↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/98

Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・3

「──命拾いしたな」


ファラがスナウトの後ろ姿に視線を落とすと、声を投げた。


「精々、マデルーク王女殿下に感謝する事だ。然(さ)もないと今度は本当に、首々足々(しゅしゅそくそく)処(ところ)を異する事になる」


ファラは言い終わらぬうちに、無慈悲にそっと剣の切っ先を引いた。刹那、スナウトの後ろ首筋に細い1条の血筋が走って、その感触にスナウトが僅かばかりに肌を粟立てさせた。


「──ヤンネ! 今度こそ、艦(ふね)に戻るぞ!」


ファラが聖剣スプリガンを構えたまま周囲に目配せし、ヤンネの方に背を向けたまま大声で怒鳴った。


「コンスタンツェのヒズ・ハイネス(姫君の殿)もお越し頂くのだ・・・!」


「──ガート! 周りに注意しろッ!」


ファラの言葉を受けてコンスタンツェが、改めて聖剣レプラコーンを抜くと、忙(せわ)しなく周囲を見回しながら、ファラの方へと後退(あとじさ)る。


「また蜻蜒(やんま)の化け物が襲って来んとも限らんからな!」


フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を構えたガートルードは、無言のままトラニオウの傍からそろりと摺(す)り足を後ろに繰る。


「クーガ! 其方(そなた)はシャヴィの側を離れるな!」


ワォンと一哮(ほ)えしたクーガも4本足を繰り、ガートルードに合わせてゆっくりと後退し始めた。



  * * *



「──マデルーク王女殿下のヒズ・ハイネス(姫君の殿)」


ファラを筆頭に3人と1頭が後退し始めると、ヤンネがそっとシャヴィの肩を扣(たた)いた。


「歩けますか?」


「止してくれよ」顔を覗き込んで来る巨躯のジャミラ人に、素っ気無く首を振ったシャヴィだったが、口振りは実に素直だった。「俺は、そう呼ばれるような柄じゃない」


「でも貴方(あなた)さまが、コンスタンツェ殿下を此処までお守りなされていたのですよね・・・?」


「お守り、って言う程の事はしていない」


シャヴィはヤンネに背中を向けたまま、じりじりと後退(さが)って来るコンスタンツェとファラの二姫(ふたひめ)の姿を、片時も目を離さず追っていた。


「──スタンツィが剣を振るってくれたお陰だよ。何方(どちら)かと言うと、守って貰ったのは俺の方だ」


「その謙虚さ、こう言っては失礼ですが、あまり似付かわしくないと感じますが」


「謙虚さ、なんかじゃないさ」シャヴィは背後に立つヤンネをちらりと振り仰ぐと、小さく肩を窄(すぼ)めて見せた。「上手くスタンツィを助けてやれなかった自分への、単なる自嘲だよ」


「そうですか?」前に向き直ったシャヴィが見せる逞しい背を見詰め、底意地悪そうな表情で、今度はヤンネがその巨(おお)きな肩を窄(すぼ)め返した。「──まあ、そう言う事にしておきましょう」


「ちぇっ、あんたには敵わないな」


シャヴィが嘆息一つ吐き出すと、不意に改まった声を上げた。


「──1つ聞きたい事があるんだ。あんた王室付の高官だよな?」


振り向きもしないまま、シャヴィは少し堅い口調で言葉を続けた。


「高度に政治的って奴なら、答えなくて構わない」


「改まって、何でしょう・・・?」


背後の頭上から降って来た、少し訝(いぶか)るヤンネの声に、シャヴィは一呼吸の間を置くと口を開いた。


「今回の事、コンスタンツェの事について、ファラの事を含めて、マデルーク、ウェスデン、ヒイェラの間で、外交問題に発展するかな・・・?」


「・・・・・・」


直截な本質を突いて来るシャヴィの問い質しに、思わずヤンネ・キャラミは一瞬言い淀んだ。


「──間違いなく、なるでしょうね」


「そうか──」気負いない口調のヤンネの返答に、シャヴィは束の間逡巡すると、ぼそりと言葉を漏らした。「ならスタンツィを保護すると、ウェスデンの、ファラの王室の立場は悪くなるな・・・」


「それは質問ですか?」


「出来れば答えて欲しい」


「なりますね」


「・・・・・・」


衒(てら)い無く返って来たヤンネの一言に、シャヴィは無言のまま横目に振り返った。


「──ですが、それはファラ姫は勿論、コンスタンツェ殿下も察しておられます。それでもファラ姫は殿下に手を差し伸べられた。それが王室の意志です」


「しかし、国王が居るだろう、ファラの親父殿が」


ファラの意志が、コンスタンツェの意思がどうであろうとも、最終権限者はウェスデン国王にある──シャヴィはそう言いたかった。勿論ヤンネも、シャヴィの言葉の意味は理解している。


「殿下はテオ国王陛下にとって、ご自身の従姪(いとこめい)であり、従兄妹(いとこ)ハーミア様のたった1人の遺児でもあらせられます。特に陛下とハーミア様は、兄妹ほどに仲が良うございましたから、陛下のご気性なら、コンスタンツェ殿下を金輪際お見捨てになる事はありますまい」


