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『可愛げがないと言われた女騎士団長は、無自覚わんこ副団長に溺愛される。』連載版  作者: 久遠 ヒカリ


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第6話 可愛げがないと言われた私に、あなたは

 エドガルドとの婚約は、順調だと思っていた。


 少なくとも。


 私はそう思おうとしていた。


 騎士として生きてきた私には、恋愛など分からない。


 だから。


 結婚とは、こういうものなのだろう。


 そう考えていた。


 けれど。


 ある日。


 私は知ってしまった。


 エドガルドが、別の女性と親密にしていることを。


 しかも。


 私に「可愛げがない」と言った、その口で。


 別の女性には。


「君は可愛いね」


 そう言っていた。


 胸の奥が、痛かった。


 怒りより先に。


 悲しさが込み上げた。


 私は何を期待していたのだろう。


 私だって。


 誰かに可愛いと言ってほしかった。


 誰かに大切にしてほしかった。


 騎士だからではなく。


 ヴァレンティア家の娘だからでもなく。


 団長だからでもなく。


 ただの私として。


 屋敷へ帰ることもできず。


 私は一人、王城の中庭にいた。


 夜の風が冷たい。


 銀色の髪が揺れる。


「……馬鹿みたい」


 目元を拭う。


 それでも涙は止まらなかった。


 そのとき。


「団長?」


 聞き慣れた声。


 私は顔を上げた。


「……レオン」


「こんなところで何してるんですか?」


「何でもない」


「でも……」


 レオンが私の顔を見る。


 そして。


 目を見開いた。


「……泣いてる?」


「見ないで」


「団長……」


 レオンは困ったように立ち尽くした。


 それから。


 ゆっくり私の隣に座った。


「何があったんですか?」


「……」


「話したくなかったら、話さなくていいです」


 私は黙っていた。


 レオンも急かさなかった。


 ただ。


 隣にいてくれた。


 しばらくして。


 私は小さく口を開いた。


「……私、可愛げがないんだって」


「え?」


「エドガルドに言われた」


 声が震える。


「騎士を辞めてほしいとも言われた。女性なら男を立てるべきだとも」


 レオンは黙って聞いていた。


「その人が……他の女性と一緒にいるところを見たの」


「……」


「私には可愛げがないと言ったのに」


 涙が落ちる。


「その人には、可愛いって……」


 レオンの拳が、ぎゅっと握られた。


「誰が団長を可愛くないって言ったんですか?」


「……レオン?」


 彼は真剣な顔をしていた。


「団長は可愛いです」


「……」


「すごく可愛いです」


「……やめて」


「どうしてですか?」


「……恥ずかしいから」


「でも、本当のことです」


 レオンは真っ直ぐ私を見る。


「団長は強いです。格好いいです。綺麗です」


「……」


「でも、それだけじゃない」


 レオンは少し照れながら笑った。


「困ってる部下を放っておけないところとか」


「……」


「俺が怪我したとき、真っ先に医務室へ連れて行ってくれたところとか」


「……」


「部下の努力をちゃんと見てくれるところとか」


 胸が熱くなる。


「たまに笑うと、すごく可愛いところとか」


「……そんなこと」


「あります」


 即答だった。


 私は思わず顔を上げた。


「俺、団長のことずっと見てきましたから」


 その言葉に。


 胸が大きく鳴った。


 レオンは。


 私が隠していたものを。


 ずっと見ていた。


 強さだけではない。


 不器用さも。


 優しさも。


 弱さも。


 全部。


「……ありがとう」


 それしか言えなかった。


 エドガルドとの婚約は解消された。


 彼が謝罪に来ても。


 私はもう振り返らなかった。


 けれど。


 レオンに言われた言葉だけは。


 いつまでも胸に残った。


 ――団長は可愛いです。


 それから。


 私は少しずつ変わった。


 レオンに褒められると、以前より強く意識してしまう。


「団長、今日も綺麗ですね!」


「……そういうことを簡単に言うな」


「本当のことなのに?」


「……」


「顔、赤いですよ?」


「赤くない!」


「赤いです!」


「うるさい!」


 レオンは楽しそうに笑う。


 私はため息をついた。


 けれど。


 嫌ではなかった。


 むしろ。


 その笑顔を見るのが。


 少しだけ楽しみになっていた。


 ある日。


 女性騎士がレオンに話しかけていた。


「レオン副団長って、本当に頼りになりますね」


「え? そうですか?」


「今度、一緒に食事でも――」


「レオン!」


 私は思わず呼んでいた。


「はい!」


 レオンがこちらへ駆けてくる。


「どうしました?」


「……仕事がある」


「はい!」


 女性騎士が去っていく。


 私は胸の奥に妙なざわつきを感じていた。


 ――何なのだろう。


 その夜。


 母に相談すると。


 エレノアは優しく微笑んだ。


「ナターシャ」


「何?」


「あなた、レオンのことが好きなのではありませんか?」


「……」


 言葉が出なかった。


 初めて。


 その可能性を考えた。


 私は。


 レオンが好きなのだろうか。


 強いからではない。


 身分でもない。


 私を「団長」としてだけではなく。


 私自身として見てくれるから。


 失敗しても。


 弱っていても。


 それでも隣にいてくれるから。


 そのことに気づいた瞬間。


 胸の奥にあったものが。


 はっきりと形を持った。


 ――私は、レオンが好きだ。


**――次回に続く。**



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