よいこ
わたしはいつも当たり障りの無い『よいこ』だった。
5月も終わりに差し掛かる頃、妹からの唐突な質問。
「ねぇ空。お姉ちゃんの学校に福田って人いない?バイト先の先輩なんだけど西高なんだよ。月って書いてカツって読むんだって」
「え?同じクラスだよ。あんまり学校に来てないみたいだけど。副委員長のクセに」
あの人、月って書いてカツって言うのか。かなりキラキラネームじゃん。
「話したことないし、よく分からないよ」
時々しか学校に来ないのに別段悪ぶってる感じもしないし、わたしとは別のベクトルで生きてるって感じ。
「じゃあさ、色々リサーチしてよ。とりあえずドラゴンボール好きらしいんだよ。他にも趣味とか好きな音楽とかさ」
「あと、一番重要な彼女いるのか?とか」
「彼女の一人や二人いるんじゃない?でも学校では女っ気無いかな?いつも男子と遊んでるよ」
「なな、福田くん気になるの?」
「一目惚れ」
恋多き乙女か。恋に恋するお年頃だもんね。
「まぁ、機会があったらね。あんまり期待しないで」
面倒臭い頼まれ事。
「マジでお願い!ひとつネタ仕入れる毎に、なめらかプリン奢るから!」
ななが必死に頼むから渋々引き受ける事にした。
…翌日いきなりチャンスが来てしまった。クラス委員の仕事で放課後福田くんと一緒に仕事をする事になった。
学校行事なんかの掲示物を貼り出す仕事なのだけれど、珍しく残っていた福田くんも手伝ってくれた。副委員長だから、一緒にやるの当たり前なんだけど…
「副委員長って何もしなくてよいと思ってたよ」
初めてする会話がそれ?やっぱりこの人とは合わないな。なんとなく気まずい。
「高い所は僕が貼るよ。危ないから」
へー。ちょっとは優しい。
わたしが画ビョウを渡す時に少し指が触れた。
ピンクの花びらに包まれてドキドキする…なんてことは全然無かった。
「僕、バイトがあるから」
と福田くんは仕事を終えるととっとと帰ってしまった。何も聞けなかったな。まぁ良いか。
家に帰ると期待満面のななが待っていた。
「空、何か聞き出した?頼りにしてるんだから」
せっかちな妹がしつこい。
「わたし、毎日図書室でドラゴンボール読んでるんだよ。少女漫画じゃ無くて。そんな健気な妹の為に一肌脱いでおくれよ」
なながしなを作る。
「それ何キャラ?てか、ななの学校の図書室にドラゴンボールあるの?」
凄いな国民的漫画。
「わたしをネタにして良いから自分で話しかけなよ。姉が西高なんです。って」
それでわたしの役目も終わりで良いでしょ?
そんなわたしの気分と裏腹に、少しずつ福田くんと話をする機会が増えた。最近はちゃんと学校にも来てるみたい。
「アルバイト、大変でしょう?忙しいって妹がいつも言ってるよ」
「君はいつも助けてくれるし、君の作る賄いは美味しいって。家ではいっつも君の話ばかり」
あわー。君とか言ってるよ、わたし。よそよそしい。
妹の為に色々と聞いてみる。
ドラマや映画の話。好きな音楽の話。
あれ?意外と趣味が合うな。好きな漫画も。
彼女は居ないみたい。
福田くんから聞いた話を、わたしは律儀に妹に報告。別にプリン目当てじゃ無いけど、ななの真剣さに押されてるから仕方ない。
「もう、面倒臭いから告っちゃいなよ」
半分は本気。もう半分は?
「ダメ!こういうのはこういう時間が楽しいの。先輩の事考えると胸がキュンってなるでしょ?振られたらそのキラキラで素敵な時間が終わっちゃうじゃん?」
「付き合いたいんじゃないの?」
ななの考えてる事はよく分からない。
「当たり前じゃん!だから頑張ってるんだよ」
「空には引き続き協力要請。お願いね、お姉ちゃん」
楽しそうな妹を見てると、少しだけ羨ましく思えた…
それからわたしは福田くんがスラムダンクが大好きな事や、サザンオールスターズをこよなく愛してる事。ひょんな事から彼の誕生日も知る事が出来た。
わたしもサザンは好き。
妹に報告するために、こそこそメモを取った。
それから手帳の来年のカレンダーの5月22日に丸をつける。
学校で福田くんを探す。教室の後ろの席。カバンが無い。
今日は遅刻かな?少しだけ寂しいと思う自分に蓋をする。
結局その日は福田くんは学校に来なかった。今日はどんな話をしようかな?って思ってたのに。
彼と話をするのがわたしの普通になってる…
夕方から急に雨が降ってきた。
「ななみ傘持って行ってないみたい。多分びしょ濡れで帰って来るよ。お風呂すぐに入れるように準備しておいてあげて」
とお母さん。
はーいと返事はしたけれど、少し考えて迎えに行くことにした。あくまでも、ななが風邪ひいて移されるのが嫌なだけで、別に福田くんに会えるかも?なんて考えてない。
自分に無理やり言い訳して家を出る。
ななのバイト先に着くと福田くんの姿が見えた。学校以外で会うのは初めてだから少し照れ臭い。
あれ?なな傘持ってるじゃん。間抜けなピエロみたいだな。まぁ良いか。
三人で駅まで歩いた。少し気まずい空気が三人を包む。ななはちょっとむくれていて、ゴメンと心の中で呟いた。
好きな人と並んで歩くなんて一大事だもんね。しかも相合傘。わたしは完全にお邪魔虫。
でもわたしは、福田くんと並んで歩いて少しだけ、ほんのちょっとだけピンクの花びらに包まれた。




