Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・2
「シャ・・・シャヴィ・マイ・ロード(我が殿)・・・!」
手にする聖剣レプラコーンを、牴牾しそうにスキャバード(鞘)に納めながら、マデルーク王女がシャヴィの元へと息急き切って駆け込む。流れるようなウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪を振り乱し、眩しい足を惜しげもなく精一杯繰り出すコンスタンツェは、ミニスカートにもならない羽織ったシャヴィのシャツの裾がすっかりと捲れ上がってしまい、桜色の可愛らしい尻までが丸見えだった。
「──脇腹、かなり痛みますか?」
コンスタンツェは喜びと心配が綯い交ぜになった複雑な笑みを浮かべ、ヤンネに支えられているシャヴィの顔を覗き込んだ。
「今のところは・・・大丈夫・・・だよ・・・」シャヴィが左脇腹に手を当てながら、苦笑いした。「──少し・・・骨折してる・・・かも知れんが・・・」
「骨折・・・!」血の気を引く思いをしたコンスタンツェが、不安そうな横目でヤンネを見遣る。「それでは、大怪我ではないのか・・・?」
ヤンネが安心させるように小さく笑むと、頑丈そうな御方なので大丈夫ですよ、と呟くように言葉を返す。その矢庭、少し急き立てるような、ファラの怒鳴る声が聞こえた。
「──コンスタンツェ・・・!」
その呼び掛けに、シャヴィとコンスタンツェが首を巡らせる。
観念したように背を丸め、床の上に胡坐をかいている長身のスナウトに対し、ファラが手に握るスプリガンの切っ先を、スナウトの束ねた山鳩色の髪の下の後ろ首に突き付けていた。
「──此奴は一体、何々(なになに)者だ・・・?」
ファラの言葉を受け流すように、シャヴィがコンスタンツェを振り向く。
コンスタンツェは、シャヴィを1人にして置けないとばかり、少し逡巡する素振りに心配げな笑みを返す。それを察したシャヴィが、大丈夫だよ、とコンスタンツェに小さく頷いてファラの方へ促した。コンスタンツェも小さく頷き返すと、爪先立ってシャヴィの耳元で懇願するように囁いた。
「──大人しく待っていて賜れ。マイ・ロード(我が殿)」
背伸びしたコンスタンツェが、そのままシャヴィの頬にキスを残し、くるりと踵を返すとファラの方へと大股を繰った。
その微笑ましい風情に、傍で見ていたヤンネが思わず顔を綻ばせた。
「──何にせよ」
駆け込んで来るコンスタンツェを、ファラが横目に見遣る。
「この素っ首、此処で刎ね刎ねても構わぬな・・・?」
スナウトの首に突き付けているスプリガンの切っ先を、ファラがぐいっと押し込む。痛みを感じたスナウトが、反射的に首を竦めて顔を顰めた。剣と言っても剃刀のように切れ味が鋭い訳ではないが、尖った先を押し付けられては、かなりの鋭痛を感じる。
「待て、ファラ」
手を出してファラを制したコンスタンツェが、ゆっくりとスナウトの正面に回り込む。毅然と立ったコンスタンツェが腰に手を当て、威圧感のある声と共にスナウトを睥睨した。
「──貴様、この度だけは慈悲で見逃してやる」
唐突なコンスタンツェの言葉に、スナウトが驚いたように顔を上げた。
「コンスタンツェ・・・?」
ファラですら、不用意に温情を掛けるコンスタンツェに、訝った。
目の前の悪漢は謙譲を忘れていないものの、明らかに好意的とは言い難い。何しろたった今、コンスタンツェの意志に反して攫おうとしたのだ。
ファラもそうだが、コンスタンツェも決して甘い姫君ではない。
切った張ったに怖じ気づくような姫ではないし、立場を弁えているからこそ、冷酷に詰め腹を切らせる事も臆さない。二姫とも必要なら、首を刎ねる事さえ厭わない。
だがファラの疑念を他所に、コンスタンツェは毅然と言葉を継いだ。
「貴様、此処から帰参した後、主に事の次第を細大漏らさず、生々しくも確と報告するが良い」
「主・・・?」
ファラが思わず声を返した。
「此奴の主は、メルヒオールだ」
振り向いたコンスタンツェが、ファラに対して口をヘの字に曲げて見せた。
「なんじゃ、コンスタンツェよ」コンスタンツェを見返すファラは、同病相憐れむとばかり、憐憫の面持ちながらも小さく肩を震わせた。「汝こそ、メルヒオール殿下に言い寄られていたのは事実であったか」
「ガートから聞き及んでいるやも知れぬが」ファラの言葉に小さく頷いたコンスタンツェが、小さく肩を窄める。「此奴は、マンスリアン城で襲われた際、結果的に手助けしてくれた、メルヒオールの手の者だ」