「しかし、それで王室に累が及べば──」


思わずシャヴィが、背後のジャミラ人を振り返った。


「それは、陛下が判断しご決断される事です」


自然な笑みを湛(たた)えたヤンネの、答える柔らかな口調は、冷たく遇(あしら)う訳でも、説き伏せる風でもなかった。


「小生どもが、口を挟んで良い事柄ではありません」


「・・・・・・」だがそのヤンネの態度が、シャヴィを尚更自責に追い込む。「──俺は守るどころか、余計な事をしたのかも知れない」


「さあ、それもどうでしょう・・・?」


今度は如何にも勿体振った口調で、ヤンネが可笑しそうに言った。


「ヤンネ・・・?」


「政治的な事はさて置いて、少なくともデジャーソリスの血を引かれる二姫(ふたひめ)さまです」


訝(いぶか)るシャヴィに、ヤンネが巨(おお)きな肩をこれ見よがしに窄(すぼ)める。


「必要とあらば、我が身を盾にしてでも、お立ち向かい遊ばす御方(おかた)たちですよ。努々(ゆめゆめ)、侮られませんように、お気を付けなさいませ」


じっと見返して来るシャヴィに、腰を折ったヤンネがその顔を覗き込んだ。


「貴方(あなた)さまに思いを募らせておられる姫君は、少なくともそう言う御方(おかた)なのです」


「──それは、男冥利に尽きる、と思って良いのか・・・?」


少し照れたような面映ゆい表情を、シャヴィが浮かべる。


「勿論です」


間髪入れず、ヤンネが頷く。


「銀河中を探し歩いても、あれほど美しくもご聡明な方(かた)は、2人と見つからないでしょう」


「勿体ないお化けに取り憑かれそうだ」


所作に困ったようなシャヴィが、首を竦(すく)めた矢庭。


大人のマフィン(おまんまん)と言うものじゃ──いきなり脈絡不明な、しかも如何にも淫猥下品なファラからの言葉に、シャヴィが思わず振り返る。コンスタンツェ、ファラ、ガートルードの3人の後ろ姿が、何時(いつ)の間にやら直ぐ手が届きそうな程に来ていた。



  * * *



「──恩に着る、ウェスデン王女殿下」


摺(す)り足で下がりながら、ファラの横に並び立ったコンスタンツェが、周囲に気を巡らせながら言った。


「言っておくがな、コンスタンツェ──」


ファラは一呼吸置くと、すっと左足を引いて後退(あとじさ)り始めた。


「汝(いまし)に恩を着せ着せした覚えはない。あくまで、あの殿方が、先程に我が身を庇ってくれた事への礼々儀々(れいれいぎぎ)じゃ」


「其方(そなた)の性分は存じているつもりだ、ファラ」


油断なく聖剣を構え、絶えず周囲に目を走らせる二姫(ふたひめ)は、顔を合わさないものの見事に呼吸を合わせ、1歩2歩と歩調を揃えて後退(あとじさ)る。


「だが某(それがし)も、今はマイ・ロード(我が殿)に養生して頂く事だけを案じている故(ゆえ)、察して賜(たも)れ」


「──畢生(ひっせい)を断固として、か」


コンスタンツェの言葉に、ファラは深く感じ入ったように静かに声を漏らした。


「汝(いまし)の言い放ったあの言葉、汝(いまし)のあの殿方に対する、思慕だけは犇々(ひしひし)と察しておる。決して軽々(かろかろ)と聞いてはおらぬ」


ガートルードがクーガを伴い、スキップするような足取りで後退(あとずさ)りながら二姫(ふたひめ)に合流した。ガートルードが二姫(ふたひめ)の前に立つと、ファラとコンスタンツェがその両脇に並び立ち、身を斜めにしながら横合いへ注意を払う。


「──姫御前」


ついっと前に出て、横っ飛びに下がりながら殿(しんがり)を勤める、漆黒の巨(おお)きな人造犬に、ガートルードが軽く顎を抉(しゃく)った。


「先程から我らに従っている、あのベルセルク(動物型義工器械)は一体何なのですか・・・?」


「某(それがし)の貞操を守ってくれる友人、いや、友犬だ」


「姫御前の・・・?」


ガートルードが、えっと驚いた表情で、左斜め後ろで剣を構えているコンスタンツェの横顔を横目に見遣る。


「正確には、マイ・ロード(我が殿)の相棒だ」コンスタンツェは表情を引き締めてはいるものの、声音は如何にも嬉しそうだった。「シャヴィと共にずっと、この身を案じてくれていたのだ」


「味方、なのですか・・・?」


シャヴィと共にずっと、と言う主人の言葉に、面目を失ったガートルードが僅かばかりに顔を曇らせる。


「コーン・マフィンを褒めた礼に、いの一番の友人にして貰ったのだ」


だがコンスタンツェの方は、気にする素振りどころか自慢気に言葉を返す。


「──コンスタンツェよ」


それにファラが、少し驚いた言い草で口を挟む。


「汝(いまし)はあの殿方から、陰毛薄々のマフィン(おまんまん)を褒め褒めして貰える仲なのか・・・!」


「誰が薄々だ」コンスタンツェが可愛らしくもぶう垂れるように言った。「まあしかし、そこが問題なのは確かだな・・・」


「どう言う意味意味じゃ・・・?」


語尾を濁すコンスタンツェに、ファラが訝(いぶか)った。




★Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・3/次Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。