Act.11 慎み深くもパンティを穿(は)く姫君たち・1
「この度々(たびたび)の、吾に対する、そしてウェスデン王室に対する、貴国の振る振る舞い舞い──」
ファラが、ブラウスの下で豊かに盛り上がる胸を、大きく反らせ上げる。
「明らかに、プロトコル(外交儀礼)にすら悖るものでおじゃろう・・・!」
はっきりとした、澱みのないファラの声が、厳かに冴え渡る。まだ靄掛かる向こうに見えるゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上に立つ1つの人影を、ファラは微動だにせず睨み上げていた。
「──本当に、それで宜しいのですか? 王女ファラ殿下」
モスグリーン地にオレンジのパイピング(飾り縫縁)も瀟洒な、立て詰襟のヒイェラ宇宙軍将官軍服を着るロダリーゴ・プルンチットが、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上を囲むパラペット(扶壁)に右足を掛け、見下すように身を乗り出していた。
「もう少し、実のある顔々(かおかお)の突き合わせ方を期待していた吾が、単なる世間知らずの大間抜けだった、と言う事でおじゃる」
往なすような口調のロダリーゴに、ファラが不敵な自嘲の笑みを浮かべる。
「貴国の未来を、共に切り開いて行きましょう──そう申し上げたつもり、だったのですが」
肩に掛かる濃い鼠色の総髪を、ロダリーゴが軽く撥ね上げた。
「そのような世迷々言は、初夜を共々(ともども)にした後に申すのじゃな・・・!」
山吹色の円らな瞳を吊り上げたファラが、くくくと声を漏らして嘲笑う。
「尤も、吾と閨を共にしたい、と嘆々願々(たんたんがんがん)するのなら、先ずはその蚯蚓のような撚れ撚れ髪の寝首を、ばっさり掻かせて賜れ。然すれば破瓜破瓜の1つや2つ、差し出しても良いぞ」
「──なんじゃファラ、やはり其方は、ロダリーゴに言い寄られておったのだな・・・?」
コンスタンツェは身を起こそうとしているシャヴィに手を添えながら、眼前に立ち塞がるファラの後ろ姿に言葉を投げ、それから改めて梁上の君子ならぬ、屋上の三弟君子に向かい、当て擦るように声を張り上げた。
「まあ、デジャーソリスの血を引く女子の処女血を浴びれば、永遠の生命が手に入る、と言うらしいからな」
「──ならば、彼奴の首1つだけでは割が合わぬな」
然も忌々しそうに顔を歪めて、ファラがコンスタンツェを振り返った。
「プルンチット親子の首級5つ、首々(くびくび)揃えて来たら考えてやるか」
仁王立ちで屋上を見上げていたファラは、汚れ切ったスカートをあっさり脱ぎ捨てているので、コンスタンツェ同様、その眩しくも瑞々躍々(ずいずいやくやく)とした太腿から下を、惜しげもなく晒していた。
「しかしな、ファラ──」
半身を起こして片膝突くシャヴィに、此処に居て下さい、と声を掛けてから、コンスタンツェが聖剣レプラコーンを手に颯爽と立ち上がる。
「既に梟首を曝されておれば、不老不死もあるまい?」
マデルーク王女が長いウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪を軽く戦がせ、長い足を大股に繰って、ファラに歩み寄る。
「これは為たり」
カメリア・レッド(椿紅色)の髪も、競うように妍しいウェスデン王女は、コンスタンツェを横目に、嫋やかな肩を態とらしく窄めて見せた。
「首だけでは、吾の体を玩々弄々(がんがんろうろう)する訳にもいかぬか・・・!」
クククと、ファラが再び含み笑いを見せ、コンスタンツェが憐憫と嘲笑が混じった顔で、お互いを見遣り合った刹那。
二姫眼前の、霞む靄が、一瞬薄れて揺らいだ。
その変化に、咄嗟に動いたのはシャヴィだった。
ファラの脇を抜けたシャヴィが、左足で床を蹴る。と同時に、ステフ・スナウトの黒い影が霞を巻いて飛び出して来た。
スナウトは、二姫の足元を掬おうと、右手のナイフを逆手に握りながら、身を低くしたまま一直線に駆け込んで来ていた。それをさせまいと、咄嗟にシャヴィが、無理やり躰を捻りながら横っ飛びした。
スナウトに気付いた二姫が、反射的に身を仰け反らす目の前で、シャヴィがスナウトに掴み掛かる。シャヴィはスナウトへ体ごと抱えるようにタックルを食らわせ、腕でがっちりと捕らえたまま、2度3度と床の上を転がった。
それでもスナウトは転がりながら、咄嗟に右腕を突き上げた。逆手に握っていたナイフの刃筋が、シャヴィの左脇腹を逐る。痛撃に顔を歪めて手を緩めたシャヴィを、スナウトが咄嗟に蹴飛ばし跳び退く。
ごろごろと勢いそのまま転がるシャヴィに、離れたスナウトが床に片膝突いて体勢を整える。スナウトがナイフを軽く放り上げ、宙で順手に掴み直し、まだ蹲るシャヴィ目掛けて斬り掛かろうとした刹那。
「──動くなッ! 下郎・・・ッ!」
有無も言わせぬ言葉と同時に、後ろ首に冷たい突き先を感じたスナウトが、ゆっくりと首を巡らせる。見上げる先、聖剣スプリガンを突き付けて来るファラが居た。
スナウトに組み付いて、巴のように転がって行くシャヴィに、一呼吸遅れたものの、咄嗟に駆け出したのがファラだった。
