Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・4
「ガートから聞き及んでいるだろうが──」
一呼吸置いたコンスタンツェが、溜め息交じりに口をヘの字に曲げた。
「先だって刺客に襲われた際に手を延べてくれたのが、あのメルヒオールの間者なのだが、風呂上がりだった所為もあって、ローブ1枚だった某、彼奴の前で不用意に股を割ってしまい、秘所を覗かれたやも知れぬのだ」
「ふうむ。だとすると、きっぱり口を封じておけば良かったな」ファラが物思わしげに愁眉を寄せる。「口さがない王室取り巻き雀どもに、薄胸薄毛の姫などと、醜々聞々(しゅうしゅうぶんぶん)を広められかねんではないか」
「胸が薄いのは自覚しておるが、育ちの悪いお子さま薄毛カント(おまん)などと噂を立てられてみろ、女子として末代までの恥」
「ウィスピィ・プッシィ(禿げ猫)のような汝が、中途半端に生や生やするから、駄目なのじゃ」高飛車な自慢気に、ファラが声音を強める。「吾のように、日頃から常に綺麗に処理処理しておくのが、大人のマフィン(おまんまん)と言うものじゃ」
「何の話をしてるんだよ・・・」ファラが言った尻から、呆れるような声が背後から投げられる。「──プリンセスが2人して」
その声に、咄嗟に反応して振り向いたのは、マデルーク王女だった。
「これは為たり・・・!」
場都合悪そうに上目遣いで見返して来るコンスタンツェに、シャヴィは潮吹面のように口を曲げて呆れていた。
「慎みに欠ける四方山話を、お耳に入れてしまうとは」
シャヴィの左を固める様に、直ぐ脇に立ったコンスタンツェが、口を尖らせ横目にファラを見遣る。
「──大体、其方が、陰毛薄々のマフィン(おまんまん)、などと言い出さねば、気品を保てたのだぞ」
「何を言うか、虚々(うつうつ)け」同じく右に並び立ったファラが、シャヴィ越しにコンスタンツェを横目に睨む。「そもそもは、薄っぺらいマフィン(おまんまん)を見られた汝が迂闊なのであろうが」
「はいはい二姫さまとも」ヤンネが溜め息一つ、肩を聳やかしながらも、半ば諦め口調に小言を垂れる。「立派な殿方の前では、せめて慎み深い淑女の仮面をお被り下さいな」
二姫の殿を務め、後退って来たガートルードですら、周囲への警戒を怠らないながらも渋い表情を隠さない。
「仮面とはなんじゃ、仮面とは」
「ヤンネ、某はファラと違って──」
抗弁するファラとコンスタンツェの言葉を遮って、ヤンネが腕に通し抱えていた飛翔のディアデム(飾り冠)を、恭しくコンスタンツェに差し出した。
「二姫さまとも、鉄火なデジャーソリスの血を引く証、どうぞお忘れなきように」
「鉄火なデジャーソリス、か」
小さく頷いたコンスタンツェが剣を手にしたまま、ヤンネからディアデム(飾り冠)を左手で受け取ると、直ぐさま振り返って声を上げた。
「──クーガ・・・!」
コンスタンツェに呼ばれたクーガが、半歩下がりながら向きをを変え、とっとっとっと足取り軽やかにコンスタンツェの元へと駆け寄った。コンスタンツェは、見上げて来るクーガの、その尖った右耳に自らの飛翔のディアデム(飾り冠)を通し掛ける。クーガにちらりと目配せしたヤンネが、今度は芳葉のディアデム(飾り冠)をファラに差し出した。
ファラは、コンスタンツェにくいっくいっと尻尾を振っている、翼飾りのある銀のディアデム(飾り冠)を載せた黒い巨犬に目を細め、ヤンネに、ちょっと待て、と仕草を返した。
「コンスタンツェ、汝の番犬は、なかなかに愛い愛い奴じゃな」
そう言いながら、ファラがひょいひょいとクーガを手招きした。
「クーガとやら、此方へおじゃれ」
くうん、と鼻声を鳴らしたクーガが、再び向きを変え、シャヴィの眼前を横切って、ファラの元へと駆け寄る。
「──ほれ、吾のディアデム(飾り冠)も持っておれ」
ヤンネからディアデム(飾り冠)を受け取ったファラが、見上げて来るクーガの左耳に、芳葉のディアデム(飾り冠)を掛け載せた。
「こら、ファラ。クーガは帽子掛けではないぞ」
思わず苦言を漏らすコンスタンツェだが、ファラは一顧だにしない。
「クーガよ──」目の前で見上げて来る、黒いヴェルテブロイド(脊椎動物型義工器械)の長い鼻面を、ファラが愉快そうに覗き込む。「汝を見るに付け付け、どうやら飼い主は、充分に信々頼々(しんしんらいらい)に足る人物のようじゃな」
カメリア・レッド(椿紅色)の髪のプリンセスが、横目にシャヴィを振り返る。如何にも御侠そうな、くくっと北叟笑むファラに、シャヴィは嘆息しながら、ヘの字に曲げた下唇を小さく突き出した。
「──ヤンネ、その殿々方、艦に乗り乗りするまでは、無茶をさせるでないぞ」
ファラの言葉に、ヤンネが委細承知とばかり大きく頷く。
「では二姫さま、マジェスタ卿もシャヴィ殿も、急ぎ此処をお暇させて頂きましょう・・・!」
そう言い放つと、体躯の巨きなジャミラ人がシャヴィの背後から手を差し伸べると、いきなりその体を抱き抱えて持ち上げた。