再び向き直ったコンスタンツェが、見下すスナウトに言い切った。
「──その縁もある故だが、この次はない」
「殿下は、一体全体、何を為されようとしているのです・・・?」
スナウトが困惑の表情でコンスタンツェを見返す。
「──これでは、メルヒオール殿下もお困りになられます」
「お困り・・・?」
厳しい顔付きを見せていたコンスタンツェが、いきなり冷笑した。
「はッ! それは真に滑稽な余興だ!」
くくくと、含み笑いをたっぷり見せてから、コンスタンツェが堂々と口火を切った。
「手に入らなかった某の破瓜、逞しき殿方に抱かれるこの身が、随喜に悶える様をスパンク・バンク(おかず)にして、1人寂しくワンク(自慰)でもするが良かろう」
ぽんぽんと口を衝く、そのやんごとなき身分からは想像を絶する、コンスタンツェの下品下劣で煽情的な言い回しに、スナウトが思わず絶句する。
「──いや、いっその事、デスデモーナ姫に手伝って貰ったらどうだ?」
早口に一気に捲し立てたコンスタンツェが一呼吸置くと、態とらしい卑俗な笑みを浮かべた。
「きっと某より夢見心地で、ゲット・オフ(絶頂)できるやも知れぬぞ」
「こらこらコンスタンツェ」
思わずファラが、諌める口振りながら、愉快そうに口を挟む。
「ワンク(自慰)とかゲット・オフ(絶頂)など、マデルークの姫は相々(あいあい)変わらず口が汚いでおじゃるな。もう少し慎み深い言葉を選べ」
「ならば、其方なら何と申す?」
マデルーク王女に矛先を向けられたウェスデン王女が、衒いなく言い切った。
「セルフ・プディング(千摺り)にクリーミング(射精)」
「くははは、プディング(腸詰め挽肉)にクリーム(乳脂肪)とは・・・!」コンスタンツェが文字通り、腹を抱えて噴飯した。「さすがウェスデン王女、実に粋な言葉遣いをするものよ!」
「さてはコンスタンツェ──」
コンスタンツェの態度に、何かを察したファラがにんまりとした。
「汝とて、情けを掛ける建前で、事の次第を赤裸々にメルヒオール殿下に知らしめて、焦らしながら当て擦る腹積もりでおじゃろう・・・!」笑窪を拵えるファラは、粗野な含み笑いを隠さなかった。「マデルークの王女殿下こそ、何と性々悪々(しょうしょうわるわる)な女子であろう事よ・・・!」
「ファラ、其方もいっその事、ロダリーゴに脱ぎたてパンティでも置いて行ってやったらどうだ?」今度はコンスタンツェが、にんまり顔でファラを見遣る。「──セルフ・プディング(千摺り)でクリーミング(射精)とやらに役立つぞ」
「くくく、良い良いじゃな・・・!」ファラは肩を震わせて哄笑しながら、正面向こうのゲスト・ウィング(迎賓棟)屋上に立つ、線の細い人影を見上げた。「──ええ、ロダリーゴ・プルンチット閣下殿・・・!」
ファラは声を張り上げながらも、切っ先を突き付けている後ろ姿のスナウトには気を配っている。勿論、スナウトの正面に立つコンスタンツェも、直ぐに鯉口を切れるようには気張っている。
「残念ながら、今回の貴様からのお誘いは、固辞固辞させて頂く・・・!」
ふう、と大きな息を吐き出したファラが、豊かな胸を一層反らせた。
「何れ、気が向いたら爪の垢々(あかあか)でも送り付けて進ぜる故、吾と思って夜毎に臭い悶々するが良いわ・・・!」
屋上のロダリーゴは、苦虫を噛み潰したような表情で、無言のまま見返して来ていた。
「ふうむ。ロダリーゴは、臭いに性的興奮を示すのか」ファラの言葉を聞いたコンスタンツェは、にやにやしながらトラニオウを振り返る。「他の兄弟も、実に怪しげだな」
トラニオウは何時の間にか、その巨躯を立ち上がらせていた。勿論、右斜め後ろに立つガートルードが、その右脇腹に剣を突き付けている。
トラニオウ自身は、腑煮えくり返る風情で、二姫を睨み据えていた。
シャヴィが投げ付けた工具を受けた、トラニオウの厳つい顔面は血糊でべったり汚れ、クーガに噛み付かれた右腕も、制服はびりびりに破けて血塗れだ。しかもその右腕は完全に骨折しているのか、腕全体が力なく肩口から垂れ下がり、再び噛み付かれた左腕を力なく添えているだけだった。
トラニオウは剣を握る事さえ儘ならないのは明らかで、その気力だけでは如何ともし難いほど、酷い手負いの状態だった。
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written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