だが、更にその隙を更に突いたのがトラニオウだった。
靄の帳を裂き、巨躯を躍らせ現したトラニオウは、独りになったコンスタンツェを、力で組み伏せようと目論んだ。ファラに遅れて、コンスタンツェがシャヴィの方へと身を翻した矢先だった。
振り向いたコンスタンツェが、躱そうと反射的に身を投げ出す。コンスタンツェの細い足首に、トラニオウの太い血塗れの右腕が伸びる。
捕まる──コンスタンツェがそう覚悟した矢庭。
地に突っ伏すコンスタンツェの真上を、いきなり黒い巨きな影が飛び越した。
ぐへっと醜い呻きを上げたトラニオウが、半身を返されながら床に叩き付けられた。折れ残った剣を手にするトラニオウの左の二の腕に、クーガが再びその咬牙を深々と突き立てていた。
トラニオウを押し倒したクーガが、身を攀じらせながら一旦口蓋を解くと跳ね退き、床に転がるトラニオウの3メートル向こうへ着地する。間髪入れず向きを変えたクーガは、床を蹴って再びトラニオウに襲い掛かった。
咄嗟にトラニオウは、左手に握る折れ残った剣を斬り上げたが、所詮は蟷螂の斧だった。折れた切っ先はクーガの頚元に届いていたが、同時にその左前腕はクーガに深々と噛み込まれていた。相打ちのように見えて、200キロ近い巨きな人造獣に仰向けに伸し掛かられた上、満身創痍のトラニオウでは、容易に身動きできなくなっていた。
「──其方の負けだ、トラニオウ。観念しろ・・・!」
凛とした声が、トラニオウの耳朶を打つ。
ちッ、と舌打ちするトラニオウの喉元に、マデルーク王女が突き出すレプラコーンの切っ先が突き付けられていた。
クーガからの忠義の助勢で、辛くもトラニオウの手を逃れたコンスタンツェは、嫋やかな太腿も剥き出しに前へ一回転すると同時に身を翻し、聖剣レプラコーンを握り直すと、臆することなく直ぐさま反撃に出た。
倒れ込んだトラニオウに、コンスタンツェが聖剣レプラコーンで詰め寄るのと、ファラがスナウトに、動くな、と聖剣スプリガンを突き付けたのが、ほぼ同時だった。
少しばかり血相を変えたヤンネがファラの側に走り込み、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を握るガートルードが、心配そうな面持ちでコンスタンツェの方へと慌てて駆け寄った。ヤンネはファラの聖剣スプリガンの下で、諦めたように肩を落とすスナウトの手からナイフを奪い取ると、我が身の制服の外ポケットに突っ込んだ。
「──ヤンネ、そちらの殿々方の面倒を頼む」ファラはスナウトから視線を外さず、スプリガンを突きつけたまま言った。「また無茶をしでかすと、コンスタンツェが泡々(あわあわ)と泡を吹く」
ファラの言葉に小さく頷いたヤンネが、少し離れた場所で起き上がり掛けているテラン(地球人)のオッド・パーン(半端な宇宙船乗り)の方へと駆け寄った。
一方のガートルードも警戒を解かないまま、歯を剥き出しに睨み返して来るトラニオウの左手の指を開き、折れ残った半分の長さの剣を取り上げていた。途端、憤っていたトラニオウの全身から力が抜け落ち、聳やかしていた巨きな両肩ががっくりと落ちた。
コンスタンツェが、もう放して良いぞ、と声を掛けるとクーガはそっと口蓋を開き、伸し掛かっていたトラニオウの体の上から、1歩2歩と退いた。少しでも動いたら、躊躇わず首を刎ねろ、と早口にガートルードに言い残し、コンスタンツェはシャヴィの元へと、いそいそと踵を返す。コンスタンツェが心配そうに見遣る先、シャヴィはヤンネに抱えられて、身を起こそうとしていた。
「──少し・・・聞きたい事が・・・」
手を伸べて来るヤンネに、シャヴィが少しばかり苦しそうに声を上げる。
「ファラ王女も、此処から・・・出て行きたがっている・・・のか・・・?」
「ええ、結論的にはその通りですわ」
シャヴィの右から左の腋窩を抱え込むヤンネが、衒いなく答えた。
「なら頼みが・・・」ヤンネの巨きな肩に手を掛けたシャヴィが、大きく息を吐き出して言葉を継いだ。「彼女を、スタンツィを、一緒にウェスデン王室へ、連れて行ってやってくれないか・・・?」
「心配召されますな。概ねは、マジェスタ卿からお伺いしています」
「・・・あ・・・ああ、あの・・・頼りになるアテナ(女傑)か・・・」
笑みを浮かべて小さく頷くヤンネに、少しばかり安堵の息を吐いたシャヴィが、首を巡らせる。
肩で息をしながら、早足に駆け寄って来るコンスタンツェの向こうには、仁王立ちしてトラニオウの後ろ首筋に切っ先を突き付けるガートルードの姿があった。しかもその傍らにはクーガが、少しでも面妖しな素振りをトラニオウが見せたら、容赦なく喉笛を噛み千切ってやるとばかりに、いつでも飛び掛かれるように身を低めて構えている。半ば寝そべるような格好のトラニオウは、上半身だけを攀じって起こし、忌々しそうな表情でコンスタンツェの後ろ姿を見詰めていた。
★Act.11 慎み深くもパンティを穿く姫君たち・1/次Act.11 慎み深くもパンティを穿く姫君たち・2
written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




