Act.10 どうか二度と離さないで・3
クーガは、ぐるる、と唸りを上げると、押さえ込んでいた前脚を退け、2歩3歩と後退った。横たわるバイオーグ(機能補強生体)・ズィーボルは既に虫の息で、身体の方が少し痙攣を起こしていた。
「す・・・凄い・・・」
クーガを初めて目の当たりにしたガートルードは、反撃を許さない電光石火の、その容赦しない攻撃に、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を握り締めたまま目を瞠って立ち尽くす。その矢庭、ガートルードの背後から不意に、呻き声が上がった。
「──シャヴィ・マイ・ロード(我が殿)・・・!」
コンスタンツェの絞り出すような声に、ガートルードが慌てて振り返る。
聖剣レプラコーンを掴み直したコンスタンツェが、這う這うの体で起き上がろうとしていた。思わずガートルードが駆け寄ろうとしたが遅かった。渾身の力を振り絞って立ち上がったコンスタンツェは、既に駆け出していた。
「──姫さま! コンスタンツェ殿下・・・!」
引き止めるガートルードの目の前で、3歩目を繰り出したコンスタンツェが、足を縺れさせて、再び派手に転倒する。
血相変えて駆け寄るガートルードだったが、コンスタンツェの翡翠の瞳は尚もあらぬ方を一直線に凝視する。コンスタンツェが見つめる先には勿論、何時の間にかトラニオウと争っているシャヴィの姿があった。
「──何の、これしき・・・ッ!」
ガートルードに支えられながら、必死に半身を起こしたコンスタンツェが、シャヴィを見遣った矢庭。
シャヴィが何かに足を取られて、滑るように派手に転んでいた。大の字に無防備な姿を曝すシャヴィに、トラニオウが半分に折れたフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を振り上げて襲い掛かろうとしていた。
「──マイ・ロード(我が殿)・・・ッ!」
コンスタンツェから、悲鳴に近い叫び声が上がる。
トラニオウからの殴撃を辛うじて躱したシャヴィだったが、後退って足を繰った矢庭、再び何かに足を取られて、大の字に背から無様に床に倒れ込んでいた。シャヴィは完全に追い詰められていた。
だが、そのコンスタンツェの悲痛な声に、クーガが反応した。
身動きしなくなったバイオーグ(機能補強生体)・ズィーボルの上に伸し掛かっていたクーガが、くいっと擡げた首を巡らせる。文字通り首の皮1枚残して縊られたバイオーグ(機能補強生体)は、黒に黄色の縞が入るその頭部が捻折かけていた。
「──シャヴィ・・・ッ!」
苦渋に顔を歪めながらコンスタンツェが再び叫ぶ。
何とか身を起こしたシャヴィ目掛けて、容赦ないトラニオウからの殴打が振り下ろされていた。折れた剣のささくれに服が引き裂かれ、左脇腹が血塗れになる。シャヴィは小さな呻き声を上げながら、逃げるように床を転がった。
その刹那、バイオーグ(機能補強生体)の躰の上から飛び退いたクーガが、跳ねるように向きを変え、低く前傾姿勢を取ったかと思ったら、いきなり力強く駆け出した。
「──ベルセルク(動物型義工器械)が行ったぞ! コンスタンツェ・・・ッ!」
投げられた声に、ガートルードが首を巡らせる。
キャラミに支えられながら、足早な歩を牴牾しそうに進めて来ているファラが居た。威勢良くコンスタンツェの後を追ったものの、精根果ててしまったファラは、歩くことも儘ならない様子だった。
と同時に、真っ直ぐ此方に向かって来る、漆黒の巨きな人造獣の姿が、ガートルードの瑠璃色の瞳に映る。
コンスタンツェが狙われる──咄嗟にそう思い込んだそう思い込んだガートルードが、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を握り直して身構えた時には、クーガはもう目と鼻の先だった。
ガートルードがコンスタンツェを背に、その身を投げ出しながら突きを入れる。
漆黒の人造獣の胸元を捕らえた、とガートルードが確信した一弾指。直前に一層深く4本足を折り込んだクーガが、4本の足をばねにして勢い良く跳躍した。
