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根菜と葉野菜のミネストローネ~茜の果実と殻の子の出逢い~  作者: コメッコ29


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若輩者の鋭心

 ユウとすみれが帰った後、カウンターを片付けていると一枚のメモが置いてあるのに気づいた。ユウが置いていったのだろう。


 丸っこくて大きな字。そのままユウの心みたいだ。素直で不器用なやつ。ちょっと愛らしい。


『昨日はごめんなさい。ケーキ美味しかったです。あたし、もっともっとバイト頑張ります!』


 頬が自然と緩む。本当素直だな。


 「チリン」と入り口の鈴が軽やかに鳴る。まことがいつもの調子で出勤してきた。

 スニーカーの音がやたら元気だ。いつものまことだ。妙に安心する。


「おはようっす。オプオプもおはよう」

「さっきそこで、浅倉姉妹に会いましたよ。来てたんすか?姉ちゃん連れて文句言いに来てたり」


「違う違う。なんか謝りに来た。僕が悪いのにね。変に気を使わせちゃったよ」

「まこともフォローありがとう。大丈夫だった?」

 少し気になる。


「あー、あいつガチですよ。泣いてました」

 まことがわざとらしく笑う。


「まだガキなんであれですけど、オレの目からみたらトミーさん行けるんじゃ無い?」

 …お前もまだガキだろう。


「悪く無いと思いますよ」

「ないだろ」

 と自分に言い聞かせる。そう言いながらも、熟れない果実をかじった時のようなざわつきが残る。


「またそうやって転がすんですね。トミーさんって」

「転がす?」

 まことが皮肉っぽく続ける。


「誰にでも軽く粉掛けといて、踏み込もうとするとナチュラルに距離取るって言うか、スッと避けるみたいな?」

 こいつ意外と鋭いな。


 図星。踏み込むのも、踏み込まれるのも正直面倒臭いし怖い。


「でもまこと、ユウの事気にしてなかった?」

 無理やり話題をそらす。


「ちょっとカワイイな。と思ってましたけど、脈無しだし…微妙ッス」

「それより、…自分、彼女出来そうなんですよ。それでちょっとトミーさんにお願いがあるんですけど…」


「マジで?良かったじゃん。カワイイ?」

「まぁ、自分的にはカワイイと思ってます」

「とりあえず着替えてくれば?」


 まぁ、夏だしそこいら中でカップルは出来る。まことも気が多いからな。


 まことが着替えて戻って来た。

「で?お願いって何?給料の前借りは二万な」


「違います。明日店休みですよね?ちょっとだけ厨房借りたいんですけど駄目ですか?火の始末と戸締まりは絶対きちんとやるんで」

「後、この前ななみさんに作ってた冷製パスタ教えて下さい。めちゃめちゃ美味いって」

 おどけた様子で手を合わせている。


 聞けばその娘に自分の料理を振る舞いたいらしい。

「料理できる男はモテるって散々言ってたじゃないですか。流れで明日のランチ作ってあげる事になったんですけど、勝負かけたいんですよ」

 拝むように手を合わせている。その必死な姿に思わず吹き出してしまった。


「食材は自分で用意するんで。お願いします!」

 確かにモテるとは言ったけど…それは要素のひとつに過ぎない。まぁ、まことなら信用出来るから良いか。


「…バックヤードで変なことするなよ」

「しませんよ!」


 笑って僕は了承した。件の冷製パスタのレシピを教える。

「まことにこれ作れる?そんなに難しい事も無いけど」

「意外と凝ってるんですね。材料揃えるのに結構金かかるな」


「食材も店のヤツ使って良いよ」

「マジで?神…ありがとうございます!これはメニュー化しないんですか?」


「この子はまだかな?」

 僕は自分の料理を子どものように呼ぶ。


「この前教えてあげたプライドポテトを使ったスープあるじゃん?あれの冷たいヤツも出してあげな」


「ポタージュのスープッスね。冷たくしてもいけるんですか?」

「旨いよ。パスタのソースにも使えるし、じゃがいもより楽だし。ビシソワーズっぽくなるよ」

 まことは料理の話をする時、えらく真剣な面持ちになる。


「それとこれ。ユウの為に作ったんだけど、新作のケーキ…」


「それ。やっぱりユウの為に作ったんですね。あいつベリー系が一番好きって言ってたし」

 まことがニヤニヤ笑う。


「兎に角、僕は19時位には帰るからね。それまでな。今日出来る仕込みはやっておいた方が良いよ」


「後、オプオプも借りて良いすか?その娘が見たいって」


「別に良いよ。ゲージから出す時はリード忘れ無いように」

「あざまーす。オプオプ、よろしくな」

 まことが元気良く返事をして、オプオプも「ウキッ」と鳴いた。




 明日は一年に一度必ずお店を休みにして行く所がある。思い出に手を伸ばそうとする度に、胸の奥で彼女のぬくもりが僕を締め付ける。


 ギリギリと心臓が軋む音が聞こえるようだ。


「チリン」と入り口の鈴が鳴って、ななみが扉を開けた。

「おはようございます」

「あれ?ななみさん、今日出勤ですか?てかこんな時間に珍しいですね」


「今日はプライベート。店長にちょっとね」

「前から気になってるんすけど、ななみさんとトミーさんってやっぱり出来てるんすか?みんな言ってますよ?」


「えー、無いよ。わたし彼氏いるし」

 ななみがいつもの調子で受け答えしている。


「店長おはよう。昨日のお弁当も美味しかったです」

 ななみは明日の打ち合わせに来たのだろう。まことがいるから遠慮している。


「まこと、ちょっと買い出し頼める?バジリコとケッパー買って来て欲しい…」

 上手い具合に人払いをする。


 カウンターにゆっくりと腰を下ろしてななみが口を開く。

「もう7年だよ?そろそろ自分を許してあげたら?福さん」

「姉さんも望んでないと思うけどな…」

 ななみは毎年同じような事を言う。


「ウキキ」っとオプオプが小さく鳴いた。

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