Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・3
「──命拾いしたな」
ファラがスナウトの後ろ姿に視線を落とすと、声を投げた。
「精々、マデルーク王女殿下に感謝する事だ。然もないと今度は本当に、首々足々(しゅしゅそくそく)処を異する事になる」
ファラは言い終わらぬうちに、無慈悲にそっと剣の切っ先を引いた。刹那、スナウトの後ろ首筋に細い1条の血筋が走って、その感触にスナウトが僅かばかりに肌を粟立てさせた。
「──ヤンネ! 今度こそ、艦に戻るぞ!」
ファラが聖剣スプリガンを構えたまま周囲に目配せし、ヤンネの方に背を向けたまま大声で怒鳴った。
「コンスタンツェのヒズ・ハイネス(姫君の殿)もお越し頂くのだ・・・!」
「──ガート! 周りに注意しろッ!」
ファラの言葉を受けてコンスタンツェが、改めて聖剣レプラコーンを抜くと、忙しなく周囲を見回しながら、ファラの方へと後退る。
「また蜻蜒の化け物が襲って来んとも限らんからな!」
フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を構えたガートルードは、無言のままトラニオウの傍からそろりと摺り足を後ろに繰る。
「クーガ! 其方はシャヴィの側を離れるな!」
ワォンと一哮えしたクーガも4本足を繰り、ガートルードに合わせてゆっくりと後退し始めた。
* * *
「──マデルーク王女殿下のヒズ・ハイネス(姫君の殿)」
ファラを筆頭に3人と1頭が後退し始めると、ヤンネがそっとシャヴィの肩を扣いた。
「歩けますか?」
「止してくれよ」顔を覗き込んで来る巨躯のジャミラ人に、素っ気無く首を振ったシャヴィだったが、口振りは実に素直だった。「俺は、そう呼ばれるような柄じゃない」
「でも貴方さまが、コンスタンツェ殿下を此処までお守りなされていたのですよね・・・?」
「お守り、って言う程の事はしていない」
シャヴィはヤンネに背中を向けたまま、じりじりと後退って来るコンスタンツェとファラの二姫の姿を、片時も目を離さず追っていた。
「──スタンツィが剣を振るってくれたお陰だよ。何方かと言うと、守って貰ったのは俺の方だ」
「その謙虚さ、こう言っては失礼ですが、あまり似付かわしくないと感じますが」
「謙虚さ、なんかじゃないさ」シャヴィは背後に立つヤンネをちらりと振り仰ぐと、小さく肩を窄めて見せた。「上手くスタンツィを助けてやれなかった自分への、単なる自嘲だよ」
「そうですか?」前に向き直ったシャヴィが見せる逞しい背を見詰め、底意地悪そうな表情で、今度はヤンネがその巨きな肩を窄め返した。「──まあ、そう言う事にしておきましょう」
「ちぇっ、あんたには敵わないな」
シャヴィが嘆息一つ吐き出すと、不意に改まった声を上げた。
「──1つ聞きたい事があるんだ。あんた王室付の高官だよな?」
振り向きもしないまま、シャヴィは少し堅い口調で言葉を続けた。
「高度に政治的って奴なら、答えなくて構わない」
「改まって、何でしょう・・・?」
背後の頭上から降って来た、少し訝るヤンネの声に、シャヴィは一呼吸の間を置くと口を開いた。
「今回の事、コンスタンツェの事について、ファラの事を含めて、マデルーク、ウェスデン、ヒイェラの間で、外交問題に発展するかな・・・?」
「・・・・・・」
直截な本質を突いて来るシャヴィの問い質しに、思わずヤンネ・キャラミは一瞬言い淀んだ。
「──間違いなく、なるでしょうね」
「そうか──」気負いない口調のヤンネの返答に、シャヴィは束の間逡巡すると、ぼそりと言葉を漏らした。「ならスタンツィを保護すると、ウェスデンの、ファラの王室の立場は悪くなるな・・・」
「それは質問ですか?」
「出来れば答えて欲しい」
「なりますね」
「・・・・・・」
衒い無く返って来たヤンネの一言に、シャヴィは無言のまま横目に振り返った。
「──ですが、それはファラ姫は勿論、コンスタンツェ殿下も察しておられます。それでもファラ姫は殿下に手を差し伸べられた。それが王室の意志です」
「しかし、国王が居るだろう、ファラの親父殿が」
ファラの意志が、コンスタンツェの意思がどうであろうとも、最終権限者はウェスデン国王にある──シャヴィはそう言いたかった。勿論ヤンネも、シャヴィの言葉の意味は理解している。
「殿下はテオ国王陛下にとって、ご自身の従姪であり、従兄妹ハーミア様のたった1人の遺児でもあらせられます。特に陛下とハーミア様は、兄妹ほどに仲が良うございましたから、陛下のご気性なら、コンスタンツェ殿下を金輪際お見捨てになる事はありますまい」
「しかし、それで王室に累が及べば──」
