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SS 003_R 村長の決断

 カンカンカンカン。

 警鐘が鳴り響く。

「村長、大変だぁ~、盗賊の一団が村さ目掛けてやって来るだ」

 隣町まで買い付けに出ていた村の三役の一人が慌てた様子で帰ってきた。ちっぽけな村と言えども、村長一人の専制で治められている例は少ない。通常は、惣郷三役(名主(いし)頭領(かね)代官(ぶき))が代表を務めている。その態勢がなければ、国から村と認められない。頭首一人の専制で運営されている村などは、盗人(ぬすっと)村くらいだ。尚、惣郷とは経済を一つとする集団のことである。

 この村では、購買担当は小口の商いの経験しかない村の小売商が担っていた。開拓村には国から財務担当として役人が派遣されているはずなのだが、これはどうしたことなのだろう。

「なんだと、女子供を避難させろ。そいつらはどこまで来ている。門は閉めたのか」

 村長が応じた。帰村途中だった小売商がこちらに向かう荒くれ者の一団が向かうのを目撃したのだ。勿論、そんな状況では盗賊どもの到着までにわずかの間さえないだろう。

「皆は(すき)でも(くわ)でも、何でもいいから何か持って、儂に続け」

 村長が今度は皆に向けて声を上げる。村の武力を総括する代官の姿は見られない。

 荒くれ者の一団が擬装の手間さえ省いていると言う事は、そう言う事だ。

交渉もなしに、初っ端から戦闘になる。


      ◇◇◇


「なんだ、お前らは盗賊どもには農産物を渡せて、領主さまに納税のための農産物は渡せないと言うのか」

「そのようなことは言っておりませぬ」

 お前らがこの地域の治安をしっかりと維持していないからだろうがっ。

「なんだ、その顔は!納税は領民の義務であろう。儂が間違っているかのような物言いだな」

 お前らの義務はどうなんだ。お前らが地域の安全を守るのに専念するための納税だろうがっ。

 村長は下を向き、その目の光=怒りと悔しさを見せぬように耐える。

「もう良い。種籾(たねもみ)を納税分として接収する」

「バカな。そんなことをしたら、来年の麦は、種撒きはどうなるのです」

「バカとはなんだ。バカとは。だいたい、種籾だのなんだのと、麦は麦であろう。お前らが勝手に仕分けているだけの話だ」

「種籾を取り上げられたら、もう麦は作れませぬ。我らにどうしろと。我らに死ねと仰せなのですか」

「お前らがどうするかなど、儂の知ったことか。儂は儂の義務を果たすのみだ。死ぬだのなんだのと、大げさな。お前らは生きておるではないか」

 その言葉に唖然として、思わず顔を上げて、徴税官の顔を見上げる。

 ああ、この人は本気でそのように思っているんだ。その表情を見て、理解してしまった。理解できてしまった。

 こいつらには、何を言っても無駄なんだ。

 村長の中で、何かが壊れた音がした。

 村長は再び下を向く。そこに彼の意志はもう無い。

「そうか……そうか……」

 ぶつぶつと言葉にならない言葉を重ねるだけになってしまった。

 傷を覆う布の血が乾いていない様子の村人が、そんな村長に声を掛ける。

「村長、どうしますか。このままでは、我らは……。村長っ!」

 徴税官がようやく静かになったとでも言うような顔をして、部下に麦の搬出の差配をする。

「だいたい、お前さまたちがもっと早く来てれば……」

 小売商が上げた声に、向けられた徴税官の視線が合う。

 こいつらは、知っていた。

 その目つき、表情で、小売商も理解する。

 知っていて見逃し、抵抗できなくなった村から、さらに奪う。

 盗賊(あいつら)と同じでねえかっ。いや、盗賊よりも酷い!



 開拓村を興すのはそもそもがある程度の武力を持った者たちが中心となる。

 魔物や盗賊などの外敵から村を護り、そして、内から上がる不満なども押さえつけなければ、成し得ない大業なのだ。

 この村でも、老練な冒険者や、熟達した狩人らがその役を担っていた。

 しかし、その村の中核とも言える者たちが一人、また一人と抜かれていく。

 魔の森の調査と称して、魔王討伐の案内役として、徴発される。

 そして、帰ってこない。

 斥候や足止めなど、負担の多い、真っ先に死ぬ役割が与えられるからだ。

 本来は、魔の森に一番近く、そして、その砦として作られた町が、あの徴税官のいる町が、その役割を果たすべきである。

 その目的のために存在することが第一義なのだから……。

 しかし、形が出来上がると本来の意味を忘れたらしい。

 調査も案内も、町の防衛のために必要な人員は割けないとして、人員を供出することをその町はしなかった。



 残ったのは、籾蔵の底に残ったわずかな種籾。

「もうどうにもならね。わかったのは、やつらに麦を納めるのは全くの無駄だと言うことだっぺ」

 もともと、そんなことはわかっていた。

 不作や病気、盗賊に摩物、領主にお伺いを立てても、全くの無しのつぶてだった。

 そんなことはわかっていたのだ。

 ただ、認めたくなかっただけで……。

 しかし、それらを一つの村の問題として処理するのには現実的に無理があった。頭数にしても、能力的にも。

 やはり、普通の村には何がしらの庇護を与えてくれる存在、つまり、端的に言えば、彼らの手に負えない問題を解決してくれる存在が必要なのだ。

 (village)が町に、(town)が街に、(city)が都市に、都市(metropolis)が国家に……となっていくのは、そう言った問題を解決していく上で必要な過程(プロセス)なのである。

 しかし、長期的に見ればそれで良くとも、今、この時に生きている者にとって、差し迫った問題を解決するのには、ただ時期を待っているのはそのまま死に絶えるのを受け入れるのと同義である。




「魔王さまに縋ろう。もうそれしか儂らに残された道はない」

 意志の塊だった村長――その言動についていけば、為せないことは無いと思わせたその表情――が、今は幽鬼と化して、力なく吐いた言葉だった。


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