そのわずかな量を大気と海流から集積して、結界内に摩素を充填する方向で進めているとのこと。摩宝珠を使う予定であったが、節約できて何よりである。


 足元、気を付けるのよ~と、ふよふよと浮かぶ精霊の後を魔王さま一行は付いて行く。

「だいだい来るのが早すぎるのよ。こんな中途半端なところを見られて、あたしの羽根も堕天に染まるのよ」

 それでは、現生のカラスと見た目が同じになってしまう。

 白い羽根を舞い散らせ、可愛らしい桃色のクチバシでまくし立てるマルファスに、すまんすまんと魔王さまが素直に謝った。

 まだ、床に壁、天井、右を見ても、左を見ても、その構造材である石の表面がむき出しの状態である。

 各所に彫塑を施したり、城の方形の上には、木造の尖塔を造ったりするらしい。

「どうせなら、こっちの素材を使うのね~」

 平坦に均された場所は、後でエレメンタル姉妹を呼んで、こちらの植生で庭園を造るんだとか。

「フォルニョートも連れて来たから、彼の意見も取り入れてくれ」

 海の巨人族(ギガンテス)の中に聖霊により身ごもり生まれ落ちたとされる(フォルニョート)半神巨人(ネフィリム)として育てられた。日頃、魔王城にて軍属として過ごす彼を、この幻島の警備責任者にするつもりで同道させた魔王さまである。


 特に施工中の城内の様子を見回るまでも無く、城上部の会議室に到着する。

 まだ建築中の魔王城に来たのは手抜き工事が為されていないかとかの確認のためではない。その先、つまり、日本の地を自ら視察するべく、こちらの世界に赴いたのだ。

「では、まず、魔王さまがこの世界の視察をされるということで。バエル、アレをお渡ししなさい」

 バエルは侍医の一人であり、にゃんにゃにゃぁ~んのマルバスの配下となる。超昆虫(メタ・インセクト)種クモ類である彼女が得意とするのは、4本の手を自在に操っての外科手術である。

「魔王さま。こちらを」

 バエルが提示したのは、ケースに収まった数本の円柱状の黒い物体=源人素材の“情報(いしき)断片(かけら)”である。これを吸収することで、情報を簡単に習得することが可能となる。今回の場合は、言語や地理、生活における知識などである。

 魔王さまはそのうちの一つを摘まんで、目をつむり、親指大のそれを額に押し当てる。焼香をしているかのような仕草だが、“情報(いしき)断片(かけら)”は一筋の煙を発して消え去った。

「取り合えず、今回は一般的な日本人が保有する情報です」

 アガレスがわざわざ、そんな注釈を付け加える。と言うのも、この世界には国や地域ごとによって、多数の異なる言語や社会様式が存在するからである。この“情報の断片”が日本人素材のものであろうことも想像に難くない。

「あ、あ、あ、ありがとう……こんな感じか」

 魔王さまの初の日本語は感謝の言葉だった。

「はい。問題ないかに思えます」

 当然、アガレスも“情報の断片”を習得している。他の言語などの情報も、こちらの世界で活動する者の分も含めて用意し始めている。


「それで今回の視察先の検討をする前に、新たに集めた情報です。まず、日本には自然災害に人為的な事故が重なり放棄状態にある地域が存在するようです」

 その場所を召し上げて、活動拠点とするのはどうかと提案する。

「なるほど、使われていない土地であれば、我が使用しても問題はあるまい」

 力で押さえつけるのは簡単であるが、魔王さまが勇者の育成をどのような形で行っていくつもりなのかで対応が変わるのではないか。

 今ここには、全ては魔王さまの物と考えるような超強硬派の者がいないので会議が静かである。

「まずは最初が肝要であると思いますので、その辺りのご指示を頂ければと」

 今までのように自然発生的な勇者を待つのは時間的にも無駄であるし、その質に関しても満足のいくものではなかった。

 なので、今回は勇者の素養のあるものを集め、育成し、その中からこれぞと言う者を選抜する。

「うむ。勇者の牧場のようなものを考えておる。故に、そこに魔王城を築くのではなく、修練場のような場所に我こそはと言う者を集めたい」

「そう言うことであれば、土地を占有するというよりも、譲り受けるとか借り受けるという形をとったほうが受けは良いのかも知れませぬな」

 魔王さまの希望に、アルフォンスがぼそっと呟く。

「なるほど、なにがしかの交渉が必要となると……となると困りました」

 アガレスによると、日本には二人の代表者がいるようでどちらと交渉をすれば良いのか現状ではまだ判断できないと言う。

「日本の代表は民から選ばれた者が議決して指名された総理大臣と呼ばれる職種の者、現在は久坂部伸二と言う者がその職に就いています。

 そして、もう一人、これは代表ではなく民の象徴?と言う立場の者なのですが、多くの民からの信頼と敬慕の念を集めているようです。なんでも、その者は神の血を今世にまで脈々と受け継ぐ家の棟梁であるとか」

 それを聞いて、魔王さまがにやりとする。

「ほう、それは興味深い」


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