思わずシャヴィが、背後のジャミラ人を振り返った。
「それは、陛下が判断しご決断される事です」
自然な笑みを湛えたヤンネの、答える柔らかな口調は、冷たく遇う訳でも、説き伏せる風でもなかった。
「小生どもが、口を挟んで良い事柄ではありません」
「・・・・・・」だがそのヤンネの態度が、シャヴィを尚更自責に追い込む。「──俺は守るどころか、余計な事をしたのかも知れない」
「さあ、それもどうでしょう・・・?」
今度は如何にも勿体振った口調で、ヤンネが可笑しそうに言った。
「ヤンネ・・・?」
「政治的な事はさて置いて、少なくともデジャーソリスの血を引かれる二姫さまです」
訝るシャヴィに、ヤンネが巨きな肩をこれ見よがしに窄める。
「必要とあらば、我が身を盾にしてでも、お立ち向かい遊ばす御方たちですよ。努々(ゆめゆめ)、侮られませんように、お気を付けなさいませ」
じっと見返して来るシャヴィに、腰を折ったヤンネがその顔を覗き込んだ。
「貴方さまに思いを募らせておられる姫君は、少なくともそう言う御方なのです」
「──それは、男冥利に尽きる、と思って良いのか・・・?」
少し照れたような面映ゆい表情を、シャヴィが浮かべる。
「勿論です」
間髪入れず、ヤンネが頷く。
「銀河中を探し歩いても、あれほど美しくもご聡明な方は、2人と見つからないでしょう」
「勿体ないお化けに取り憑かれそうだ」
所作に困ったようなシャヴィが、首を竦めた矢庭。
大人のマフィン(おまんまん)と言うものじゃ──いきなり脈絡不明な、しかも如何にも淫猥下品なファラからの言葉に、シャヴィが思わず振り返る。コンスタンツェ、ファラ、ガートルードの3人の後ろ姿が、何時の間にやら直ぐ手が届きそうな程に来ていた。
* * *
「──恩に着る、ウェスデン王女殿下」
摺り足で下がりながら、ファラの横に並び立ったコンスタンツェが、周囲に気を巡らせながら言った。
「言っておくがな、コンスタンツェ──」
ファラは一呼吸置くと、すっと左足を引いて後退り始めた。
「汝に恩を着せ着せした覚えはない。あくまで、あの殿方が、先程に我が身を庇ってくれた事への礼々儀々(れいれいぎぎ)じゃ」
「其方の性分は存じているつもりだ、ファラ」
油断なく聖剣を構え、絶えず周囲に目を走らせる二姫は、顔を合わさないものの見事に呼吸を合わせ、1歩2歩と歩調を揃えて後退る。
「だが某も、今はマイ・ロード(我が殿)に養生して頂く事だけを案じている故、察して賜れ」
「──畢生を断固として、か」
コンスタンツェの言葉に、ファラは深く感じ入ったように静かに声を漏らした。
「汝の言い放ったあの言葉、汝のあの殿方に対する、思慕だけは犇々(ひしひし)と察しておる。決して軽々(かろかろ)と聞いてはおらぬ」
ガートルードがクーガを伴い、スキップするような足取りで後退りながら二姫に合流した。ガートルードが二姫の前に立つと、ファラとコンスタンツェがその両脇に並び立ち、身を斜めにしながら横合いへ注意を払う。
「──姫御前」
ついっと前に出て、横っ飛びに下がりながら殿を勤める、漆黒の巨きな人造犬に、ガートルードが軽く顎を抉った。
「先程から我らに従っている、あのベルセルク(動物型義工器械)は一体何なのですか・・・?」
「某の貞操を守ってくれる友人、いや、友犬だ」
「姫御前の・・・?」
ガートルードが、えっと驚いた表情で、左斜め後ろで剣を構えているコンスタンツェの横顔を横目に見遣る。
「正確には、マイ・ロード(我が殿)の相棒だ」コンスタンツェは表情を引き締めてはいるものの、声音は如何にも嬉しそうだった。「シャヴィと共にずっと、この身を案じてくれていたのだ」
「味方、なのですか・・・?」
シャヴィと共にずっと、と言う主人の言葉に、面目を失ったガートルードが僅かばかりに顔を曇らせる。
「コーン・マフィンを褒めた礼に、いの一番の友人にして貰ったのだ」
だがコンスタンツェの方は、気にする素振りどころか自慢気に言葉を返す。
「──コンスタンツェよ」
それにファラが、少し驚いた言い草で口を挟む。
「汝はあの殿方から、陰毛薄々のマフィン(おまんまん)を褒め褒めして貰える仲なのか・・・!」
「誰が薄々だ」コンスタンツェが可愛らしくもぶう垂れるように言った。「まあしかし、そこが問題なのは確かだな・・・」
「どう言う意味意味じゃ・・・?」
語尾を濁すコンスタンツェに、ファラが訝った。
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written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




