第4話 騒がしい新人騎士、初めて認められる
それから一年。
レオンは正式な騎士になるための昇格試験を迎えていた。
訓練場には多くの騎士が集まっている。
試験内容は剣術、体術、模擬戦、そして実戦を想定した判断試験。
簡単な試験ではない。
特にレオンは、貴族出身の騎士たちと比べれば恵まれた環境ではなかった。
それでも。
「レオン」
「はい!」
「緊張しているか?」
「少しだけ!」
「なら、いつも通りやれ」
「はい!」
私はそれだけ告げた。
レオンは深呼吸する。
そして試験が始まった。
剣術。
最初の頃とは比べものにならない。
足運び。
間合い。
剣を振る速度。
すべてが確実に成長していた。
模擬戦では、一度押し込まれた。
それでもレオンは倒れなかった。
「まだ……!」
立ち上がる。
相手の動きを見る。
そして。
一瞬の隙を突いた。
木剣が相手の胸元で止まる。
「そこまで!」
試験官の声が響く。
合格。
レオンは目を見開いた。
「……やった」
そして、こちらを見る。
私と目が合った。
次の瞬間。
「団長!」
走ってくる。
「合格しました!」
「ああ」
「俺、騎士になれます!」
「ああ。よくやった」
私はそう言った。
ただ、それだけ。
けれど。
レオンの目が大きく見開かれた。
「……今」
「何だ?」
「褒めました?」
「褒めた」
「……!」
顔いっぱいに笑みが広がる。
「やったぁ!」
「騒ぐな」
「すみません!」
「声が大きい」
「はい!」
私は思わず笑ってしまった。
ほんの一瞬。
けれど確かに。
レオンはそれを見逃さなかった。
「団長、今笑いましたよね?」
「……見間違いだ」
「絶対笑いました!」
「うるさい」
「はい!」
正式な騎士になったレオンは、初任務にも参加することになった。
内容は王都近郊の村への護衛任務。
危険度は高くない。
だが、実戦経験の浅いレオンにとっては重要な任務だった。
馬車の護衛中。
森から盗賊が飛び出してきた。
「敵襲!」
騎士たちが剣を抜く。
レオンも構えた。
足が震えている。
怖いのだろう。
それでも。
逃げなかった。
一人の盗賊が村人へ向かって走った。
「させるか!」
レオンが飛び出す。
剣を受け止める。
腕が震える。
それでも耐えた。
「下がってください!」
村人を背中に庇う。
私はその姿を見ていた。
昔の自分なら。
迷わず前へ出て敵を倒していただろう。
けれど。
今の私は違う。
レオンが何をするのかを見ていた。
彼自身の力で、誰かを守ろうとしている。
やがて盗賊は制圧された。
任務は無事終了。
帰路。
「団長!」
「何だ」
「俺、ちゃんと役に立てましたか?」
「ああ」
「本当ですか?」
「村人を守った。それは騎士として立派な仕事だ」
レオンは嬉しそうに笑った。
「……よかった」
そして。
「もっと強くなります」
そう言った。
「団長の隣に立っても恥ずかしくないくらい!」
私は一瞬、返事ができなかった。
やがて。
「……期待している」
そう答えた。
それから数年。
レオンは多くの任務を経験した。
盗賊討伐。
魔物討伐。
商隊の護衛。
雪山での遭難者救助。
国境付近の警備。
危険な任務もあった。
失敗することもあった。
仲間と衝突することもあった。
傷を負うこともあった。
それでも。
レオンは立ち上がった。
「団長!」
「何だ」
「次こそ上手くやります!」
「その意気だ」
いつしか。
私は彼の隣で戦うことに、安心を覚えるようになっていた。
私が前へ出れば、レオンが後ろを守る。
レオンが敵を引きつければ、私は隙を突く。
言葉を交わさなくても、互いの意図が分かる。
それはシルヴァとの連携とは違う。
シルヴァは、私の命を預けられる相棒。
そしてレオンは。
――背中を預けられる仲間。
ある魔物討伐の帰り。
私たちは並んで馬を走らせていた。
「団長」
「何だ?」
「俺、昔より強くなりましたよね?」
「……ああ」
「じゃあ!」
レオンが笑う。
「いつか本当に、団長の隣に立てますか?」
私は前を向いた。
「もう立っているだろう」
「……え?」
レオンが固まる。
「お前はもう、私の隣で戦っている」
その言葉を聞いた瞬間。
レオンの顔がぱっと明るくなった。
「……はい!」
その返事は。
新人時代と変わらないくらい大きかった。
ただ。
昔とは違う。
そこには確かな自信があった。
私はその横顔を見ながら。
胸の奥に小さな誇らしさを覚えていた。
そして。
彼の成長を誰よりも嬉しく思っている自分に。
私は少しずつ気づき始めていた。
**――次回に続く。**




