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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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天霊

「あんたは……俺に力を与える代償が何なのか、理解した上で力を託したのか?」


 問い掛けに対し、女性は声を発することはなかったが……首をゆっくりと左右に振った。


「なら、代償があることは知っていたか?」


 女性は頷く。力を与えることで、何らかの代償を背負うことは確定していたと……そして、彼女はどこか寂しそうな顔をしている。


「……別に、代償があるから非難するわけじゃない」


 俺は女性の表情について意図がわからなかったが、ひとまずそう応じる。


「力がなければ俺は無様に死んでいたし、フィーナだって同じだ……確認だが、俺達の国、エルーシア王国に力を提供していたのは、あんたなのか?」


 女性は再び頷いた。ならば――


「……質問させてもらう。俺は、魔王と顔を合わせ……あんた達天霊について知った」


 相手は相変わらず声を発しない。それでいて、驚いた顔を見せたわけでもない。


「その上で尋ねる……魔王の語った天霊について、それは真実なのか? あんた達は人間を利用し、魔族と戦ってきたのか?」


 ……女性は無言のまま俺と視線を重ねる。否定も肯定もしない。むしろ俺の言及に対しどう答えようか、迷っている様子だ。

 やがて、女性は回答ではなく俺に背を向けた。そしてこちらをチラリと一瞥した後に歩き出す。


 ついてこい、ということだろうか……夢から覚めないのか不安もあったが、俺は黙って彼女の後ろを歩き始める。

 廊下を進み、途中に階段を上った。そこからさらに廊下を進み、また階段……やがて辿り着いたのは城の上階。廊下の先にあった部屋。


 そこには、外が一望できるバルコニーが存在していた。遠くに花畑が見え、あの場所に俺は最初訪れたのだと理解する。

 そこでようやく女性は俺の方へ向いた。同時、部屋の中に薄いながら魔力があることに気付いた。どうやらこの部屋は他の場所とは違う――


「……魔王から、どういった内容を聞かされたのかはわからないけれど」


 とうとう、女性が口を開いた……儚げで、俺の声を出すだけでかき消されそうな細い声。


「あなたが魔王へ挑んだという形で聞いたのなら……その全ては真実でしょう」

「……俺は魔王が放った魔物の詳細を探るために、魔族の領域へ踏み込んだ。そして、文字通り魔族を虐殺した」


 決然とした物言いに、女性は押し黙る。


「そして魔王が姿を現し、戦力は残っていないと説明し、天霊のことを話した」

「負けを認め、全てを話したということ?」

「魔王と直接戦ったわけではないけど、そういうことなのかもしれない……魔族と天霊は、因縁の間柄らしいな」

「私達と魔族は相容れない。だからこそ、どちらかが滅ぶまで戦いは終わらない」

「けれどあんた達は、力を減らしたくないために人間を使っている……まあ、人間の方も恩恵を受けてはいるんだろうけど、な」


 肩をすくめて俺は話す……ここで女性は笑みを浮かべた。ただそれは、どこか悲しそうな雰囲気がある。

 今までと比べて表情がコロコロと変わる……なので、俺は一つ質問してみた。


「この部屋に入るまで声を出さなかったのは、何か理由があるのか?」

「それは魔力を発しないために」


 天霊の女性は、俺にそう答えた。


「私達は魔力で体が構成されているけれど、人と交流を行い続けた結果、多くが人に近しい存在に形を変えた。そして、人が呼吸を行ったり、汗をかいたり……あるいは声を出したり歩いたり。そういった行動を取ることで、私達は魔力を消費する」

「この部屋では魔力を消費しなくてもすむ、と」

「循環している、と言えばいいかしら。いくつかそうした領域はあるけれど、放出した魔力を再び取り込めるよう循環する魔法を構築している……そうして私達は魔力を維持し続けてきた。でなければ、とうの昔に滅びてしまっている」

「……そして、大地の力などを利用して、俺に力を授けたと」

「そうね」


 俺は一度大きく呼吸をした。魔王が語ったことは紛れもなく真実……魔王と天霊、相容れない存在がそれぞれ語ったことで、確定したと考えていいだろう。


「なら、私から質問を」


 そして今度は女性が声を上げた。


「真実を知るために……魔王の言葉が信じられなかったから、この場に赴いた、でいいのかしら?」

「ああ、それで正解だ」

「なら、真実だと確信しあなたはどうするの?」

「……正直なところ、わからない。俺個人の願いとしては、フィーナが背負う代償については、解放してあげたいと思っている」


 女性は沈黙する。その中で俺はさらに続ける。


「俺自身のことは、正直どうでもいい……いや、こういう言い方は良くないな。俺はフィーナが幸せになってくれればそれでいい。俺のことを忘れてしまったのなら、それでも構わない」

「幼馴染みである彼女を救いたいと」


 女性の言葉に俺は深々と頷いた。そこだけは間違いがない。


「なら、それをするにはどうすればいい?」

「……魔王は何を言っていた?」

「力を与えた天霊を滅ぼせば、解決すると」

「ええ、それも間違いない」


 またも真実。本当にフィーナが――そう思った時、女性は告げる。


「けれど、そうすることで一つ大きな問題が生じる」

「ああ、そこについてはわかっている」


 と、俺はもう一度頷いた後、女性へ向け言及した。


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