小さな火玉と隠し事
相変わらず、ななは福田くんにご執心。夏休みもバイトばかりしていたけど、福田くんとの仲は一向に進展していないみたい。
「最近、先輩ちょっと素っ気ないんだよ」
ってぼやいている。
学校がないぶん、ななに福田くんの情報を届ける役目から解放されて少し気楽だった。
けれど、本当は…夏休みの間に二回だけ、福田くんに会っていたけれど、それはななには言わなかった。
一度目は、地元の花火大会でのクラスの集まり。学校から歩いて二十分ほどの海浜公園が集合場所だった。
クラスメイト全員がそろうわけじゃない。仲が良い人もそうでもない人も、入り混じって集まってくる。そういうゆるい集まり。みんなに会うのも久しぶりで、わたしも少し浮き立つ気持ちでいた。
「空。可愛いじゃない」
母に手伝ってもらい、浴衣を着付ける。ひさしぶりの浴衣に、胸が少しくすぐったくなる。
「バイトだから行けない。先輩と一緒に花火が見たかったなあ」
残念がっていたななを尻目にわたしはそそくさと家をでる。
そろそろ花火大会が始まる時間。福田くんの姿が見えないということは、彼もバイトなのかな?
ほんの少しでも話したいな。そう思っていた時…
「お待たせー!」
大きな声とともに、福田くんたちが両手いっぱいの荷物を抱えてやって来た。ペットボトルにスナック菓子、そして目を疑うくらい大きなスイカ。
「スイカ割りしようぜ!」
子どもみたいに目を輝かせて笑う福田くんを見て、わたしは思わず言葉を失った。
けれど声をかける勇気が出ない。胸の奥で高鳴る鼓動を誤魔化すように、笑っているクラスメイトたちの輪の中に溶け込んだ。
…なんだろう?福田くんも少しわたしと距離を置いてるみたい。どうしてだろう?わたし何かしたかな?
夏の空気があんなに賑やかなのに、わたしの心だけが、取り残されたみたいに寂しい。
帰りたいな…
楽しいはずなのに、胸の奥がキリキリする。でも空気を壊すのが嫌で、無理やり笑顔を作っていた。
打ち上げ花火が終わる頃には、公園もすっかり人が減っていた。帰ろうとした時、男子がまた大声をあげる。
「スイカ割りのペア決めまーす!くじ引きで!」
どこまで準備がいいんだろう。とちょっと呆れながらくじを引く。福田くんとペアは嫌だな…
そして、嫌な予感は的中?こういうのフラグ回収って言うのかな?期待は裏切られなかった。
わたしのペアは福田くん。頭が真っ白になった。
その後どうやったのかは、覚えていない。ただ、わたしたちが見事にスイカを真っ二つに割り、周囲が拍手で沸いたことだけは覚えてる。
「やった。綾瀬さん!僕ら優勝!」
福田くんが嬉しそうに笑った。その笑顔に、わたしはほっと胸を撫でる。
ななには悪いけど、心の底で嬉しいと思ってしまう。スイカはぬるかったけど、すごく甘くて美味しかった。
帰りは、近所の男子が近所の女子を送っていくことになった。
わたしと福田くんは同じ方向。二人きりで夜道を歩く。緊張して上手に話が出来ない。
「綾瀬さん、まだ時間大丈夫?」
家の近くの小さな公園の前で、福田くんが立ち止まった。手には小さな線香花火。街灯に照らされた笑顔は、少し恥ずかしそう。
「綾瀬さん、線香花火好きって言ってたじゃん?一緒にやりたいなって思って」
わたしは、胸が熱くなるのを感じながら、小さく、こくりとうなずいた。
二人だけの小さな夏祭り。
線香花火をしながら久しぶりに沢山の話をした。安心する。
通りに人影が見えた気がした…近所の人に見られたら少し気まずいな。
でも、ぱちぱちと火花が散るたび、心臓の音が重なって響く。火が落ちて消える。その一瞬に、わたしの胸の奥に小さな痛みが走る。
それが何なのか、この時のわたしには分からなかったけど、なぜか愛おしい痛みだった。
「…綾瀬さん」
福田くんの声が、不意に夜の空気を震わせた。
「今度の日曜って、空いてる?」
「ひっ暇だけど。何で?」
裏返った声が夜に溶ける。不意打ちはずるいよ…
ななには言えない秘密が今日2つ出来た。
家に帰ると、お風呂上がりのなながプリンを食べている。プリンの容器が五個も空になってる。いつもは一個か多くても二個なのに。まさか今日の事バレてないよね?
「お姉ちゃんお帰り。遅かったね。花火どうだった?」
福田くんとのことを考えて、わたしの心臓は高鳴っていた。早くお風呂に入って落ち着きたい…
「福田くんもいたけれど、違うグループだったし話は出来なかったよ。でも大きなスイカ持って来て楽しそうだったよ」
線香花火の事は言えない。日曜の事も。
「そっか。残念、わたしも行きたかったなー」
ななの言葉にいつもの軽さはなかった。プリンを食べる手も止まっている。
「…線香花火、綺麗だった?…」
なながポツリと呟いた。その声にいつもよりほんの少し引っかかるような響きがあったけれども、わたしの頭には入らなかった…
日曜日は何を着て行こう?どこに行くんだろう?
わたしの頭の中は福田くんで一杯になっていた。