「おいおい、あんた!」唐突な出来事に、シャヴィが珍しく狼狽したように慌てふためく。「何をする・・・!」
「ヤンネです。ヤンネ・キャラミ」
意に介さない素振りのジャミラ人は、はぐらかすようにしれっと言葉を返す。
「ノービギー(大した事ないんだ)! ヤンネ! 自分で歩ける・・・!」
「意外と強情っ張りですわね、貴方さまも」
長身のシャヴィを抱えたヤンネが、くるりと踵を返すと、ボーディング(乗艦)・リフト棟の方へとさっさと歩き出す。と同時にコンスタンツェが、手にしていた剣の切っ先を下向きに逆手に持ち替え、背の裏に隠しながら早足に歩み寄り、横合いから真剣な眼差しをシャヴィに向けた。
「マイ・ロード(我が殿)」
歩調を合わせて歩むコンスタンツェは、その気高さに全く似付かわしくない、懇願するような真剣な面持ちを浮かべていた。
「お怪我をされておられないのであれば、どれだけ強情を張られようと付いて参りますが、どうか今だけは、このスタンツィの言い分をお聞き入れ下さい」
「だからと言って、大の男がお姫さま抱っこでは──」
片意地張ろうとするシャヴィの顔を、深く覗き込んだコンスタンツェが、有無も言わせずキスで口を塞いだ。一驚したヤンネが、シャヴィを抱えたまま足を止める。
束の間、深く深く接吻していたコンスタンツェが、仄かに頬を染め、ゆっくりと紅唇を離した。
「スタンツィ・・・」
「これ以上無理をなされて、万が一にも何かあれば、某・・・」
そこまで言って、コンスタンツェがぐっと歯を食いしばる。口を真一文字に結び、見詰めて来る翡翠色の瞳が、見る見る潤んで行く。それでもコンスタンツェは、涙を零さないように表情を強張らせた。
“コンスタンツェには、全く似付かわしくない表情だ──”
シャヴィの心中に、思い掛けない後悔と小さな痛みが走った。
「──分かったよ、スタンツィ」
少しばかり気張っていたシャヴィの身体から、一気に力が抜け落ちた。
「今は素直に従うよ」
思い余って言葉を詰まらせていたコンスタンツェが、無言で小さく頷くと、今にも泣き出しそうな表情のまま顔を綻ばせた。
安息とするコンスタンツェに、シャヴィを抱えるヤンネは微笑みを浮かべ、ファラに軽く目配せすると再び歩き出した。コンスタンツェとファラは、先を行くヤンネに遅れじと、少しスキップ気味の早足で付いて行く。ガートルードがシャヴィを抱えるヤンネの前に出て、一行の先鋒でフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を構える。
勿論、襲撃の手が束の間に熄んでいるとは言え、敵中にあっては気を抜ける状況ではない。急くように足を繰るヤンネが長身でコンパス(歩幅)も大きいので、警戒しながら付き従うコンスタンツェ、ファラ、ガートルードは、必然的に小走りになる。
一行から片時と離れないクーガは、ヤンネの進む速度に合わせながらも、シャヴィたち5人から1メートルほど距離を置き、トロット(速足)で周回しながら警戒し、威圧を振りまく。
ただウェルカム・デッキ(迎賓甲板)に居るヒイェラの軍勢は、勇猛を鳴らしたトラニオウですら立っているだけで精一杯の状況で、負傷した儀仗兵も含めて、再度手を出そうとはして来なかった。ウェスデンとの交渉の矢面に居るロダリーゴにとっても、これ以上に事態を悪化させてしまうと、ウェスデン側の態度を一層硬化させるだけだと判断せざるを得ず、漫然と見送るしかなかった。
「──それにつけても、コンスタンツェよ・・・!」
ヤンネの左で歩みを揃え、油断なく周囲に目を走らせるるファラが、背向こうにいるコンスタンツェに声を張り上げた。
「汝、先々程々(さきさきほどほど)から、何度接吻をしておるのじゃ! はしたないにも程々(ほどほど)があるでおじゃろう・・・!」
「ファラよ・・・!」
窘めて来るファラに、弱みは見せられぬとばかり、コンスタンツェは気を一転させ、応じるように大声を返す。単なる厭味ではなく、ファラなりの気遣いの言葉掛けである事は、コンスタンツェとて察している。
「其方の様な性荒い女子なぞ、一生頂けぬアプリコット(杏桃)の味だな・・・!」
「一体、何じゃ、アプリコット(杏桃)とは!」鼻っ柱も強く言い返して来たコンスタンツェに、ファラも、くくくと薄笑みを浮かべて揶揄返しする。「萎らしい喩えを述べ述べしおるとは、汝、まるで恋する乙女子のようではないか・・・!」
ファラとてコンスタンツェからの煽り文句に、唯々諾々(いいだくだく)と項垂れるような気性ではない。
「ふふふ、それになファラ、其方、知っておるか・・・?」
「何と不敵な、その物言い」
自慢気なコンスタンツェの口調に、ファラは背を向けたまま柳眉を吊り上げる。
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written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




