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『可愛げがないと言われた女騎士団長は、無自覚わんこ副団長に溺愛される。』連載版  作者: 久遠 ヒカリ


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第5話 あなたの隣に立つために

 さらに数年が過ぎた。


 レオンは、もう新人ではない。


 第三騎士団の中核を担う騎士へと成長していた。


 明るく、人懐っこい性格は昔のまま。


 ただし、剣を握った瞬間の表情は変わる。


 冷静に敵を見極め。


 仲間を守り。


 必要ならば自ら危険な場所へ飛び込む。


 かつて私が「騒がしい新人騎士」と呼んでいた青年は。


 いつしか、誰もが認める優秀な騎士になっていた。


「レオン、お前に頼みたい任務がある」


「はい!」


「今回の隊の指揮を任せる」


「……俺が?」


「ああ」


 レオンは驚いた。


 けれど。


「分かりました!」


 すぐに笑った。


 任務は魔物の討伐だった。


 予想以上に魔物の数が多く、隊列が乱れる。


 そのとき。


「後衛は下がってください!」


 レオンが叫んだ。


「負傷者を中央へ! 前衛は俺と一緒に!」


 迷いのない指示。


 仲間たちが動く。


 レオンは先頭に立って敵を引きつけた。


 私は後方から全体を見渡す。


 ――成長した。


 心からそう思った。


 戦闘が終わったあと。


「お疲れさまでした、団長!」


「ああ。よくやった」


「ありがとうございます!」


 レオンは汗だくになりながら笑った。


 その笑顔を見ると。


 なぜか胸が温かくなる。


「……レオン」


「はい?」


「今日の判断は正しかった」


「……!」


 レオンの目が輝いた。


「本当ですか?」


「ああ」


「やった!」


 私は苦笑する。


 何年経っても。


 褒められると嬉しそうにするところだけは変わらない。


 その後。


 私は騎士団上層部に一つの推薦書を提出した。


 レオンを。


 第三騎士団の副団長に推薦するためのものだった。


「本当に彼を?」


 上層部の騎士が尋ねる。


「ああ」


「まだ若いのでは?」


「年齢だけで判断するべきではない」


 私は答えた。


「彼には実力がある。それ以上に、仲間から信頼されている」


 副団長に必要なのは、ただ強いだけではない。


 人をまとめる力。


 団長の判断を理解する力。


 そして。


 いざというとき、私の代わりに仲間を守る覚悟。


 レオンには、それがある。


 数日後。


「団長!」


 レオンが訓練場へ駆け込んできた。


「どうした?」


「副団長に……!」


「ああ」


「俺が……?」


「ああ」


「本当に?」


「ああ」


 レオンはしばらく固まった。


 そして。


「……俺、頑張ってきてよかった」


 小さく呟いた。


 いつもの明るい笑顔とは違う。


 少しだけ、泣きそうな顔だった。


「団長が、ずっと見ていてくれたから」


 私は胸が詰まった。


「私は当然のことをしただけだ」


「それでも、嬉しいです」


 レオンは笑った。


「これからもずっと、団長の隣にいます」


 その言葉が。


 妙に胸へ残った。


 私は、彼を信頼している。


 それは間違いない。


 けれど。


 それだけではない何かが。


 少しずつ胸の中に育っているような気がした。


 そんなある日。


 家から一通の手紙が届いた。


 内容は――婚約について。


 ヴァレンティア家と相手の家との縁談。


 家柄も申し分ない。


 王国でも名のある貴族だ。


 私は両親に言われるまま、相手と会うことになった。


 相手の名は、エドガルド。


 最初は穏やかだった。


 騎士団長という私の立場にも理解を示しているように見えた。


 けれど。


 何度か会ううちに。


 少しずつ言葉が変わっていった。


「ナターシャ殿は、騎士団を続けるおつもりですか?」


「もちろん」


「結婚したら?」


「……続ける」


 エドガルドは苦笑した。


「女性なのですから、もう少し家庭を優先されてはいかがです?」


 私は黙った。


「それに」


 彼は続ける。


「あなたは、少し可愛げがありませんね」


 胸の奥が。


 冷たくなる。


 聞き慣れた言葉だった。


 昔から。


 何度も。


 自分でも気にしないようにしてきた言葉。


 可愛げがない。


 男みたい。


 強すぎる。


 格好いい。


 ――でも、可愛くない。


 私は微笑んだ。


「そうですか」


 それ以上、何も言わなかった。


 けれど。


 その言葉は。


 私の中に深く刺さった。


**――次回に続く。**



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