悩娘と迷心
明日は福田くんと約束の日曜日。わたしはそわそわしている。
何を着て行こうか悩む。ななに相談したいけど、勘繰られると困るから聞けない。
ベッドの上には脱いだ服が散らかっていて、スカートやブラウスが山積み。
もともとそんなに派手な服は持っていないけれども、あまりにも普段着ってのもどうかと思うし、ファッション誌を切り抜いたような服で気合い入れるのもちょっと違う。
どこに行くのかな?それすらも聞いてないから、スカートにするかパンツにするかも悩む。
あまり袖を通した事の無い、少しだけ大人っぽく見えるワンピースを手に取って、鏡の前に立つ。
「うー…やっぱり恥ずかしいな。」
口から溢れた独り言に、はっと我に返る。
カーテンの隙間から差し込む街灯の明かりが、散らかった服の山をぼんやりと照らしていた。鏡の中の自分を見ていると、気恥ずかしさで鼓動が早くなった。
でも、その胸の高鳴りが楽しいものに変わっていくのを感じながら、わたしはまた別の服を手に取った。明日は少しだけ特別な日になりそうな気がしていた。
「空」
ノックもせずにななが部屋に入って来た。振り返った瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
「そんなに気合い入れて明日はデートなの?」
ななの目を直視出来なくて、少しだけ視線を外した。
「わたしがコーディネートしてあげるよ」
ななは自分の服も持って来て、私が明日着ていく服を一緒に選んでくれる。凄く楽しいのに、何だか泣きそうになる。このままで、この瞬間が続いて欲しい。そう思えば思う程、暗い気持ちに締め付けられる。
花火大会の日以来、久しぶりにゆっくり話した気がする。わたしは物凄い罪悪感に押し潰されそうになった。
「ゴメン…実は」
そこまで口に出したところでななが遮るように言った。その顔は笑っているのにどこか挑むような、複雑な感じ。
「負ける気もしないし、絶対わたしの方が福さんのこと好きだから…」
「…空も福さん好きになっちゃったんでしょう?」
一瞬だけ間を置いて、ななが視線を逸らす。
「この前そこの公園で花火してたの見たよ。空、珍しく女の子してるし。あーあって感じ。でも、仕方ないかな?」
まるで練習してきたセリフのように、言葉が途切れる事無く溢れていた。
少しだけ深く息を吸って、ななは優しい笑顔で続けた。
「うちらそんな所まで似なくても良いのにね…」
わたしとななはその日、久しぶりに一緒にお風呂に入って、その後で一緒にプリンを食べた。まるで、何もなかったみたいに笑いあっていたけれど、心の中にはお互いに言えない気持ちを抱えていた…
次の日のお昼、わたしは一時間も前に約束の駅に着いた。日曜日のお昼過ぎで、駅前は人が多くて賑わっていた。
空いているベンチを見つけて、腰を下ろしてみたけれども、じっとしていると余計に落ち着かなくて辺りをうろうろしていた。
今までも男の子と出掛けたりした事はあったけれども、こんなにそわそわしているのは初めてだった。
それが福田くんに会える嬉しさから来ているのか、ななへの罪悪感なのか…自分でもわからないままだった。
早く来て欲しいような、このまま来なければいいような…そんなわがままな気持ちがぐちゃぐちゃに混ざっていた。
「綾瀬さん早いね。ゴメンね、待たせちゃった?」
福田くんが息を切らせながらやって来た。約束の四十分前。
「わたしも今来た所。天気が良いからお散歩がてら家を出たんだけど、早く着いちゃったの。福田くんも早いじゃん?」
福田くんはジーンズに白いTシャツ。大きめのリュックを背負っていた。カジュアルな格好だけれども、Tシャツはさりげなくブランド物で、靴は高校生にはちょっと背伸びな感じのレザーのスニーカーを履いていた。
ななの選んでくれたコーディネートは、バッチリ福田くんの格好と合っていた。わたしは最後まで編み上げのサンダルにするか、スニーカーにするか悩んでいたけれど、ななの貸してくれたスニーカーは福田くんと同じニューバランスだった。
さすが…福田くんの私服をいつも見ているだけの事はある。
「今日はどこに行くの?行きたい所があるって言ってたけど…」
気になっていた事を聞く。
「葛西臨海公園とかどう?綾瀬さんマグロ好きって言ってたよね?」
マグロはお寿司の話だよ?
こういう少し抜けた所が愛らしい。ななへの罪悪感はまだまだ残っていたけれど、今日は楽しもう。って決めた。
「うん…マグロ楽しいよね」
思わず笑顔が溢れる。福田くんと一緒にいるだけで、わたしの周りにはピンクの花びらが舞っているみたいで、心がふわっと弾む。




