揺娘の揺心
お店からの帰り道、涼しい風が吹いててちょっと気持ちいい。ごめんなさいも言えたし、ケーキも美味しかったし、良かったな。
お姉ちゃんは夕方からお仕事だって。お家に向かってテクテク歩く。
「ねぇ?あの店長さん」
「ちょっと良い感じだよね。あんたが惚れるのもわかるわ」
「なっ!」
思わず足がもつれて、小さくよろけた。
「何それ?いきなりすぎ」
「だって優しいし、ビジュアルも悪く無いし、料理も上手。超優良物件」
「あんた店長さん見てる時、完全にラブモードだったよ?ずっとニヤけて…」
お姉ちゃんのいじわる顔。ムカつく。
「それにあのケーキ、あんたの為に作ってたんじゃないの?好きな物ばっか入ってて。ブルーベリー入ってなかったし」
え?そうなの?どんなケーキが好きって話はこの前したけどさ、ブルーベリー嫌いって言ったかな?
思い出すだけで、胸がふわっと温かくなった。ドキドキが止まらない。
「向こうもあんたの事、気になってるんじゃないの?」
お姉ちゃんがもっと意地悪顔。人差し指を立てて、指揮者みたいに振ってる。変な癖。
「えっ…うそ。ホントに?」
思わず小声で呟いた。しまった…
絶対無いって言い返すつもりだったのに、声にならなかった。
両手で口を押さえる。耳まで熱くなってる。恥ずかしい。
「あんた中学の時部活ばかりしてたから、そっち方面ホントにウブね」
お姉ちゃんはそんな事を言ってクスクス笑ってる。完全に面白がってるよ。
「お姉ちゃんだって乙女モード入ってたじゃんか!」
「え?いいの。狙っちゃおうかな?」
無理無理。お姉ちゃんには絶対勝てない。こいつに振られた男はあたしが知ってるだけで、足の指を入れても足りない位。小悪魔。
「だっ駄目っ。絶交だからね」
小さな声で必死の抵抗。
「あはは、もう…」
お姉ちゃんが声を出して笑った。その後も何か言ってだけど…胸のドキドキがうるさくて聞こえないよ。
「でもさ…店長は、ななみさんって言う大人の人と仲良しなんだよ?あたしなんて…無理だよ」
胸のドキドキがうるさい。手のひらがじんわりと熱くなって、心臓が小さく跳ねた。
店長の事考えるとぽかぽかする。でもさ、一緒にななみさんがチラついて、心臓がチクッてなるよ…
お姉ちゃんが少し困った風に笑って手を繋いで来た。今度は優しい。
何でだろ?色んな事がごちゃごちゃになって、涙が少し溢れて来た…
「まぁ、ゆっくり考えなよ」
お姉ちゃんのその一言に、少しだけ安心する。でも、胸の奥はまだザワザワしている…
「おはよーッス!」
通りの向こうで手を振っている男の子。まこと君だ。
そうか、まこと君は今日バイトか。羨ましいな。小走りで横断歩道を渡って来る姿を見て、またちょっとザワザワする。
「まこピー、久しぶり。昨日はユウの事送ってくれたんだって?ありがとう」
あたしがお礼言う前にお姉ちゃんが言っちゃった。まぁいいや。昨日あんな顔見られたから少し気まずいし。
お姉ちゃんとまこと君。中学の時同じクラスだったよね。てかまこピーとか…ウケる。店長にも教えてあげよ。
二人で楽しそうに何か話してる。友達の事とかかな?…お願い!二人ともあたしの事には触れないで…
「じゃあ、オレバイト行くわ」
暫くお姉ちゃんとお話をして、まこと君は手を振って走っていった。
昨日の事を思い出してまた顔が熱くなる。まこと君、あたしが泣いてた事、店長に言わないよね?
涼しい風に混じって、胸のドキドキする音が大きく響いてあたしを包んだ。