クーガは、突き込んで来るガートルードのフォイブル(剣先)を易々(やすやす)と飛び越え、その背に庇っているコンスタンツェすら物ともせず、2人の頭上を大きく越え飛んでいた。
* * *
「刃の露と消えろッ! 目障りな土匪奸賊めがッ!」
大上段から振り下ろされるトラニオウのフォノンメーザー・ソード(電磁剣)が、シャヴィの脳天目掛けて襲い掛かる。
敵意を剥き出しにしたトラニオウの斬撃は強烈だった。
トラニオウから襲い来る容赦ない2撃目3撃目に、シャヴィが防戦一方に追い込まれる。斬り下ろされるトラニオウの切っ先に、シャヴィは体勢を整えるため、咄嗟に左へ跳ね飛ぶ。掠めるように、トラニオウの刃筋が空を斬る。シャヴィは間合いを稼ごうと、くるりと身を翻しながら、更に後ろへ跳ね飛ぶ。
血走る横目に睥むトラニオウが、間髪入れず巨躯に似合う大きな1歩を踏み込んで来る。フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を握る、トラニオウの太く長い腕が、手が、シャヴィを狙い伸びる。仰け反るように逃げるシャヴィの胸元を、トラニオウが繰り出す切っ先が、掠めるように切り裂いた。前身頃が更にざっくろと裂け、既に血みどろになっているシャヴィの胸倉に、血飛沫が舞った。
刹那、シャヴィの右足が、反射的に床を蹴飛ばす。
怒りに任せて切り返す剣を、トラニオウが身を無理矢理捩りながら、横殴りに薙ぎる。
バランスを崩しながらも後退ったシャヴィが、反射的にスプリガンを防ぐように立てて構え上げた矢庭。フォノンメーザーの強烈な閃光が弾けて、コヒーレント振動の破裂音が耳を劈く。
体勢が整わないシャヴィは、トラニオウからの刃筋を受け防ぐのが精一杯だった。
トラニオウからの渾身の斬撃で、受けたスプリガンを握る手首が返さた。
次の瞬間、手にしていたスプリガンが、弾かれたように手から飛ばされて、勢いに圧されたシャヴィの体が、半身に捩らせながらもんどり打つように床に倒れ込む。
刃筋を咄嗟に受け防がれたトラニオウが、振り返る巨躯に怒髪天を衝く形相で、睨み据えて来た。手にしていた得物を失い、床に転がるシャヴィの目の端に、負傷した儀仗兵が手放して放置してあったフォノンメーザー・ソード(電磁剣)が映る。
右足が本能的に床を蹴飛ばしたシャヴィが、剣に飛び付いた。
シャヴィの右手がヒルト(柄)を掴むと同時に、10メートルほど離れた赤と金のアラベスク(幾何学的文様装飾)が映し出された床へ、スプリガンが重い響きと共に突き刺さるように撥ね落ちる。矢庭、身を翻したトラニオウが、剣を振り被って襲い掛かって来ていた。弾かれたように跳ね起きたシャヴィが、片膝突いて刃筋を斬り上げ、真っ向立ち向かう。
「断末魔に、露と消えろ・・・ッ!」
脳天から真っ二つにせんものと、トラニオウのフォノンメーザー・ソード(電磁剣)が、シャヴィの真上から襲い掛かる。それを受け流そうと、シャヴィの剣が払い上げられる。お互い渾身の力が篭った一撃に、コヒーレントの破裂音が弾ける。その刹那。
シャヴィとトラニオウ、2人が握る剣が鈍い音を響かせる。その途端だった。
.両者のブレード(剣身)が、お互いに途中から折れ砕けた。
聖剣スプリガンへの度重なる斬撃で、脆くなっていたトラニオウの剣は真ん中から半分に、儀礼用で本から強度の薄いシャヴィが手にしていた儀仗兵の剣は、手元側3分の1を残しただけで、折れた切っ先側のブレード(剣身)が小さく宙を舞っていた。
そして、剣と剣が激しく打つかり合った、当のシャヴィとトラニオウは──。
まるでベースボール・バッター(野球打者)がフル・スウィングで空振りしたように、渾身の力が篭った一撃が搗ち合って、お互い大きく体勢を崩していた。
トラニオウは体重のある分、振り抜いた後の勢いそのままに、巨躯を前のめりに足元を蹌踉けさせる。一方シャヴィも、肩透かしを喰らったように半身を返してしまい、仰向けになりながら右肩口から床へ投げ出されていた。
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written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




